196 ローグへの帰還
リュウ達が浮遊島ローグに飛んだ場所は王宮だった。だが王達は東京に出向いているので王宮の中に王族は不在で近衛兵と侍女のみしか居なかった。
突然現れた四人に騒然となり警戒されたが三人がよく知る顔だったのですぐに警戒は解かれた。だが一人だけ見た事もない人物が居たので鈴鳴達に何者なのかを確認していた。
その人物の正体がリュウと判ると近衛兵達はかなり驚いた。無理もない。髪の毛の色や髪型、サングラスから覗かせる目の色など別人と言ってもいい変わりようなので同一人物と思う訳がなかった。
鈴鳴達三人には一旦自宅に戻ってもらった。
リュウは自分の姿があまりにも違い過ぎているため混乱が生じている事態を何とかしなくてはいけないと思いモノローグの工房へと足を運んだ。
ここでも見ず知らずの者が入って来たので不審に思われたが今度は自ら先に名乗って説明を済ませた。リュウが工房に来た理由は元の姿の変化の指輪を作ることだった。
今の姿はあまりにも不都合が多すぎたのでとりあえず元の姿に見せ掛けだけでも戻しておかないと余計なトラブルを巻き起こしてしまう恐れがある。
工房にあった賢者の石を握り締めてリュウが念を込めると手に握りしめられていた賢者の石がリングへと変わった。早速リュウがリングを装着すると以前のリュウの姿へと変わった。
『おお!若様だ!!』
傍で様子を見ていた職人達が以前のリュウの姿をみて声を上げた。
リュウは現在のローグの統治がどの様になっているのか気になった。浮遊島である以上ここから外へは一切出ることが出来ないのだ。
ローグは自給自足が十分出来る程の食料や施設がある。ローグ市民であればそれぞれ仕事もあるので平常通りの生活は出来ている筈だ。学生達も学校が再開されたことにより登校しており問題はない。
ローグが閉鎖されて困る者がいるとすればローグ以外から訪れた者達だろう。南北海底トンネルにより世界がつながりローグへ多くの者が訪れる様になった。
観光目的だったり商売が目的だったりそれぞれだが、その少なくないローグへの訪問者が自分達の居場所が無い事で不満を抱えていたり早く帰して欲しいと抗議しているのではないかとリュウは心配していた。
その辺を確認するためにリュウはギルドへ足を運んだ。会頭のナターシャに会うためだ。変化のリングをしているため今度は何も怪しまれることなくギルドへ入れた。
だが、無事にリュウが戻ってきた事で別の意味で騒ぎとなった。もちろん皆リュウの無事帰還を祝っての事だ。
『伯爵!無事だったのね!』
ドアをノックして執務室に入ったリュウの顔を見るなりナターシャはリュウに飛びついた。
『ああ、いろいろあったが何とか無事に戻ってこれた。エルフの里も大した被害なくて皆無事だったぞ』
『よかった・・・オーグとの戦闘の事、いろいろ聞いていたので心配していたのよ』
『オーグの件は片付いたが今は又別の問題に直面しているみたいだな』
『そうなのよ。まあでもそっちの方は姫様達にお任せしているので私はローグの統治の方に今は注力を注いでいるのよ。今回ローグ市民以外でも多くの来訪者が一緒に飛ばされてしまってそのフォローとかが結構大変だったのよ』
『やはりそうか。で、どの様な対応を?』
『宿泊施設にいる人達はその宿泊料を無償としたのと、宿が無い人にはギルドを通じて空家の割り当てをして住居を確保して帰還がいつまでになるか判らないのでモノローグとギルドが協力して職の斡旋もしたわ。何もせずじっとしているよりも何かしていた方が気が紛れるでしょうから』
『俺が懸念していた事を対処してくれたみたいだな。流石ナターシャだ』
『褒めても何も出ないわよ。あ、ご褒美ならいくらでも貰うわよ?』
『ナターシャも同じ事言うんだな』
リュウは思わず笑ってしまった。
『私も?他に誰が言ってたの?』
『ムーアが同じ事言ってた。ムーアにはローグ跡地の面倒を見て貰っている。高速鉄道も再開してローグ駅周辺も再開発して動いてるんだ』
『そうなのね。で、ムーアさんもご褒美を?』
『ああ、ナターシャと一緒の内容のやつをな』
『あなたが躊躇しているからどんどん増えていくのよ。いくら増えても次は私ですからね』
ナターシャは顔は笑っていたがあまり嬉しくない感じだった。
『ナターシャ、その事なんだが・・・話しておかなければならない事がある』
リュウは今までの経緯をナターシャに話した。自分が死んだ事、仮初の体で以前の姿ではない事など。話をしながらリングを外して今の姿を見せた。
『・・・それが今の貴方の姿なのね・・・』
ナターシャはそう言ったきり黙ってしまった。
『まあ、考え様か?これで貴方は永遠の命になった訳だし、長寿の私としては貴方に先立たれる心配がなくなったのですもの。恐らく貴方の子を宿す事は出来ないのでしょうけど全てを欲しがるのは贅沢というものよね。こうしてまた会えただけでも良しとしなければいけないわね』
意外とナターシャはあっさりとしていた。流石伊達に500年以上は生きていない。その長寿故に今まで何人もの親しい人を看取ってきた悲しさがあったのだろう。今のリュウにはその気持ちが理解できた。