204 失われた世界樹
リュウの考えるこの星を救う手段というのは神を救う手段と言っても過言ではない。人々が助かるだけでは本当の意味での星の救済とはなっておらず時間の問題で何れは滅亡する運命となるのだ。
その救済において星が健全であった頃に戻すというのが本来あるべき姿なのだ。その健全というのはこの星がマナで満たされていた時の状態のことを指す。
『どうやら星の救済には失った世界樹を取り戻すことをしなければ防げそうにもありません。元々世界樹はどこにあったのですか?』
リュウは神のリーダー的存在で一番長く神として君臨しているキルキスに確認した。
『一番大きな世界樹はアマゾンの流域にありましたが60年程前に消滅しています』
世界大戦終結後の高度成長期に都市開発を行い森林伐採でジャングルを切り拓いた際に神木も倒されてしまったのだろう。
リュウはキルキスに大凡の場所を聞き世界眼でその場所を見た。
だが、既にその場所は都市となっており世界樹の反応の欠片もなかった。
『どうやらこの場所の世界樹は完全に消滅したと考えて良いでしょう。他はどこかありますか?小さくても構いません』
『オーストラリアの平原にもあったはずです。そこならまだ他よりも可能性があるかと』
リュウはオーストラリアの内陸部にあるデザート地帯に世界眼を向けた。かつては草原だったこの地域もすでに砂漠化が進み土地が枯れ果てていた。
目標の座標には何もなかった。
だが、リュウは世界眼を通じて僅かなマナの反応を感じた。
ひょっとしたらここにまだ世界樹の一部が残っているのだろうか?
とになく自分の眼で確かめて見る必要がある様だ。
リュウは世界樹があっとされる場所に転移した。
そこは辺り一面砂となっており、とても昔は木々が生い茂っていたとは思えない場所だった。
地表には何も見られないので地中に向けて目を凝らしてみる。
地中奥深くに微かだがマナの反応があった。
リュウは土に向けて空間転移で穴を掘った。
とりあえず5メートルくらいにしておいたのだが深さ3メートルくらいまでは砂だったがそこから先は土に変わっていた。
恐らくこの土も次第に砂に変わっていきやがてすべてが砂となるのだろう。
5メートル下の底の方にマナの反応を感じた。
見つけたのは世界樹の根と思われる一部だ。生きているのは言い難いくらいにボロボロな状態だったが僅かに残るマナのお陰で植物としての生命を保っている様だ。
リュウはすかさず自分のマナを根に注ぐ。
半分炭となっていた根が少しずつ木の根の状態に戻っていった。
この状態であれば上手くいけば育てる事が出来るかもしれない。
だが、急激な魔力投入は壊死させてしまう恐れがあるので焦りは禁物だ。
リュウは変化の指輪で人間の姿に扮して空間転移を行った。
飛んだ先は筑波の科学技術研究所だ。
『どうだ?ジャン。研究は上手くいってるか?』
『おお!これは若様!よくごご無事で!!』
ジャンはリュウが無事帰還した事を聞いていたのだが実際に姿を見ていなかったので自分の所に訪れてくれたことを喜んだ。
『魔の森の土の培養の方はどうだ?』
『はい、向こうの土をそのまま混ぜても上手くいきませんね。これは想像通りでした』
『この世界も昔は世界樹がありマナもあった事を確認した』
『それは本当ですか!?それじゃあ、そこの土を使えば上手くいくかも知れません』
『だが残念ながら世界樹は枯渇してその土も砂漠化の影響でなくなっている。今残っているのはこの世界樹の根の欠片だけだ。これは俺が再生でなんとか命を繋ぎ止めた状態なんだが』
リュウは世界樹の欠片をジャンに見せた。
『ちょっと見せて下さい!』
ジャンが急に慌てて世界樹の欠片を電子顕微鏡の上に乗せた。
モニターには1000倍に拡大された世界樹の根の欠片の表面が映し出されている。
『やっぱり。若様、ここを見て下さい。ここに土が付着しています。非常に少量ですが、この成分を分析すればどうにかなるかも知れません』
『なるほどそういうことか』
リュウも可能性が見えてきた。はやりジャンに見せて良かったと思った。自分だけでは思いつかなかっただろう。
『この根は非常に弱っているからもし何か変化があったら知らせてくれ』
『了解しました!これから急激に進展していきますよ!』
一緒に状況を見ていた研究員やローグ職人達も希望の光が見えてきたので暗かった顔が一気に明るくなった。
『俺はこれからいろいろとやることがあるのでこっちの方はジャンに任せたぞ。よろしく頼む』
『はい、若様!全力で頑張ります』
リュウは再び神達のもとへと転移した。




