212 別れの挨拶
大きな問題は解決したのでリュウは地球の神のところを訪れた。
三人の神は以前の様な今にも消えそうな存在ではなく強い光を纏っていた。
『天界神様、我々は何とお礼を申し上げてよいのやら』
キルキスが皆を代表してリュウにお礼を告げる。
『大事なのはこれからです。人間の闘争心を別の方向に向けさせなければなりません。まだ戦争が終わっていない地域もあり、貧困や欲望からくる犯罪も無くなった訳ではありません』
『はい。過去の過ちを肝に銘じてこれからは我ら神が人を誤った道へ行かない様守り続けて参ります』
『頼みましたよ。この広い世界に三人の神では大変かと思いますが世界が力を付ければ徐々に神も増えていくでしょう。当然長い年月を必要としますが折角取り戻した世界です。根気よく見守っていって下さい』
『わかりました。それで天界神様、このあとはどの様にされるのでしょうか?』
『私は浮遊島ローグをもとの世界に戻すので一緒に向こうへと行きます。もうここへは来ることはないでしょう』
『そうですか。それは凄く残念です』
リュウは向こうの世界に行く前に三人の神に別れの挨拶も兼ねてここへ来ていた。
長い年月はかかるが人々の信仰を良い方向に導けばきっと世界は大丈夫だとリュウは確信していたので心配することはなかった。
リュウは人間の姿に戻って旅立ちの前の挨拶を済ませることにした。
やって来たのは首相官邸だった。
『北条首相、いろいろとお世話になりました』
『世話になったのはこちらの方だよ。テロの話、聞いたけどあれも君がやったんだろう?』
『やはり判りますか?』
『まあ、今この世界でそんなことが出来るのは君しかいないからね。そんな君に一つお願いしたいことがあるのだが』
『流石は首相ですね。それでお願いとは?』
『環境やエネルギー問題は君たちの協力のお陰でなんとか目途がついた。人々も平和協調へと向かっている。
だが、戦争で利益を上げていた者達は今の状況を良しとはしないだろう。この先何かをしかけてくるはずだ』
『なるほど。それは十分に考えられますからね。全ての人間が善人ではない。いや、人は誰でも悪い心は持っていますからね』
『それでお願いなんだが、不安材料となる物質をこの世から消し去ってしまうことは可能だろうか?例えば核兵器の元となるウランとか』
『判りました。それでは今現存している核ミサイルは全て消去しましょう。その上でウラニウムは核反応が起らない物質に変換しておきます。それと大量殺戮兵器の類も消去しますね』
『おお、やっぱり出来るのか。君はやはりすごい力を持っているんだな。恐らく世界中の国が混乱するだろう。だが条件は皆同じだからな。これからは軍縮の動きに向かいその分を環境や平和利用に回す様になれば理想だな』
『そうなることを期待します』
『クラリス』
””はい、マスター””
『聞いていた通りだ。全てクラリスで消すことは可能か?』
””もちろん問題ありません。それと火薬類はどうされますか?””
『そうだな。世界の保有量を十分の一に減らしておいてくれ。工事などにも使用するので全て無くすと困る人もいるだろう』
””承知しました。・・・・・消去完了しました””
一条首相はどこからともなく聞こえてくる女性の声に驚いたが神の成せる業として見れば普通なのだろうと納得もしていた。
『これで全て終わりました。後の世界は宜しくお願いします』
『ありがとう。助かるよ。それで、この世界にはまた来るのかい?』
『恐らくもう戻ることはないかと思います』
『それは非常に残念だ』
リュウは首相に別れの挨拶を告げて浮遊島ローグへと戻った。
ローグでは日本の各地で技術協力していた職人達が3日ほど前から引き揚げてきており全員が既に揃っている状態だった。
『国王、今回の旅行は如何でしたか?』
『おお、婿殿。戻られたか。いやあ文明の違いがこれ程とは驚いたよ。もう少し居てもよかったくらいだな』
『それはそうでしょう。貴方はクラブという場所に夜な夜な足を運んで鼻の下を伸ばしていたのですからね』
『お前、何でそれを・・・』
『私が知らないと思っていたのですか?なんと愚かな』
国王は様々なところからの接待と称して銀座のクラブに毎晩通っていたらしい。見た目外人なのでホステスには結構人気だったらしく気を良くしてる光景は目に浮かんでくる。
王妃はそんな国王の動きを全て知っていたので嫌味三昧という訳だ。
この夫婦やっぱり仮面の夫婦なのか・・・リュウはそう思った。
『リュウさん、こんな私を可哀想だと思わない?出来れば今夜あたり慰めてくれると嬉しいわ』
『ちょ、お母さん!!何を言ってるの!』
王妃の爆弾発言に今度はクリスが黙っていなかった。親子で三角関係なんて御免だ。それにしても最近段々と王妃が綺麗になっている様に見えるのは気のせいか?クリスの母親なのだから年齢は40代の前半の筈だが、クリスの姉でも疑う者はいないだろう。
『まあ、冗談はこれくらいにして。明後日には元の世界に戻りますので準備をお願いしますね』
リュウはこの話は早く切り上げた方が良いと思い出発の予定を告げてこの場を去った。
去り際に王妃が冗談じゃないのにと言っていたのは聞かなかったことにした。




