43 国境警備都市ロスタ
リュウとクリスはホバーに乗り、ガゼフ帝国との国境に近い位置にある国境警備都市ロスタに向かった。
この都市は国境警備の拠点と共にガゼフが侵攻してきた際の防波堤の役目を担っている。
ロスタをとりまとめているのが、この地域の貴族であるルードルフ男爵で市長兼国境警備軍司令官を務めている。
まだ時間も早いことからリュウ達は最大速度の半分くらいの速度でホバーを航行させた。時間にして2時間程度、時刻は朝7時を過ぎたところでロスタが見えるところまで来た。
道中は浮遊航行のため振動や揺れが皆無で早朝ということもあり、日が昇っておらず非常に快適なクルージングだった。
このままロスタに入らず、一旦休憩をしようとリュウはホバーを適当な場所に停めた。
『それじゃあ、クリス。腹ごしらえをしてからロスタに入るとしよう』
『はい、あなた。それでは何か作りましょうか?』
『えっと、クリスは飲み物を用意してくれるかな?食事は俺が予め下ごしらえしているものがあるから』
『それじゃあ、紅茶を淹れますね。何を作ってもらえるのか楽しみです』
リュウは簡易のテーブルセットを置き、クリスが紅茶を淹れるための魔導ポットをテーブルの上に置いた。
グルメ食堂で予め作って置いたシチューとパンを食料用空間ポーチから取り出し、魔導コンロとオーブンでそれぞれを温めた。
魔導の道具があるので、どこにいても不自由を感じることがない。簡易テントを出してもいいのだが、長時間ここに留まるつもりはないので食事をして一息入れる程度の時間に相応のテーブルセットで済ませたのだ。
『フフフ、なんだかピクニックみたいな感じですね』
『まったくだ。緊張感ゼロだな。俺たちは』
何をするにもリュウと一緒に居れる幸せを感じつつクリスはリュウとこの状況を笑い合った。
この世界の高級レストランでもなかなか出ない様な豪華な朝食を味わいつつ、この後について話をした。
ちなみに、鈴鳴にはキャットフードを出してやろうかと思ったが、一旦拗ねると面倒臭いことになるのでそれをせずに一緒の食事を出した。鈴鳴は飲み物としてココアを所望した。相変わらずオコチャマだ。とリュウは思ったがこれも言うとややこしいので言わずにリクエスト通りココアを出した。
『しばらくここを拠点として国境防衛の対策を施してからガゼフに入ることにする。 俺たちがガゼフに入った隙にマキワを攻められたら困るからな』
『ここの拠点だけで広い国境の全てを守りきれるのか?』
リュウがこの後の予定を告げると鈴鳴が疑問に感じたことを質問をした。
『その辺は俺の最新兵器でカバーする予定なので問題ない。この拠点は物資や人を守るためにあると言っていい。ここを破られることはまずないだろう』
ここの防御対策としてリュウはローグと同じくらい何重もの対策を施していた。 迎撃システムと併せて通常の攻撃などものともしない強固な防御となっている。
朝食を済ませて少し休憩をした後に道具を片づけてロスタの街へと入った。
ロスタは周囲を15メートル程の壁で囲っており、その壁面が円状に続いていて、その長さは直径1キロメートルだ。
入口はガゼフに面した東門とその反対側となる西門の2箇所の門のみとなる。
門の扉はトンネル状の入り口に5つ連なっており、通常の破城槌で壊して入ろうとする前に門壁に備え付けられているレーザー砲で焼かれるため門からの侵入は不可能に近い。
『クラリス、3名のロスタへの入門手続きを頼む』
”承知しました。マスター。
・・・マスター、クリス様、鈴鳴様の三名の登録が完了しました”
この街に入るには事前に識票を登録しておく必要がある。これがないと所定の手続きと検査で数時間を要してしまうのだ。
強硬に突破しようとするとレーザー砲の的となり黒焦げになる様になっている。 建設当初は盗賊が侵入しようと試みたが全員消し炭となって戻ってくることはなかった。 今では悪さをする奴ら程この砦は恐ろしい存在として知れ渡っていた。
リュウがこの砦を設計したのでここの施設は熟知していた。
砦の住人もリュウを知っており、通行に際してはほぼ顔パスの様なものだ。
『おお!これはタイラ伯爵ではありませんか!ご連絡いただければお迎えにあがりましたのに。 それと、お嬢様、ご機嫌麗しゅう』
市長兼司令官のルードルフ男爵が門番の報告を受けて駆け付けてきた。
『いえいえ、態々ご足労いただく程のことでもありません。ここはよく存じてますので問題ないです』
『お久しぶりです。ルードルフ男爵。私は今回義勇兵として参加しておりますのでクリスとお呼び下さい』
クリスもルードル男爵とは面識はあった。親しく会話するという程でもなかったが、官邸には年に何度か来ていたので顔を合わす機会も多かったのだ。
それと、クリスの言う義勇兵とは軍に属するとなにかと拘束されてしまうので自由に動きがとれる義勇兵がいいだろうということでクリスは義勇兵扱いとなっている。 一応は他隊長と同格という扱いだ。隊長の身分は軍の少佐相当で副隊長が大尉となる。
ちなみにリュウも正確には軍に属しているのではないが、軍務大臣から直々にお願いをされており、軍務大臣の代行ということになっている。身分で言うなら将軍だ。従って軍ではリュウの言う事が絶対の言葉として通ってしまうのだ。
『ここでは何ですので私の部屋で話をしましょう』
ルードルフはリュウ達を司令官室へと案内した。




