66 気がかり
一旦眠りについたリュウだが、今回の事件で不可解なことがり、気になっていたためすぐに目が覚めてしまった。
今回の事件は黒い影と言われる魔族が引き起こした事自体は疑う余地がないのだが、魔族がウランの洞窟にフェアリーを誘導して放射能汚染で混乱に陥れると言う事を果たして思い付くだろうか?
この世界では化学や科学の知識は著しく低く浸透していない。
洞窟での痕跡を調べたところ、ウランの化学反応があり、明らかに人為的に汚染を拡大させた跡が残っていたのだ。
化学反応は少なくとも元素や分子などの化学基礎知識がないと出来るものではない。それに猛毒性や放射能の理解があるのか黒い姿は防護服か何かを身に着けていたに違いない。
魔族でその様なことが出来る者が果たしているのだろうか?
リュウはずっとこの事が気になっていた。結論が出せなかったのでフェアリーの里長やエルフの長老には話していない。
リュウは考えがまとまらず、なかなか眠れないので思念でクラリスと会話をすることにした。
『クラリス、遅くにすまない』
””いいえ、マスター。私は眠ることがありませんのでいつでもお声を掛けていただいて結構です。お気になさらずに””
『俺が何を悩んでいるか判っているな?』
””はい、マスター。今回の騒乱の首謀者兼実行者についてだと推測します””
『正解だ。俺のカンが正しければ、今回の犯人は魔族ではない』
””人間ということでしょうか?””
『そうだな。人間だ。正しくはこの世界の者ではない人間。流れ人と呼ばれてる俺と同じ様な存在だ』
””今回の騒乱の汚染物質とその影響については私の知識にもございませんでした。その原因が異世界からの知識で引き起こされたというのであれば情報不足の理由が説明できます””
『そういうことだ』
””あのう、マスター宜しいでしょうか?大変言いにくいのですが・・・””
クラリスがいつも様な歯切れの良い言葉でなく何か躊躇う口調で話している。
『なんだ?言ってみろ』
””マスターの知識や記憶にはこの世界にない多くの情報が蓄積されています。それらを私に取り込ませていただくことは可能でしょうか?””
『なんだ?そんなことか。別に構わないぞ?むしろ何故躊躇うのかが不思議なくらいだ』
””なんといいましょうか。マスターにはしたない女性だと思われたくなかったので・・・””
なんだか妙に人間の女性の様な気の使いようだ。AIの人口知能だけでなく感性も変化するシステムだったか?リュウは首を傾げた。
『全く問題ない。気にしなくていい』
リュウに了解をもらいクラリスはリュウと思念リンクをしたまま情報をデータベースへと吸い上げた。
””御馳走さまでした。マスターの情報、美味しかったです””
『おいおい、なんか料理みたいだな。で、情報は役に立ちそうか?』
””はい、素晴らしいです。この様な高度な文明があるとは俄かに信じられません。これから大いに活用させていただきお役に立てるかと思います””
クラリスが吸収した情報はリュウが覚えている記憶だけでなく、潜在的な情報として蓄積されている記憶も全て取り込まれた。
例えば、リュウが学校で学んだこと、テレビのニュース。斜め読み程度の文献なども情報として残っているのでクラリスは膨大な異世界の情報が得ることが出来た。科学や数学、戦闘・戦術に関する物も全てであるため今後の助言には大いに役に立てそうだ。
『それで話は戻るが、流れ人が単独で行うとは思えない。こいつが魔族と手を結んで騒乱に加担していると考えるのが自然だろう』
””はい、マスター私もその考えを推奨します。どの世界から来た者かは情報が少ないため判りませんが、今後の入手情報で明確になるかも知れません””
『クラリス、俺以外から情報を入手することは可能か?』
””はい、マスター。他人の記憶領域に潜入して取り込む事は可能です。ですが、遠隔できる範囲はマスターと同様に過去に見識のある人物に限定されます””
『わかった。では今まで俺が出会った者の中で手がかりとなる情報があるかどうか探ってくれ』
””了解しました。対象人数が多いためしらばくお待ちください。この処理は並行処理で行いますので会話は引き続き可能です””
『それでは一つ教えて欲しいことがある。今後魔族との対立で北の南の大陸間で連携が必要となってくる。都度俺が空間転移で人を運ばないといけないとなると現実的ではない。
何か代わりになる手段はないか?』
””はい、マスター。マスターの世界では安全かつ低コストで大陸間を往来する手段として海底トンネルがあると記憶しております。北と南の大陸の間の海は海流が激しいですが、海底やその地下にトンネルを施せば往来することは困難ではありません。但し、30キロメートル以上の長距離となりますので酸素供給は不慮の事故等に対する対策処置は必要です。
マスターの住む世界ではドーバー海峡の海底トンネルが全長約50キロメートルで実績があります。今回も大陸間の距離に加えて手前でのトンネルへのアクセスが必要ですので40キロメートル程度の全長となります””
『そうか、トンネルか。その手があったな。人が歩くのは効率が悪いので高速鉄道を開通させるといいな。鉄道だと陸の移動にも便利だ』
””はい、マスター。この世界の素材であればリニア鉄道の実現が可能です。時速500km/h以上で巡行できます””
『よし、それではそのプランで計画図を作ってみよう。クラリス、現実的なプランを考えてプロットしておいてくれ』
””承知いたしました””
リュウはクラリスと話を続けているうちに、とうとう一睡も出来ずに朝を迎えた。




