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武龍伝  作者: とみぃG
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47 気になる動き

午後からの防壁設置も無事終えた。

南側は海に面しているため、海上防衛も考慮しなくてはいけない。

マキワには海軍としての存在はない。海上は数キロ先には大きな濁流が渦巻いており海上航行ができないからだ。

他国もリスクを冒してまで海上航路からの侵攻は考えていない。


海上ルートは監視だけに留めておき、何かあった場合は陸からの対応で済ませることにしてある。


リュウは国境線200キロメートルの防壁を設置して感じた事として、ガゼフ領の動きや気配に違和感を感じていた。

人が生活する上で食事をしたり休憩をしたり、或いは職務上の見回りをしたりと何らかしらの動きというものが在る筈なのだが、マキワ側から様子を伺っていたリュウにはそういったものを感じることが出来なかったのだ。

国境警備の駐屯地が国境から2キロメートルの位置にあるのなら気配を感じない方がおかしいのだ。


この違和感をリュウはクリスに話す。


『クリス、ガゼフ側の動きに気になるところがある。少し様子を見に行こうと思うのだが、クリスはここで待っていてくれないか?

万一に備えて俺たちが不在だと不味いので誰かが残って対応をしないといけない』


『そうですね。本心では一緒について行きたいところですが、ここを留守の間に攻められるのも危ないですから。わかりました。でも、あなた、決して無理はなさらないで下さいね』


『ああ、わかった。鈴鳴、クリスの事よろしく頼む』


『妾は大した戦力にならんが魔族如きにいいようにされる程腰抜けではない。任せるがよかろう』


深夜の日が変わろうとしている頃リュウはマキワ国境からガゼフに単独潜入した。

リュウの恰好は上下黒の戦闘スーツに黒の目無し帽だ。夜眼が利くので暗視ゴーグルは必要ない。


ガゼフ駐屯地付近までステルスホバーで移動し、ホバーを空間ポーチに収納してから徒歩で移動した。


『やはりこの駐屯地、人の気配がないな』


通常、この規模の施設だと数十人は常駐している筈なのに一切人の気配がない。


リュウは先ずはじめに駐屯地の様子を探ることからはじめた。


警備のない駐屯地に入るのは何の苦労もない。だが、これは罠の可能性もあるので細心の注意を払って潜入した。

建物の中にははやり人の気配がない。 リュウは痕跡を確認するため食堂を探した。 テーブルが8つほど並んだ少し広い部屋があるが、恐らくここが食堂だろう。

厨房を見てもここ最近料理を行った痕跡はない。奥の倉庫を覗くと食材のストックも見当たらず、残された食料もない。


リュウはこの状況を見て確信した。

この施設は引き払われている。何者かが侵入して殺されたという痕跡もないし、食料が全く残っていないというのは人が生活する場所ではなくなったことを表している。


それでは何故ここを引き払う必要があったのか?

考えられるのは、ここに兵士がいると不都合があるということ。

やはり魔族の侵攻と関係しているのだろうか?


リュウはクラリスの意見を聞くことにした。


『クラリス、この状況をどう捉える?』


””はい、マスター。ここには1ヵ月以上人がいた痕跡はありません。恐らく何者かの指示で放棄したものと考えられます。施設の備品などは残っているところから、暫定的な放棄ではないでしょうか””


『なるほどな。で、一ヵ月以上人がいないというのはどうしてわかる?』


””この建物内部の埃の堆積量からの計算によります。人が生活しない場合、加速的に堆積が進んでいきますのでその分布から一ヵ月から二ヵ月程のデータと一致しました””


『撤退する理由・・・兵士に見せたくないもの・・・やはり魔族が関係していると思うか?』


””否定はできません。仮定として、このガゼフ帝国と魔族が何らかの関係があり、魔族の存在を一般兵士に見せたくないのであればこの重要拠点の放棄は説明がつきます””


『そうだな、俺もその線が怪しいと思っている。五万もの軍勢をガゼフに留めておくなら、この国の協力は不可欠だろう。人間と魔族の共闘とはあまり見たくないタッグだな』


””軍を動かすには幹部を押さえる事が先決です。魔族がこの幹部にすり替わって軍を動かしているというのも可能性として否定できません””


『そうか、むしろその方が近いかもしれないな。噂の人員配置の変更もそれだと説明がつく』


リュウは確信がないものの、少しずつパズルのピースが集まってきた様に感じた。


『クラリス、クリスと鈴鳴に念話で繋いでくれ』


””了解しました。しばらくお待ち下さい””


5分程してクリスとの念話が繋がった。


『あなた。何かあったのですか?』


『寝ているところ、起こして悪かった。ちょっと伝えたい事があってな』


””マスター、鈴鳴様はいくら起こそうとしても眠ったまま起きる気配がありませんでした””


『わかった。クリス、あとで鈴鳴にも伝えておいてくれ。

今、ガゼフの駐屯地にいるのだが、どうやらもぬけの殻で放棄されてひと月以上経過しているみたいだ。

考えられるのは近いうちに魔族の侵攻があるかも知れない。

このことを男爵にも伝えて警戒に当たる様言っておいてくれ』


『わかりました。それであなた、この後どうなさるのですか?』


『魔族の拠点を知りたい。もう少し周辺を探ってみる。しばらく探して何も見つからなければ引き上げる』


『決して無理なさらないで下さいね』


『わかった。また何かあったら連絡するから』


伝えたいことを伝え終えるとリュウは念話を切断した。



ガゼフからの侵攻はガゼフと魔族の結託と考えていたが、魔族の水面下の策略でガゼフが利用されていると考えるのが妥当だろう。

その場合、操られている兵士ではなく魔族だけを殲滅しないといけない。結構厄介だ。


リュウは駐屯地から離れ、次のアクションをどうするのかをホバーから取り出した寝袋に入りながら考えた。

なかなか良い考えがまとまらないのでひとまず睡眠をとってから翌朝考えることにした。

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