190 褒美
邪神オーグはリュウと天界神の手で封印し無限回廊へと送監された。
『我が子よ、よくぞ成し遂げました』
『この力が強大過ぎて戦いにもなりませんでしたが・・・それにオーグへの罰は濃硫酸と溶岩の滝行をそれぞれ2万年ずつだったのではないですか?これでいいのですか?』
『あの者には絶望を味あわせる必要もあったのです。これでよいのです。この方がより苦痛が大きくなった筈です』
『そういうものでしょうか・・・』
『ところで、きちんと成し遂げた貴方にご褒美をあげないといけませんね。抱擁がいいですか?接吻ですか?それとも私の体・・・』
天界神は顔を赤く染めながらモジモジしている。
『ちょ・ちょっと待って下さい。それは絶対どれか選ばないといけないのですか!?』
『当然です。ご褒美ですから。この空間は私と貴方だけ。遠慮はしなくて良いのですよ』
“”ちょっと待った!!!そんなこと私が許しませんよ!!私のマスターに手を出さないで下さい!!代わりに私がご褒美をあげるのです。さあ、マスター!どれにしますか?“”
『って、クラリス、お前は実体化出来ないんじゃないのか?』
“”はい、今はですけどね。ですからご褒美のお約束ということで“”
『それではこうしましょう。今は私がご褒美をあげて、後ほどクラリスもご褒美をあげるということで』
“”それは良いアイデアですね!天界神様!“”
天界神の暴走をクラリスが止めてくれるのかと期待したが期待した自分が甘かったとリュウは思った。ミイラとりがミイラになるとはこの事だ。
『まあ良いでしょう。戯れはあとに残しておくとして、我が子よ。この先の事についてお話をしなければなりません』
リュウは戯れをあとに残しておくと言うのが気になった。普通冗談は置いといてだろうというツッコミを入れたかったがとりあえず話を先に聞くことにした。
『この先のことですか?』
『あなたは既に人間ではありません。肉体は滅び、人間で言う死を迎えました。今の貴方は私の擬体に魂を入れているだけに過ぎないのです』
『やっぱり死んでしまったから元には戻れませんか・・・』
リュウとしてはオーグに体を消滅させられてすぐに天界神に出会ったので死んだという感覚はなかった。だが自分が死んだという事実をクリスや家族達、その他大勢の人が知ったら悲しむだろうなと思った。
『そんなに落胆することはありませんよ。貴方は世界を救ったという功績があります。その活躍に見合うものを与えなければなりません。本来、神となる者は死して体が滅してから己の擬体を作れるまで仙人界で修行をします。
その修行は現世の時間で数百年以上掛る長い修行です。貴方にもこの修行で自らで擬体を作る修行を行ってもらいますが、そうなると現世の人とは二度と会うことがなくなります。
貴方はこの先永遠に等しい寿命がありますが、現世の人達は貴方が修行をしている間に皆寿命が尽きてしまうでしょう。
そこであなたには特別に今の擬体を使う事を許します。その擬体で現世に戻るといいでしょう』
『天界神様!ありがとうございます!』
もう二度とクリス達に会う事が出来ないと落胆していたがそれが適うと聞いてリュウは天界神に感謝した。
『但し条件があります』
リュウは“来たーー!”と思った。そう簡単には貸してくれないだろうなと思ったら案の定の条件付だ。
『まだ何か果たさないといけない事でも?』
『そうですね。これは私にとっても貴方にとっても重要なことです。貴方の空間転移でオーグの脅威から開放したローグは今、貴方が元住んでいた世界に飛んでいます。
そして貴方の元住んでいた地球は消滅の危機を向かえているのです。ローグの人達が貴方の元居た世界に飛んだ事で運命が少しずつ変わりはじめています。
ローグの知識や技術を用いて地球を救うのです。死を待つ星から生命力ある星へと地球が変われば私の作った12の地球で唯一存続させることが可能となります』
『ローグが元居た世界に飛んだのですか!?』
『あなたが転移させた時の状態で上空に浮遊しています。浮遊島という感じですね。地球は今の世界よりも重力が軽いので反重力板で軽々と浮ぶみたいですね』
『地球のどの位置に飛んだか判りますか?』
リュウは紛争地域に飛んでない事を祈った。
『あなたの記憶の場所に近い位置に飛んでいるはずです。恐らく日本の海域でしょう。ちょっと待って下さい。・・・はい、今は浮遊島に滞在している人と東京に居る人に分かれていますね』
『よかった。日本に飛んだのですね。ならば滅多な事は起らないでしょう』
『この後、貴方も合流することになるのであとは自分の目で確かめるといいでしょう。あと、擬体になった貴方は以前と様相が異なっています。特に金色の目は人々を驚かす恐れがあるので色付眼鏡等で隠すといいでしょう』
『色付眼鏡・・・サングラスですね』
『なんですか!?今馬鹿にしましたね?折角助言をしてあげているというのに!』
自分の発言が時代遅れだった事に気付いて恥ずかしさの余り顔を真っ赤にして立腹する天界紳だった。この方のこういうお茶目なところが憎めないんだよな。リュウは笑いながらそう思った。
『お茶目で悪かったですね。ぷんぷん』
リュウの心は常に読まれている。変な事は決して考えてはいけない。にしても“ぷんぷん”なんて言わないよな普通・・・ と、チラっと思ったあとでしまったと後悔した。
『・・・擬体貸すのやめようかな~?』
『すいません、俺が悪かったです。なので擬体は貸して下さい』
『最初から素直に感謝すれば良いのですよ。でもそれでは私の心が収まりません。罰として時々私とデートすることを命じます』
『デートって・・・』
『来なかったら夜這いをかけますからね!これは決定事項です』
また怒らせて擬体を貸さないと言い出すかもしれないのでリュウはとりあえず話を聞いておくことにした。だが、デートとは一体何をするのだろうか・・・
『貴方の今想像した事、してもいいのよ♪』
リュウはしばらく心を封印することにした。
リュウは今すぐにでもローグのところへ飛びたい気持ちだったが、無事を確認しているので先ずは現世に戻って南北大陸の状況を掌握してまとめる必要があると感じた。ローグが突然消えて各地でも戦闘が繰り広げられていたので混乱しているだろう。これを収束させないといけなかった。
『天界神様、先ずは向こうの世界に行き、フォローをしたいと思います。ローグが消えて混乱していることでしょうから』
『エリザベートよ。私の名前。いつまでも天界神だと余所余所しいでしょ。あなたの事はダーリンと呼ぶわ。そうね、あの世界もまだ混乱している様なのであなたが行く方が良いでしょう。今のダーリンの力なら念じるだけでどこへでも飛ぶ事ができる様になっているので』
リュウはダーリンについてはスルーすることにした。また反応するのややこしくなるのは明らかだったからだ。
エリザベートから借りた擬体を纏いリュウはマキワのローグ跡地へ飛んだ。