183 天界神
目の前には絶世の美女が立っている。自身を天界神と名乗り、リュウを異世界に送り込んだ張本人だった。
リュウはその話を聞いて複雑だった。突然なんの予告もなく異世界に送られたのだから納得できる筈がない。だが、そのお陰でクリス達と出会い、充実した毎日を送る事が出来た。その事には感謝しなくはいけない。その両方があって複雑だったのだ。
『私はあなたが救世主となるべく素質を持っていることを知り世界を転移させるのに力を貸しました。白翁の能力では少し足りませんでしたので』
『それでは俺が白翁仙人に出会って神の力を備えて世界を救うことを見越していたの言うのですか?』
『その通りです。ですがあなたは私の想像以上の働きをしてくれました。まさか種族の壁を乗り越えて和平の道を作るとは思っていませんでしたので』
『天界神様に過大評価頂くのは有り難いことなのですが、俺はオーグに破れました。これでは世界を救った事にはなりません』
『そうですね。オーグの負の膨大な力で呼び寄せられた神楽元の存在は予定外でした。彼は人間でありながらその負の魂は邪心オーグにも匹敵するものだったのです。負の力同士が引き寄せ合ったと言った方が良いかも知れません。
ですが貴方のお陰でその神楽元も消滅しました。彼には輪廻転生を授けず終生地獄の更に下層にあたる暗獄に収監を命じました。暗獄とは光も音もない無の世界であるのは苦しみ痛みだけです。彼は途切れることなく苦しみもがき続ける罰を与えます』
『まあ自業自得といったところか。それで神楽元のことは判りましたがオーグはこの先どうなるのでしょうか?』
『もちろん貴方が倒すのですよ』
『!?』
リュウは天界神が何を言っているのか判らなかった。自分はオーグに殺されてここに来ているというのにいったい何をしろと言うのだ。
『貴方の混乱は当然の反応だと思います。貴方はオーグによって殺されました。ですが無くなったのは肉体だけです。精神はこの通りここに存在しています。
先程貴方に言ったオーグを倒すというのは選択肢の一つです。貴方に用意する仮初の体でオーグを倒すか、このまま魂を通常の死人を同じ様に霊界に送るかのどちらかです』
『それって殆ど選択の余地がないですよね』
『そうですね。貴方なら二択ではなく必ずオーグを倒す方を選ぶでしょう。仮初の体といいましたが、それが与えられるという事は神と呼ばれる存在になるということです。神々は皆本来の体は既に消滅しており擬体を器にしているのは知っていますね?』
『はい、そういう存在だと聞いております』
『貴方の擬体は他の神とは異なるものです。本来神とは自らが器を用意出来る程に精進して朽ち果てた体を失う代わりに神という存在になるのですが、あなたの場合はその過程はありません。天界神である私が自らがあつらえた擬体で単なる器ではなく有り余る力をそこに凝縮してあります。その膨大な力故、今まで使える者が居ませんでしたが今の貴方なら問題なく使いこなすことが出来るでしょう』
『どれくらいの力を使う事が出来るのでしょうか?』
『それは貴方次第です。力は潜在的に隠れています。それを上手く引き出すことが大切です。大丈夫、貴方ならできます』
『ひとつお聞きしてもいいですか?』
『はい、構いませんよ』
『神楽元は消滅して暗獄行きだということは判りました。それではオーグは倒すとどうなるのでしょうか?』
『そうですね。人間と神とは扱いが異なります。オーグの場合邪神とはいえ神と言える存在です。なので神としての罰を与えなければなりません。彼はこともあろうか創造主になるなどと戯けた事を信じていました。創造主は私以外にはなれないというのに。
オーグには苦行をしてもらいます。濃硫酸と溶岩の滝行をそれぞれ2万年ずつ行ってもらいましょう。それから先は修行の成果を見て決めることにします』
『それって罰になるのですか?』
『擬体とはいえ痛覚は通常の体と同じくあります。ですが治癒力が高いので損傷を受けてもすぐに回復するのです。そこで無限に負傷と回復を繰り返していく訳です。苦痛は永遠に続きます。もちろん彼の力は全て剥奪するので自分を治癒する以外の力は備えていません』
『天界神様は結構サディスティックですね』
『あら、そうかしら?ふふ、でも考えてみたらそうかも知れませんね。神とは救うばかりでは勤まりません。時として罰を与える事も神の仕事なのです』
『神の怒りというやつですね。 あ、ちょっと疑問なのですが、オーグはどうして俺が倒さなくてはいけないのですか?天界神様が自ら罰せれば済む話に思いますが』
『そうですね。それが出来れば貴方達に迷惑をかけることはありませんでしたね。私は創造主であるためこの世界から出ることが出来ません。自らが手を下せないので神々を代理に遣わすことになっています。ですが貴方が知っている通りオーグは元神であるため神同士では手が出せなかったということになります』
『天界神様、実は自らで処理すること出来るのではないですか?』
『あら?わかっちゃいました?
本当はその方が面白かったからです。こんなこと言うと貴方に怒られてしまいますが、人が自らの力で道を切り開くその姿が見たかったのです。もし貴方という存在がいなければ私が自らオーグに手を下していたでしょうね』
『そう言ってもらえれば納得がいきます』
『さて、長話になってしまいましたね。そろそろ貴方に擬体を渡したいと思います。こちらに来て下さい』
天界神とリュウとの間は3メートル程だったが、もっと近くに寄る様に言われてリュウは天界神の目の前に立った。天界神は近くで見ると大きかった。身長は178cmのリュウとあまり変わらないのだが存在自体が大きく感じる。オーラと呼べるものだろう、それを感じていた。