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武龍伝  作者: とみぃG
52/222

51 魔族五万の襲撃

魔王ガズルはガゼフ領の陣に戻るとすぐに魔族軍を全員招集させた。


『魔王様。全員配置についております。出陣のお言葉を』


『うむ』


家臣の言葉に応じ魔王は壇上に上がった。


『皆の者!よく聞け!我々魔族は南の大陸のみでなくこの北の大陸もその領土とする。まずは我らに歯向かうマキワの民を血祭にあげるのだ。一切の容赦は要らぬ。殲滅させてその領土を邪心ガズル様に捧げるのだ!!者ども!出立せよ!!』


『オオーー!!!』


ガズルの掛け声に魔族達は沸き上がった。


5万の軍勢が一斉にマキワ領へと侵攻がはじまり辺りには地響きが渡っていた。


既に夜も更けており、夜襲に対してなんら備えもない人間など取るに足らぬと思っている者もいれば、早く人を殺したいという殺戮本能に駆られている者もおり、それぞれの思惑での侵攻がマキワに向けて放たれた。


魔王ガズルは魔族軍の出動を壇上から見守っていた。その全てが出終った頃、家臣が声を掛けた。


『魔王様、陣にこの様な物が置いてありましたが、これは魔王様へ貢物でしょうか?』


家臣は魔王に粘土細工で出来た50センチ大の大きい人形を見せた。その人形は魔王ガズルを象ったものだった。


『儂は知らんぞ?誰かの貢物なのか?しかし、良く出来た人形だな』


ガズルは細部まで精工に表現している人形を凝視していた。


その時だった。人形が突如大爆発したのだ。


”ドガガーーーーーーン!!!!!”


それはリュウが空間転移で置いたプラスチック爆弾の粘土で作ったガズル人形だった。人形の内部には聖なる釘がギッシリと詰め込まれていた。

ガズルの居た場所は20メートル程の大きなクレーターとなり、陣もその周辺にあった物を跡形もなく吹き飛んだ。


起爆スイッチを押したのは家臣だ。正確には家臣に扮したリュウの分身だった。分身体は神のオーラがないため見抜かれることがなかったのだ。

軍団に加えて魔王に動かれるとクリス達だけの防戦ではマズイのでリュウが足止めをするために考えた作戦だった。この程度で仕留められるとは思ってはいないが、足止めくらいにはなる。


物凄い爆発音と煙が立ったのだが魔族軍は既に出払っており、魔族軍でその爆発に気付く物は誰も居なかった。




---ロスタの防護壁付近---


『みなさん、もうすぐ魔族が5万の大群で押し寄せてきます!

罠での足止めは気休め程度にしかなりません。確固撃破で集中させて攻撃してください』


クラリスを通じてリュウの知らせを聞いたクリスは防衛にあたる警備隊の兵士達に指示を出していた。


『5万もの魔物を我々だけで食い止めることが出来るのでしょうか?この前の奴らが5万も揃って押し寄せてくると考えたら守り切る方が難しいのではないでしょうか?』


ルードルフ男爵が不安げにクリスに尋ねる。


『タイラ伯爵が策を講じてくれていますのでご安心下さい。とはいえ、かなり厳しい戦いになると思います。男爵は兵の士気が下がらない様、ご配慮下さい。やはり戦いは気持ちの持ち様ですので』


『わかりました。あのタイラ伯爵ですので又驚く様な仕掛けがしてあるのでしょう。我々も国境警備隊の意地を見せてやります』


本格的な戦闘と経験したことのないルードルフ男爵はクリスの励ましに気を引き締めなおし、防衛にあたる兵士達に声を掛けた。


『それでクリスよ、我らはどう立ち向かえば良いのじゃ?リュウが戻らぬで大丈夫か?』


鈴鳴がクリスに質問した。


『いつもあの人ばかりに頼っていてはいけません。陸の敵はあの人が用意してくれた兵器でなんとか持ち堪えるとして、問題なのは空からの敵です。飛行魔族で恐らく撃ち漏らしが出てくると思いますので私達はそれらを片づけましょう。一体でもここを抜かれると厄介です』


『そうか、空から来る敵じゃの?普段戦闘をせぬ妾じゃが、そうも言うてられん様じゃの。今回はちと加勢させてもらうぞ』


そう話しているうちに遠方から地響きとうごめく魔族の黒い固まりが見えはじめた。


戦闘は小型の魔物が中心でゴブリン、オーク、トロルなどの歩兵達だ。徒歩での移動だったが、防壁に近づくにつれ小走りに変わった。


”ドガーーン!” ”ドガーーン!”


遠くのあちらこちらで爆発が起こった。リュウが指示して仕掛けておいた地雷が作動した。

小規模な爆発があたり一面で起こって魔族も怯んでいたが、後続からどんどん押し寄せてきており、背中を押される様な形で前へ進んでいった。


尚も爆発は続くのだが、それを物ともせぬ物量で魔族達の侵攻は留まりを見せなかった。


”グワアアアアア”

 ”ギャアアアアア”


先頭の魔物が火だるまになって地面に転がっていた。

一定間隔に配置された無人の火炎放射器が作動し、近くに居た魔物に向かって放射状に火が放たれたのだ。

燃料供給は地下の油田から無限に供給されるので火炎は収まることなく放ち続けられていた。


『あの火を放つやつは厄介だ!あれを叩き壊せ!』


魔族の指揮官らしき者が兵に指示をだした。


オークメイジが魔法で水や氷の壁を作り防壁にしながら火炎放射器へと近づいていく。


火炎放射器の弱点は火を放つ方向のみの攻撃なのでそれ以外の角度から攻められると防御は無いに等しく破壊されてしまう。

だがそれは通常の火炎放射器の場合だ。


魔物が火炎放射器の死角に回り込み近付いた瞬間、火炎放射器から

上方に円盤状の物体が飛び出した。その円盤は回転しながら放射状に液体を噴霧している。その液体とは可燃性の高い燃料だ。

すぐに放射されてる炎が引火し、辺り一面が火の海と化した。


流石に魔族の軍勢もこの火の海の中を押し進む訳にはいかなかった。


『全体止まれ!!

   おのれ、小ざかしい奴らめ・・・』


魔族軍が停止し防壁から500メートルのところで対峙した。


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