64 フェアリーの里
メアリーの案内でフェアリーの里を目指した。
リュウはホバーを操作し、その後部に連結された荷台のホバーに狂乱したフェアリー達を寝かせている。
森を抜けると小さな湖があり、その畔に花が咲き乱れていた。
幻想的な光景でフェアリー達の住処として相応しいところだ。
『わあ!すごく綺麗。こんなところあるのね』
エリンは感動しているようだった。
『ここがフェアリーの里です。普段は結界が施してあり、外部から入ることができませんが、今回の騒動で結界が解けている状態です』
湖の畔の花畑の先にフェアリーの里があった。
里は小さな家が建ち並んでおり、小鳥の巣箱といった感じだ。
リュウ達を見つけてフェアリー達が顔を覗させている。
『みんなー!安心していいよー!もう解決したから!暴れてた子達もここにいるよ!』
メアリーの言葉に安堵してフェアリー達が集まってきた。
『メアリー、よくぞ無事で戻ってきたな』
『村長様!はい、この方々のお蔭です。私一人ではどうにもなりませんでした』
『おお!そうだったか。申し遅れました。私は里長をしております。この度はメアリーを助けていただきありがとうございました』
『私は北の大陸のマキワの貴族です。エルフの要請を受けてやってきました。エルフの者に被害が出たとの事で解決しにここへ来た次第です。今回の騒動の原因となった物の除去と暴れていたフェアリーは沈静化しています』
『ほんとうに我らの失態を何とお詫びしてよいのやら。それと、数多くご尽力いただきましてありがとうございました。
ここでは何ですので私の家にお越し下さい』
里長に案内されてリュウ達は里長の家へと向かった。
向かう前に、集まったフェアリーに声を掛けた。
『ここにいるフェアリー達は一晩眠ると目が覚めると思います。特に後遺症とか残っていないと思うので安心してください』
『おお!ありがとうございます!』
心配して集まっていたフェアリー達から感謝の言葉をもらった。
『さあ、こちらです。どうぞお入り下さい』
里長に案内された家は他の鳥の巣箱よりは大きい犬小屋程度の大きさの家だった。普通に考えてリュウが入れる大きさではなかった。
『手を入口にかざしていただくだけで大丈夫です』
里長に言われてリュウとエリンは入り口に手をかざした。
すると体が入口に吸い込まれながら小さくなっていった。
リュウとエリンは唖然としていた。いつも間にか小さくなった体で部屋の中に入っていたからだ。
目の前には自分達と同じくらいの大きさの里長とメアリーが立っていた。
『いやあ、驚きました。収縮魔法かなにかですか?』
『はい、来客を考えて精霊魔法を施してあります。立ち話も何です。どうぞお掛け下さい』
リュウ達は用意された椅子に腰かけた。
里長の奥さんと思われる女性が飲み物を持って来てくれた。
『何もございませんが、どうぞお飲みください』
木の杯に入れられた白い飲み物をリュウとエリンは口にした。
『うわあ、これすごく美味しい。冷たくて喉ごしがいいね。甘酸っぱい感じがして後に残らない』
『ほんどだな。これは初めて飲むものだな』
女性は客人が満足して飲んでくれたのが嬉しかったようだ。
『それはこの森の樹液を元に作った飲み物なんですよ。私達は子供の頃からこれを飲んで育っています』
エリンは余程気に入ったのかお替わりを貰っていた。
里長はエリンが飲み終わるの待って本題の話へと移った。
『この度は我らの失態をお助けいただき本当にありがとうございました。森の守り人である我らが森の民を傷つけるなどあってはならない事です。幸いにして事態が収束したからよかったものの、取り返しのつかない事になるところでした』
『その事なのですが、今回の件は陰で糸を引いていた者がいると聞きました。その者にそそのかされたと』
『例えそうであろうと心の弱さをつけ込まれたことには変わりありません。何ともお恥ずかしい限りです』
『それで、今回の原因を説明したいと思います。少し難しいとおもいますが、一通り説明させてもらいます。
最初に禁忌の洞窟に入った事が原因となりますが、その洞窟にはウラニウムという物質が埋蔵されています。このウラニウムというのは放射能という生物の体内を通過する波の様なもので単に通過するだけでなく細胞を破壊してしまいます。なので触れたり、その波を受けると死に至ります。死に至らなくても細胞が破壊されるので体の変異を起こしたり、病気になったりします。この場合、通常ですと手の施し様がありません』
『ではあの者達は・・・・』
リュウの説明で洞窟に入った者は手の施す事ができないと理解した里長だった。
『ご安心下さい。通常の治癒魔法では治すことが出来ませんが、私の万物創生を用いた完全治癒なら体が変異を起こす前の状態に戻す事ができます』
『その様な事ができるのですか?俄かに信じられません』
『私は神のもとで修行をして仙術を使えます。その与えられた力なら可能です』
『そうなんです。伯爵はすごい力を持っていますよ。私が保証します』
エリンがリュウの力が凄いことを表現しようとしたが言葉が上手く思い浮かばなかった。
『そうでしたか!その様な高貴なお方に助けていただけるとは光栄の極みです。これも神様もお導きなのでしょうか』
『今回の騒動はある者の企みによって仕組まれたものと考えます。この先この大陸では様々な災いが起こるはずです』
『なんと恐ろしい。そのある者とは?』
『邪神オーグです。奴は復活をするために今世界を騒乱に陥れようとしています。北の大陸には魔族が大群で侵攻しました。これは私たちが食い止めることができましたが、それが適わないと判ると今度は南の大陸に仕掛けをしてくる筈です。それが今回の事と結びつくのです』
『そうなのですね。我ら精霊の守り人まで手に掛けるとは恐ろしい』
『私はこの事態をドワーフや獣人達にも伝えたいと思っています。恐らくこれらの地域にも何かしてくる筈です』
『わかりました。事の真相をお伝えするのに役に立つと思いますので、どうぞメアリーをお連れ下さい』
『はい、伯爵様!お役に立てる様頑張ります!』
メアリーが今後の旅の仲間になることを自ら買って出た。
ひとまずリュウ達は今回の顛末をエルフの長老に伝えるため一晩明けた翌朝、エルフの里へと戻った。




