75 交易都市
リュウの唱える南北の大陸を繋ぐプランが現実的なものとなってくると問題点もより現実的に発生してくる。
政務大臣からの質問がその問題点に関するものだった。
『あのう、ちょっとよろしいでしょうか?南北の大陸を繋ぐという夢の様な構想は大変すばらしい事だと思います。
そのすばらしさ故に、マキワのみが北の大陸の拠点として利益を上げてしまうと他の近隣諸国からの反発も想定されます。その点についてはどうしたものでしょうか?』
『はい、その点についても考えております。現在、北の大陸では各国との交流が希薄なものでギルドが唯一国の壁を取り払った組織で活動しているのみです。これからは北の大陸の各国も積極的に南の大陸との交流を図ってもらうべきだと思います。
その為にも各国の代表者を招いてマキワで進めようとしている計画の説明とその後の南の大陸との交流について賛同を求めてはどうでしょう。場合によっては北の大陸間での交通網を整備してローグへのアクセスを向上させることにより物流の発展させることも可能となり費用対効果も期待できます』
リュウは政務大臣の質問に端的に答えた。
『そうですね。わかりました。それでは私の方で諸国へ通達を行い、代表者協議を行ってこの計画への賛同を募ります』
南の大陸という今まで知ることのなかった地域との交流が図れ、その資源が手に入り、自国の産業の商売相手と成り得るのは魅力的な話だ。
リュウはこの話をきっかけに北の大陸の国同士の交流も深めることが進められるので都合が良かった。
リニアを各国と結ぶことで短時間での行き来や流通が行えるのだ。ローグをハブとして各国と繋ぐことにより今の数倍もの人や物の流れが起こる。経済波及効果は計算するまでもなく相当なものとなり、マキワの国力も数段上がることは確実だ。
利害が発生すると妬む国も出てくるものだ。特にガゼフ帝国の動きについては注意する必要がある。今度は魔族でなくガゼフ帝国自体が利益を求めてマキワに侵攻するかも知れない。
そうなる前に戦力差を含めてガゼフ帝国には釘を刺しておこうとリュウは考えていた。
こうして昼食会が無事終了した。
その場で各自解散となったのだが、マキワの領主と5大臣は官邸の別室で今後の打ち合せをすることとなった。
具体的に誰が何をするかの話で、リュウは南の大陸との橋渡し役を進めていかなければならない。エルフとフェアリーとの交流は果たせたが、この先まずドワーフを説得してトンネル工事を着手してもらわないと話が進まないのだ。ドワーフの協力を得たあとで獣人族にも会っておく必要がある。
魔族の不穏な動きに対してリュウが出向いて警戒を呼びかける当初の予定だったが、トンネル計画などローグ側での役割が多くあり、なかなか足を運べそうもないのでエルフの長老にお願いしてエルフの使者から注意喚起をしてもらう様依頼しておいた。
五大臣が集まるのは久しぶりだったが、領主は後継ぎが出来た事をこの場限りの内密事項として伝えた。
他四大臣もこの朗報にすごく喜んでくれた。正式な通達は後日となるが国民に早く知らせたいというのは同感だった。
重鎮が集まる少ない機会なのでリュウはこの機会にアカデミーの目的について語った。
『既に建物は完成しているアカデミーですが、現在講師となるべく人材をギルドに依頼しています。
このアカデミーは各方面のエキスパートを養成することを目的としていますが、ローグを学問の中心として置くことにより世界中の優秀な人材を集め輩出させローグの影響下に置くことも考えています。
建設を計画した時にはまだ南の大陸のことは視野には入れていませんでしたが、南北鉄道が開通した際の呼び水となることは確かです。ローグには南からの観光客だけでなく学生を住まわせることで国際都市のイメージを強めさせる効果も期待できます』
『婿殿の構想は底なしだな。よくぞそこまで考えられるものだ。数年前までの貧乏国のマキワからは想像つかない発展ぶりだ』
領主が貧乏だった頃を思い出してか感慨深く話をした。
『つきましてはアカデミーの学科については大臣の皆さんに主幹として面倒を見てはいただけませんでしょうか?
戦術科やハンター養成科には軍務大臣、法学科は法務大臣、経済学科は財務大臣、それ以外の学科は政務大臣とさせていただければと存じます。それぞれのエキスパートである大臣が主幹とあれば学生達も励みになると思います』
『なるほど。大臣達も当事者として頑張ってもらうのか。それはいい』
領主は他人ごとの様に喜んでリュウの案を受け入れた。
『領主様には理事長になっていただきます。理事には私も入りますのできちんと補佐させていただきます』
先程まで他人ごとだったのが自分も当事者になってしまった領主は苦笑いを隠せなかった。
『戦術科か、腕が鳴るな』
『法を学ぶと同時に今後の法整備に関しても学生に考えてもらいましょう』
『経済発展が著しいこのローグで学ぶことは有意義なこととなるでしょう』
『私は一体どんな学科の受け持ちとなるのでしょうか?』
それぞれの大臣の意見では否定的なものはなかった。但し、政務大臣の受け持つ学科がまだ明確ではないため本人は不安であるみたいだ。
『それではご賛同いただけたということで進めさせていただきます。今後学科講師の候補者をギルド会頭のナターシャさんからご案内が行くと思いますので面接に同席をお願いします。
正式な開校日はトンネル開通に合わせて三か月後としたいと思います』
いよいよリュウのプロジェクトが動き出した。
この後、リュウはクラリスの出力したトンネル計画図を持ってモノローグ工房へ向かった。
前回はトンネル工事のみの計画しか話さなかったが、駅の構想も伝えておく必要があった。それと、このプロジェクトが正式に承認されて開始することも伝えた。




