194 鈴鳴の不安
『どうしたんだ?鈴鳴。お前も報酬が欲しいのか?』
『何を戯けた事を言うておるのじゃ。まあ、くれるという物は貰わんでもないがの』
鈴鳴は満更ではなかったようだ。だが、今はそれが目的ではなかった。
『先程は近くに人が居たので詳しくは聞けなんだが、天界神様の事、詳しく聞かせて欲しいのじゃ』
『長年神様をやっている鈴鳴なら大概の事は知っているんじゃないのか?』
『そうでもないんじゃ。人が神を信仰しても神と直接会うことが適わんのと同じで妾達も天界神様の存在は知っておるが実際に会った者などおらんのじゃ』
『ってことは俺は相当貴重な体験をしたってことだな』
リュウは笑いながら天界神との出来事を思い出しながらそう言った。
『貴重どころではないわ。その体が天界神様がご用意されたなどと腰が抜ける程驚いたわ。通常では有り得ん事じゃぞ』
『そんなものなのか?』
自然の流れて擬体を貰ったリュウなので鈴鳴が言う程のものなのかと疑問に思った。だが、思い出せば擬体を作る際の儀式は普通ではなかった。
『そもそも擬体とは神化する上での最も重要な事項じゃ。それが出来るか否かで神としての資質を判断され神化が決定付けられるのじゃ。その修行も相当なものじゃぞ』
『ああ、その辺はエリザベートからサラっと聞いてるぞ』
『其方!名前で呼ぶなど何と罰当たりな。無礼を重ねると滅却されるぞ!?』
鈴鳴はどこかで天界神が聞いているだろうと思いハラハラしていた。
『それなら実際に本人から聞いてみるか?』
『!?』
リュウは鈴鳴の手をとり念じた。すると世界が塗り変わる様に変化した。以前にリュウが天界神と出会った場所だった。
『これは!?』
鈴鳴は混乱していた。これは幻術でないことは神である鈴鳴なら判る。しかもこの世界は濃密な聖なる空間である事も。それは神のいる仙人界とは比較にならない程だった。
『あら~、ダーリン、逢いに来てくれたのね♪』
目の前に羽衣を纏った聖なる翼を持つ絶世の美女が立っていた。
『そのダーリンっていうのは止めて貰えませんか?』
『いいじゃない、親密な感じがするでしょ?あら、今日は同伴なのね?そのオーラは鈴鳴ですね』
天界神は鈴鳴を見てすぐに誰だか理解した。
『て・天界神様であらせられますか。失礼致しました。私、神の一人、鈴鳴と申します』
鈴鳴はリュウが聞いたこともない様なまともで丁寧な話し方をしていた。
『そんなに畏まらなくてもいいのですよ。ダーリンがいつもお世話になっているのですから』
『そのダーリンというのは一体・・・』
『ふふふ、おかしかったかしら?この子は私の作った擬体に魂を宿しているのです。擬体は私の一部といっても過言ではありません。見聞きや体験することは全て私に伝わってくるのですよ。そういえばダーリン、浮気しちゃあ駄目よ!まあでも、あの娘とはいろいろあったみたいですから許しますが』
『やはりリュウから感じるオーラは天界神様のものでしたか。それにしても天界神様自らが擬体を御作りになられるとは・・・』
『この子には命に代えて世界を救ってもらいました。そのご褒美と思ってもらえば良いでしょう。もちろん何れは神として自らの擬体は用意してもらいますが、それはしばらく先でも構いません』
『それは理解しましたが、でもどうしてリュウの事をダーリンと呼ぶのですか?』
『ふふふ、簡単な事です。私が気に入ったからです』
『そんな。天界神様ともあらせられるお方が・・・』
『あら、そうかしら?神のあなたがリュウの側室になっているのに私は駄目と言うの?』
天界神はこの世の全てを見通している。当然リュウと鈴鳴の関係も知っていた。
『それは・・・』
『安心なさい。別に独占しようとか思っている訳ではありません。むしろ良さを理解する者が他にいて嬉しいではないですか』
鈴鳴は思った。リュウはまた厄介なお方に好かれたものだと。
『厄介なとは失礼ですね!』
鈴鳴の心も読まれていた。
『失礼しました!決してその様な意味では・・・』
鈴鳴は狼狽えていた。天界神程の偉大な存在なら造作もない事とは言え心を読まれるとは思っても見なかったからだ。