220 天界神の欲望
絶世の美女である天界神エリザベートから迫られるリュウは戸惑った。
この据え膳、食べるにしても食べないにしても後で問題になりそうな予感がタップリしていた。
『そう深く考えないで』
エリザベートはそう言うと再びキスをしてきた。唇伝いに甘い香りが漂ってきた。
その直後から頭がボーっとして鼓動が激しくなってくる。
意識を周りに移すと何故かエリザベートと一緒にベッドの上で寝ていた。仰向けに寝ているリュウを手をついて覆いかぶさり見つめているエリザベートの構図だ。
エリザベートの銀色の髪の毛がリュウの顔をくすぐる。
髪の毛からも甘い香りがした。シャンプーの様な心地よい香りだった。
ひょっとするとこれらの香りは媚薬なのかも知れない。理性が利かなくなる類なのかリュウの拒絶感が次第に薄れていった。
『エリザベート、ちょっと肉食系が強くないか?殆ど襲われてる様なもんだろうこれは』
『ええ、私は欲望には貪欲なのです。いいじゃないですか、私だって何百年いえ、それ以上ぶりだのですから』
エリザベートのもたらす媚薬効果と理性麻痺効果で結局リュウは拒み切れず折れてしまった。
どれ位の時間が経過しただろうか、二人はベッドの上で天上を見上げながら並んで寝ていた。
『そんなに気にしなくても良いのですよ。貴方は何も悪くないのですから。ですが、私としては罪悪感よりも嬉しさの方が勝っているのです』
『まあ、俺も一度死んだ身。今更どうこう言うつもりはありません。この擬体もエリザベートから借りたものだから。その使用料として払っていると考えることにします』
『そういう考え方もあるのね。いいじゃない』
『どうせこれっきりなんて言っても無駄だと思うし』
『そうねえ。今はすごく満足なんだけど、時間が経つとまた寂しくなっちゃうでしょうね』
『とんだご褒美だったなあ』
『これはご褒美じゃないわよ。むしろ私へのご褒美だから。貴方には別に何か願い事があれば叶えてあげようと思っていたのですから』
リュウは意外だった。天界神の力なら本当に何でも叶えてしまうのだろう。リュウもその力のいくつかが使えるのだから自分自身で実現させれる事も多いのだが、リュウの希望とするものはそれでも手に入らないものだった。この機会にリュウは天界神にお願いをすることにした。
『それじゃあ、お願いしたい事があります。
今の家族をずっと一緒に居れる様にしてもらえますか?子供や孫までとまでは言いません。寿命が尽きた後で一緒に暮らせられればいいので』
『なるほど。貴方の願いらしいわね。う~ん、できないこともないですけど・・・』
天界神は少し考えた。
『貴方の側室には寿命の幅があり過ぎるのよね。人間だとあと60~80年ですけどハーフエルフの子なんかあと500年くらい寿命がありそうよ?』
『そうですね。なので人間の寿命が尽きた時に擬体でもいいので魂を引き留めてもらいたいのです』
『う~ん、そうですねえ・・・』
天界神はまだ考え中という感じで腕を組んで天井の一点を見つめていた。
『そうだ!良い考えを思い付いたわ。貴方の願いを叶えて上げれるのですが二つ条件があります』
『条件ですか?なんか難しいやつじゃないでしょうね?』
『うんん、とっても簡単よ。一つは私との関係を続けて欲しいというのと、もう一つは貴方達家族を神様として新しい世界に赴任させたいの』
『神様ですか?鈴鳴みたいな?』
『うんうん。鈴鳴ちゃんはもう神だから問題ないけど、他の子達も修行をしながら神様業をやってもらうなら願いは叶えてあげられるわよ』
『そういって貰えると有難いです。それで新しい世界とはどの様なところなんでしょうか?』
『私の管轄している銀河の一つにある星なんだけど、まだ星が出来てから10億年程度しか経ってなくて人類もようやく道具や言葉が使えだしたところよ。そこで何千年、何万年と導いて見守ってあげるのが神としての仕事』
『わかりました。それではその方向でお願いします』
『ふふふ、その程度のお願いなら私の方が得しちゃったみたいで申し訳ないわ』
リュウはエリザベートから最早逃げれれないと覚悟を決めた。
だが、彼女は肉食系ではあるが愛情を注いでくれているのが判るので拒んではいたが結局は許してしまったのだ。
天界神への一連の報告とプラス・アルファを終えたリュウは下界に戻った。
戻ってくるなり鈴鳴がリュウの顔を見て尋ねた。
『リュウよ。其方顔がツヤツヤしておらんか?天界で何があんたんじゃろうな?妖しいのう』
鈴鳴は天界神の事を知っているのでわざとそう勘ぐったのだ。そう言った反面自分が最近構ってもられないのでスネてもいた。
『おいおい、皆に言うなよ。知られるとまたややこしい事になるからな』
『ならば取引といこうかの。妾をもっと構ってくれたら言わんでおくぞ』
リュウは最近弱みを握られる事が多くなってきた。正直に言えば誰も怒らず許してくれるのだろうが罪悪感で隠し事をするのは男の嵯峨というやつなのだろうか。
そんなリュウだったが、将来みんなで新しい世界で暮らせる事が嬉しかったのだ。
帰ってきたリュウが笑顔でいるのを皆が怪しんでいたことは本人が気付いていない事だった。




