198 昇爵
『おお!婿殿!!』
『リュウさん!!』
国王も王妃もリュウが目の前に居たことを驚いたが、無事帰還できたことを喜んだ。
『ご心配をお掛けしましたが何とか戻ってくることが出来ました』
『よくぞ無事に戻ってきた。今回の活躍、大儀であったぞ』
『リュウさん!よかった!!』
王妃は人目を気にすることなくリュウに抱きついた。二度と会えることのない別れと覚悟をしていたのだが、こうして再び顔を見れることが出来て王妃は感無量で思わずとった行動だった。
周りも少しザワめいたが他国の事なので何かしらの事情があるのだろうと深く詮索はされなかった。
『御母さんもご心配お掛けしました』
王妃はうれしさの余りに涙を流していた。それを見ていた国王とクリスは複雑な気持ちだった。クリスは女性なので既に母のリュウに対する気持ちには気付いている。だがそれに対してどうすればいいのかが判らず戸惑っていた。
『私は決めたぞ。婿殿は今回の功績で大公に命じようと思う。これは大臣達も同意しているので何ら問題ない。受けてくれるな?』
大公とは今は存在しない位だが、その昔は王に次ぐ位で国の重鎮に用意されていた。多くは若き王の後見人的な立場で経験豊富な年配者を登用するのだが、リュウの様に若い大公の任命は珍しい。
『大公ですか・・・嫌だと言っても駄目なのですよね?』
『私はともかく、貴族や大臣達が煩くてな。国民からもケチな国王と言われている私の身にもなって欲しいぞ』
『そうですか、判りました。それでは有り難く拝命いたします』
『あなた、素敵です!私も凄く嬉しいです!』
『リュウさんの功績に相応しい地位ですね。むしろ国王と変わって・・・』
王妃が言いかけた言葉をクリスが手で口を塞いだ。
『お母様!主人が国王になってもお母様が国王の妻となる訳ではないのですよ?』
『それくらい判っておりますよ。残念ではありますが・・』
隣で聞いている国王が何故か反論をしない。やはり国王は王妃に何か弱みを握られているに違いない。
その後少し国王達と会話をした後に催しの開会の挨拶がはじまったので進行の流れに従った。
晩餐会ではクリスと話をしたいと囲む参加者が多かったがリュウのところも負けず劣らずの賑わいだった。囲う人達は対照的でクリスには政界や財界、リュウには軍関係といった感じだ。
未だにリュウのことを少佐と呼称しているが、リュウは軍を除隊して民間企業へと就職した。その事実でリュウは軍に籍がないものと思っていたのだが、軍としてはリュウを手放す気は毛頭なく、その処遇は休職扱いとなっていたのだ。
そのためリュウは軍の平少佐として今も籍が残っている。それどころか、過去の評価が甘いため除隊を希望したという意見もあり、更に階級を上げるべきという意見も多くあるらしい。
その事実を出席していた軍の関係者から聞いたリュウは寝耳に水だった。だが自分は既にマキワ国の人間で日本国軍に復帰するつもりは無かった。先程の国王から大公に命じられるという事を聞いたので尚更だった。
晩餐会が終わった後でリュウは一条首相に呼ばれた。場所は会場に隣接した応接室だ。話が長くなるかも知れないと思いリュウはクリス達に先に宿泊先に戻る様に伝えた。
『待たせたね。君も色々と忙しい身なのに済まない』
『いえ、構いません。それでお話というのは?』
一条首相はクリス達に説明したこの世界の置かれた状況についてリュウにも話をした。リュウはこの世界をよく知っているので説明についてもより具体的なところまで及んだ。
『世界の危機的状況ですか・・・確かに自分が居た頃には無かった問題ですね。この数年でそんなに変わるものなのでしょうか?』
『それについては我々も驚いている。悪い事が重なるということはあるが、これ程までに立て続けに起ることは誰も予想していなかった。だからこそ対応も出来ずに困っているのだ』
『エネルギーや環境だけが問題ではなさそうですね』
『はやり判るか?』
『はい、人間は絶望を感じると被虐的な行動に出ることがあります。そういった破滅を誘発する様なテロリストの存在が居てもおかしくありません』
『流石、平少佐だ。君の言う通り、今世界各地でテロリストが活発化している。テロリストは大きく二分しており、他を蹂躙して自分達を豊かにしようとする勢力とこの世界が無くなればいいという破滅主義だ。厄介なのは後者の方で話し合いが通じる相手ではないのだ』
『反抗組織の分布は?』
『破滅主義の最大勢力は“世界滅亡”(World?destruction)と呼ばれる組織でWDと略している。このWDの勢力は今や全世界に及んでおり、家族を失った者達が絶望を共有する目的で活動を活発化させている』
『神楽元を倒しても同じ様な厄介ごとがまだ残っているのですね』
『そうなんだ。だが、神楽元は計算高くて行動に規則性があるのだがWDの連中は全く行動が読めないのが実状だ。自爆テロが多いのも特徴の一つで女子供を使ってのテロは発見が難しく受ける被害も大きい』
『その自爆テロは洗脳ですか?それとも本人の意思ですか?』
『どちらもあるようだ。子供を失った母親、夫を失った婦人、悲しみと絶望を持つ者にWDが接触して仲間に引き込んで利用しているみたいだ』
『それは非常に厄介ですね』
リュウはその状況がすぐに想像できた。それは今に始まった事では無かったからだ。戦場ではいつも犠牲になるのは罪のない人達だ。
無差別な空爆により多くの武器を持たない市民が犠牲となる。
いくら大義名分のある戦争だったとしてもこの罪のない人達の痛みや苦しみを与える権利があるのか?リュウは戦争をしながらいつもこの問題に悩まされていた。
家族を失ない絶望の果てに自爆テロを起こすというのも死んであの世で一緒になりたいという願いからだった。
リュウはこの問題の解決方法に頭を悩ました。