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武龍伝  作者: とみぃG
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45 防壁

翌朝、朝食を済ませた後にリュウは防壁設置作業に取り掛かった。南北に結ばれる国境線の北側からの作業だ。


国境の一番北は湖に繋がっている。

この湖には凶暴な水竜のサーペントが生息しており、人々は決して入ることはない。それが幸いして国防としても湖に面するところは特に防衛線を張る必要がなかった。

もしサーペントがいなければどの国も船で他国に侵攻が可能となるため他国にとっても不可侵領域があるのは有り難かった。


国境付近の湖からマキワには大きな川が流れている。一級河川と呼べる大きさで北から南西のローグ付近を通り、海へと繋がっている。


この河川は敵の侵攻に際して船やイカダで乗りこまれると短時間でローグに到着することが出来て非常にまずい。

リュウはこれを阻止するため、川の上流にダムを建設することにした。水量を調整しておけば大群が川で渡ってくることが防げる。

また、川には一定間隔でフィルターの様な防護柵を張り、侵入を防ぐ策も講じる。


ダムには他にも利用価値があった。水が貴重なこの地域では水不足になることも多く、必要な時に放出をすればある程度防ぐことができる。

それと、ダムと言えば水力発電だ。大きな水車を水流で回し、コイルの回転で発電をする装置をリュウは万物創生で作り上げた。

そこで得た電力を国境防護壁へと供給し、夜間のサーチライト等の照明に利用したのだ。常に魔法士が光魔法で辺りを照らすのでは効率が悪く、照らし続けることができない。


リュウは当初有事の際のみ壁を出す方法を考えていたが、むしろ万里の長城の様に常時壁としていた方が都合がいいと考えて壁は可動式にするが、常時出しておくことに変えた。

ロスタを中心として南北の国境は100キロメートルずつあるので、端まで移動しようとすると馬でも数時間かかる距離だ。

これを解決するために壁の上面に道路を作り、供給電力でリニアを走らせることを考えた。細かな制御は後日作り込むとして、とりあえずは小型のリニアカーに乗ればロスタから国境の端まで10分で移動が可能となった。防衛の際の兵の補充にも役立つ。

防壁には1キロメートル毎に兵の待機所を設置し、ここから持ち場の範囲の監視を行う。監視は目視も重要だが、基本は先日のデーモンを察知した際に使用した生体レーダーだ。通常の人なら青い点、犯罪者や魔物は赤い点で表示される装置で半径5キロ四方を監視することが出来る。


実際に敵が攻め込んで来たらどうするか?

待機所には固定砲台が設置してあり、空を飛ぶ魔物に対しては魔導高射砲、対地上には魔導機銃と火炎放射器が用意されている。

待機所には各1名配置となっているので絶対的に対応不足となるが、砲台は自動追尾掃射が可能なので特に人が操作を行う必要がない。


更に緊急時には壁面に格納されているゴーレム兵が起動する様になっている。召喚ゴーレムに賢者の石を埋め込み、自在にコントロールできる様にしたものだ。100メートル置きに1体収納されており、一つのエリアに10体のゴーレムが割り当てられている。


本来、ガゼフと対峙するだけならこれ程の過剰ともいえる防備は必要ないのだが、相手が魔族となると話は別だ。通常の人では互角に戦うのが難しい上に圧倒的な数で攻め入られる事を考えると今の状態でも心許ないくらいだった。


リュウが防壁の設置作業をしているのを後方で見守っていた兵士が声をかけてきた。


『伯爵様。お疲れさまです。どうぞこれをお飲みください』


兵士はリュウに気遣ってお茶を用意してくれたのだ。


『ありがとう。丁度喉が渇いていたので助かるよ』


兵士は年齢にして二十歳くらいだろうか、恐らく配属されて間もない新兵だろう、制服もまだ新品の様に見える。


『あのう、本当に敵が攻めてくるのでしょうか?』


『そうだな、既にローグに魔物が来ている以上、来ないとは言えない状況だな。そうなっても大丈夫な様にこうやって防壁を設置しているんだ』


新兵は間もなく戦いが始まることに不安を感じている様だ。


『お恥ずかしながら、まだ一度も戦った事がないので自分に出来るか不安なのです』


『そうか。でも、深く考えることはないぞ。殺らなければ殺られる、それが戦場だ』


軍に長年所属していたリュウは新兵が配属されるたびに同じ様な悩みを抱える若者達と接していたのだ。


『だが、戦場では油断は禁物だ。怖いくらいで丁度いい』


『そうですよね。ありがとうございます。俺がここで守らないと街で暮らす家族やみんなが襲われるということですよね』


『そういうことだ。でも、無理はするな。もし絶対的な危機に遭ったら事前に渡してある退避道具を使うんだ』


リュウは兵士や街の人に緊急脱出用の空間退避の指輪を渡している。この指輪を回すと離れた待避所に転送されることになっている。


『はい。でも大丈夫です。伯爵様とお話出来て何だか力が湧いてきました。街のみんなのために頑張ります』


リュウはお茶を飲み干して空の器を兵士に返すと作業に戻った。

恐らく彼は今後経験を積んで頼もしくなっていくだろう。

長年のリュウのカンがそう伝えていた。


午前中に北側の防壁の設置が完了し、昼食にするためリュウはロスタに戻った。

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