186 次元の狭間へ再び
天界神の見送りの言葉でリュウは次元の狭間に戻った。闇一色となった次元の狭間ではオーグが勝利の余韻に浸っていた。
『ガハハ、所詮この程度のものよ。儂が本気を出せば聖なる領域であろうと関係ないわ』
オーグは既に闇と化したこの空間で誰に向かって言うでもなく言葉を発していた。
その時だった。前方に眩い光が現れたのは。閃光とも呼べる光にオーグの目は眩んだ。
『なんだ!一体!?』
光のオーラを纏ったリュウの姿がそこにあった。
『馬鹿な!貴様は先程微塵も残らず消滅したのではないか!?』
オーグは驚きのあまりに声を荒げてリュウに向かって吐いた。 髪の毛と目の色が違うリュウの姿を見てもその事はどうでもいいと言うかの如くオーグにとってはリュウがその場に再び現れたことに驚きを隠せなかった。
『悪はいつの時代も栄えない様になっているんだ。もうお前も終焉を向かえるということだ』
リュウは自分で言った台詞の臭さに頭が痛くなったが、何か言おうと思って咄嗟に出たのがその言葉だった。恐らく過去に見た映画かドラマの台詞が潜在的に残っていたのだろう。
“”マスター!ご無事だったのですね!?もう!心配しちゃいましたよ!って、マスター雰囲気がさっきまでとは違いますが?大丈夫ですか!?“”
『クラリス、心配させたな。まあ色々あってな。あとでゆっくり話す。先にオーグをサクッと倒してからな』
””了解しました!それじゃあ、サクっとやっちゃって下さい””
『何を抜かすか!この空間は儂が支配しておるのだ。戯言を言うでない。貴様など何度でも消し飛ばしてくれるわ』
オーグはそう言うと再び空間を闇で満たして爆破を試みた。先程リュウが殺られたのと同じ攻撃が繰り返された。
爆発しては静まり、また爆発させる。それが何度も繰り返される。
オーグもまた現れない様に念入りに攻撃を繰り返している。
どれくらい続けられただろうか。オーグが納得したかどうかは判らないが攻撃が止まった。
最後の爆発の煙が消え去って辺りを見渡すと一人の人影が現れた。
その人影とは勿論リュウである。
リュウは傷一つ負うこともなくその場に立っていた。
『空間をお前が支配した?笑わせてくれる。俺は無傷だぞ?それに闇なんてどこに覆われているんだ?』
突如リュウからオーラが四方に拡散放出された。そのオーラは闇を光に塗り替えていき空間は光の世界へと変わっていった。
『何だ!?この光は!!あ・熱い!体が溶ける様だ!』
『いや、溶ける様ではなくて実際に溶けてるだろう』
オーグの体から煙が出ておりジリジリと音を立てて端から消滅していっている。
『馬鹿な!貴様!一体何をした!?』
『そう狼狽えるな。邪神なんだろ?もう少し威厳があってもいいんじゃないか??まあいいだろう。俺はお前を倒す様に天界神様から託されたんだ』
『何!?天界神だと・・』
その時リュウの背後に更なるまぶしい光が出現した。それは光とは呼ぶよりも聖そのものという感じで慈愛に満ちた光だった。だが、その光は逆にオーグにとっては不快そのもので直視出来なかった。
リュウの背後に絶世の美女、天界神の姿がそこにあった。
『オーグよ。貴方は神としてしてはならないことをしてしまいました。その深き罪、きちんと償ってもらいますよ』
『天界神なのか?・・・貴様が無能な創造主だから民が苦しむのだ。儂ならそうはならん』
神であったオーグは天界神の存在は知っていた。だが知っているというだけでおいそれと顔を拝める筈もない遠い存在だったのだが、今となっては自分が天界神に代わり創造主となることを宣言している身なのでその尊い存在であったことなど忘れて対応することとしたのだった。
『貴方は重大な勘違いをしている様ですね。貴方は闇の力を持っています。闇は消滅させることに特化しています。逆に光は創造することに特化しているのです。これを考えれば貴方に創造主になれる素質があるかどうか明白です』
『勝手な事言いおって。出来るか否か一度全てを消し去ってみれば判るわ』
『貴方には何を言っても無駄な様ですね。判りました。我が創造主の子よ、その力存分に振るいオーグに鉄槌を下しなさい』
リュウはいつの間に貴女の子になったんだ?という突っ込みを入れたい気持ちだったが空気を読んで軽くスルーした。
光の輝きが一段と増したリュウは体から光の輪が水の波紋の様に波打っている。その聖なる光が凝縮された輪を見たオーグはかなりの危険を本能で感じていた。
『先程まで儂の足元にも及ばなかったのがどうしてこの様な力が持てるのだ?おかしいではないか!
・・・さては、天界神!貴様の仕業だな』
『口数の多い奴だ。どうでもいいじゃないか。自分が一番なんだろ?なら誰が俺に力を貸そうがお前には通じないんだよな?』
リュウが一瞬消えた。瞬間移動ではなく瞬発力でオーグのところまで移動したのだが、あまりにも速い速度に目が追いつかないため消えて見えたのだ。しかもここは次元の狭間。踏み込める様な固い地面はなく浮遊しているのに近い状態なのにそれだけの速さで移動出来ることが驚異だった。
瞬時にオーグのところまで移動し、その姿をオーグが認識する前にリュウは拳をオーグの腹にぶち込んだ。リュウからすれば軽いジャブ程度のつもりで“当てただけ”だったのだがオーグに腹にめりこんだ拳は非常に重い打撃でオーグは、くの字になりながら彼方まで飛ばされた。オーグには一体何が起こったのか判らなかった。突然衝撃と痛みが襲い飛ばされた。その程度の認識しか得られなかったのだ。