61 親子の再会
ナターシャは着替え終わると職員の一人に今から出掛けることを告げるとリュウの元へやってきた。
『お待たせ。なんだか緊張するわね』
『一瞬だから躊躇うこともない』
リュウはそう言いながらナターシャの手を掴み空間転移を行った。
転移先はエルフの森のテレザートの家の前だ。
『ほ・ほんとに一瞬ね。私が苦労して渡航したのが馬鹿みたいじゃないの。それに・・・ずいぶんと町の景色も変わったわね。
そりゃあ、あれから500年ですものね。何度も建物も建て直したりするわよね』
『そうだな。数十年でも景色は変わるからな』
『それに、子供の頃は建物がもっと大きく感じたのに不思議よね』
リュウとナターシャは話しながら歩き、テレザートの家の入口までやってきた。
先にリュウが家へと入り、それにナターシャが続いた。
『・・・ナターシャなの?本当に?』
『母さん・・・・ただいま・・・』
テレザートは家に入ってきたナターシャに近付いていった。
その姿を目に焼き付けるかのごとく頭の上から足の先までを見つめていた。
ナターシャは少し照れくさそうにしている。
『ああ、ナターシャー、あなたなのね。どんなに逢いたかったか・・・あなたには凄く辛い思いをさせてしまってごめんなさい。主人を亡くした悲しみであなたをちゃんと構ってあげられなくて・・・』
『もう父さんが亡くなって500年にもなるのね。私も母さんも歳をとる訳ね』
抱き付きながら謝る母にナターシャは笑いながら抱き返した。
『タイラ伯爵からあなたの事を聞いて驚きましたよ。立派になって、母さん嬉しいわ』
『いろいろと苦労はあったけどね。向うでは人より長く生きられるというのは都合もいい事が多いのよ』
『タイラ伯爵。二度と娘には会えないと思っていましたが、こうやって会う機会を作っていただいて本当に感謝の言葉がありません』
『いえいえ、普段娘さんには大変世話になっていますので少しでも恩返し出来て何よりです』
『そうよ、彼は私の近い将来の旦那様候補なんだから』
ナターシャは自分の願望をさぞ決定事項の様に母たちに告げた。
リュウはまたこいつ余計な事言いやがってと思ったが母親の前でそうとは言えずどうしたものかと言葉を探していた。
『えええ!伯爵は私が狙っているのにぃ~』
『えっと・・・・誰?』
さっきからずっと黙って母子のやりとりを聞いていたエリンがナターシャの爆弾発言に反応したが、ちゃんと紹介されていなかったのでナターシャは何故見知らぬ娘が母親の家にいるのか不思議だった。
『この人はあなたもよく知っている長老様の孫娘のエリンさんです。タイラ伯爵をここまで案内してくれたんですよ。あなたが出て行ってから250年後に生まれたから知らないのは無理はないですね』
『そういうことです。エリンで~す。伯爵の妾希望で~す』
『・・・思わぬ所に伏兵がいるものね・・』
ナターシャは突然のライバル出現に頭を抱えた。ローグ内でさえ、リュウの妾になろうとリュウに近づく女性が山程いるというのに、こんな遠方のエルフの森にまで出現するとは思ってもいなかったのだ。まあ、それでこそ私の見込んだ男性だと半分納得もしていた。
『長年を経ての再会だ。いろいろ積もる話もあるだろう。ここは二人きりにさせておこう。ナターシャ、それでどうする?しばらくこのエルフの里に滞在するか?』
『あなたはどうするの?しばらくここにいるのかしら?』
『俺はこの後、ドワーフと獣人の里に行ってそれぞれと話をする必要があるんだ。この前の魔族の関係でこの南の大陸にも動きがあるらしい』
『そうなのね。わかったわ。私はあなたの予定に合わせるわ。また来ようと思えばあなたに頼めば連れてきてもらえるだろうし』
『とは言え、長老にドワーフに会うための情報を聞いたりしないといけないので2日くらいはここでゆっくりしてていいぞ』
『ありがとう。優しいのね』
ナターシャはリュウが彼女に気を遣って2日間の猶予を作ってくれたことに感謝をすると共に益々彼を物にしたくなった。本来エルフは淡白なのだがハーフエルフということもあり彼女は肉食系だ。
『それじゃ、伯爵、私達は一旦家まで戻りましょう』
エリンがそう言いながらリュウの腕にしがみつき、腕を組んだ。
『ちょっと!あなた!伯爵は私が先に手をつけたのよ!何勝手に腕組んでるのよ!』
ナターシャが負けじとリュウの反対側の腕を組んで自分の方に引き寄せる。どちらも相当のボリュームの胸なのでリュウの両腕はつぶれた肉まんに挟まれた様な状態になっていた。
『へへーん、こういうのは早い物勝ちですよ~だ。それに私の方がピチピチだもんね』
どうやらナターシャとエリンは早くも恋敵としてバトルをしはじめたみたいだ。確かにエリンはナターシャよりも250歳近く若いが、それでも250歳だ。リュウにとってはどっちもそれ程変わらない様に見える。
『伯爵、おモテになるのですね。私ももう少し若かったら立候補したのに残念ですわ』
二人の行動を見ていたテレザートまでが冗談が本気か判らない事を言い出した。この親あってこの子ありか。リュウはそう思った。
いがみ合う二人を引きずって外に出ようとしたリュウだが、ドアに手を掛けた時に、遠くの方から誰かが大声で何かを叫んでいた。
”大変だーーー!妖精が暴れ出したぞーーー!気を付けろーー!”
里の皆は信じられない言葉に呆然と立ち尽くしていた。




