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武龍伝  作者: とみぃG
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57 エルフ族

森の追跡者を振り切るかの様にリュウは突然瞬歩で走りだした。

木が生い茂っていて普通に走るのも難しいが、リュウは何もなかったかの様に軽々と躱しながら森を駆け抜けた。


追跡者も森の中での行動が慣れているのか何とかリュウの走りについていけている。というよりもリュウはかなり手加減しているに過ぎない。本当に振り切ってしまったら追跡者はリュウを見失ってしまうからだ。


走り出してかれこれ20分程経過しただろうか、追跡者の追尾が離れてきたのでこれ以上は無理かと思ったリュウは次の揺さぶりを掛けることにした。


追跡者が追いついたところで、元来た方向に空間転移したのだ。

位置的に言うと追跡者の後方に転移した形だ。


『おい!どこに消えた!』


『マズイ!見失ったぞ!』


追跡者達はかなり慌てているようだ。


後方に回ったので追跡者の様相がはっきりと見ることが出来た。

弓を装備した狩人で耳が尖っている特徴から、どうやら追跡者はエルフだろう。まあ、自分達の領域に入って来たのだから普通何らかしらのアクションはとってきてもおかしくない。


このままでは埒があかないのでリュウはエルフに声を掛けることにした。


『誰か探しているのか?』


リュウのその掛け声にエルフ達はビクっと体を震わせ振り向いた。

あまりに驚いたのか中の一人がリュウ目掛けて突然矢を放った。


放った矢はリュウの顔面に目掛けて飛んできたが、スローモーションの様な遅い動きにリュウは矢を余裕で掴み取った。


『おいおい、随分手荒な歓迎だな』


リュウでなく普通の人間なら下手すると死んでいたかも知れない。だが、普通の人間はこの様な場所に足を踏み入れることはない。


『き・貴様!何者だ!この地に何の用だ!』


エルフの一人がリュウに問いかけた。


『見ての通り、俺は武器も何も持っていない。攻撃の意思がないのはわかるな?俺は北の大陸マキワの貴族でタイラと言う。訳あってこの大陸へやってきた。出来れば族長にお目通しを願いたい』


『人間か!?人間なんかが何しに来た!お前なんかと話をするつもりはない!』


どうやら噂通り人間に対してはエルフは敵対心がある様だ。


エルフの情報網なのか話をしているうちに周りにはエルフが次々と現れ、リュウの周りを取り囲んでいた。

何人かのエルフは今にも矢を放たんとして構えている。


『あなた達、長老様は手荒な真似をせずに連れて来る様に言ってたわ』


エルフの女性が矢を構えている者達を止めに入った。


『人間は災いの元なんだ、こいつらと関わったらロクなことがない。早いところ始末してしまおう』


『そうだ、こいつが攻撃してきたので反撃したことにすればいいさ』


エルフの中でも意見が分かれている様だ。族長の言葉を守ろうとしている者とそれよりも早く始末してしまいたい者で二分していた。


『どうやら余程人間はエルフに嫌われている様だな。その女性の話だと族長は話をすることを拒んではいない様だが?』


『うるさい!お前には関係ない!』


『そうか、このままでは話が進まないな。わかった。じゃ、殺せばいい。だが、俺も黙ってやられるお人好しではないからな』


リュウはエルフをけしかけた。


止めに入った女性はオロオロと狼狽えている。

どうやら、止めようとしているのは彼女だけらしい。


『みんな、やってしまえ!』


掛け声で一斉にエルフから矢が放たれた。矢の中には猛毒が塗られているものもあった。


四方八方から矢が飛んでくるのだが、その矢のスピードはあまりにも遅い。少しだけ動いて躱したり、矢を手で掴んだりしてリュウは軽々と凌いだ。


いくら矢を放ってもリュウに当たる気配がない。次第にエルフ達に焦りと苛立ちが出てきた。


『おいおい、エルフはこの程度のものなのか?期待外れだな』


更にリュウが挑発する。


『くそ!馬鹿にしやがって!』


頭に血が上ったエルフ達は弓矢から魔法に攻撃を切り替えた。エルフが得意とする風魔法で鎌鼬<かまいたち> という風で切り割く魔法だ。数十もの鎌鼬がリュウ目掛けて飛んできた。


『もうやめて!!』


エルフの女性がリュウとエルフの間に立ち塞がり攻撃を止める様阻んだ。


『馬鹿!エリン避けろ!!』


既に攻撃が放たれた後で数十もの風の刃がエルフの女性を切り裂いた。

と、思われたが女性を包む様にリュウが風の刃に背を向けて庇った。


数十の風の刃はリュウを切り割く。普通の人間なら傷だけで済まず身体中がいくつも切り裂かれてバラバラになる程の威力だ。


しかし、リュウには傷一つついていなかった。


『な・あの攻撃が効かないだと!?』


エルフ達は驚いた。彼らの技の威力は自分達が一番良く知っており、それは一人でなく数十人の鎌鼬が同時に放たれたのだ。無傷であるなどとは有り得ない話だった。


『あなた達!いい加減にしなさい!長老の命に背くつもり?それが一体どういう意味なのか判らないわけでなないでしょう!』


女性の言葉にエルフ達は我に返りとんでもないことをしてしまったという顔をしていた。

エルフの掟では長老の命令は絶対なのだ。それを背くということはエルフ族を追放されても文句は言えない程の大罪なのだ。


『私を身をもって助けていただき、ありがとうございます。私は長老の孫娘のエリンと申します。長老からあなたをお連れする様に言われております』


『北の大陸、マキワの貴族、タイラ・リュウです。族長殿へお繋ぎ頂き、感謝いたします』


こうしてリュウは長老の孫娘エリンに連れられてエルフの里へと案内された。


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