176 大都市東京
ヘリ上空から見えた東京の街はまるで別世界そのものだった。高層ビル群や高速道路にびっしりと詰まった車の列、横断歩道を渡る人の群れ、スケールの次元がまるで違った。
人口五万のローグは今は世界の中心となり世界各地からの訪問者や移住する者も増えており、以前の倍の十万人都市となったとはいえ、人口が千万人以上と言われるこの東京を前にすれば比較にならないくらいに霞んでしまう。
『なんだか物凄く高い塔が二つ見えますね』
ヘリから見える風景に二つの高い塔が目に入ったクリスが質問をした。
『あれは北東方向に見えるのがスカイツリーで北西方向の塔が東京タワーです。二つとも電波塔ですが、展望台から街を展望できるので時間があれば是非行かれてみてはどうでしょうか』
『ありがとうございます。是非そうしてみたいと思います』
クリスは展望台に行きたいと思ったが行くならリュウに案内してもらいたかったと少し残念に感じた。
それに展望という意味では揺れや音は大きいが塔より更に高い位置から眺められるこのヘリの方が眺めはいいかも知れない。
ヘリは市ヶ谷基地近辺まで到着した。市ヶ谷基地は中央線市ヶ谷駅の北西に位置する大きな敷地の軍事施設だ。日本国軍の陸海空軍それぞれが駐留しており、敵国からのミサイル攻撃に対処するための高射砲も配備してある千万人都市東京の防衛の要と言って良い基地だ。
ヘリは丸い円に描かれたヘリポートに着陸した。パイロットは乗客を怖がらせない様にローターの回転を停止させるまで乗客に待ってもらった。
ローターが停止するとハッチが開きタラップが降りた。既に出迎えが目の前に整列して並んでいた。
『敬礼!』
多くの軍人が並んでおり、一斉に敬礼を行っている。
『マキワ国の皆さま、ようこそ我が日本にお越し下さいました。私は市ヶ谷基地 最高司令官の山本と申します。皆さまを歓迎致します』
『盛大な歓迎、感謝いたします。マキワ国 国王のマグワイヤー三世です』
山本司令官と国王が握手をした。山本司令官の階級は中将だ。左胸には数多くの勲章が付けられているので実戦で活躍をした実力派なのだろう。握手した手もそれに相応しく力強いものだった。
『これから皆さまを赤坂にある迎賓館までご案内いたします。首相の一条はそこでお待ちしております。
ところで王女のクリスティーヌ様は平少佐とご結婚されていると伺いましたが?』
『はい、私が皇女のクリスティーヌです。タイラ・リュウは私の主人です』
『おお!これは何とお美しい。皇妃様も皇女様も大変お美しいのは家系の様ですね。平少佐が羨ましいです。彼は私の元部下だったのですよ。彼の功績があったからこそ上官である私も出世することが出来たと言っても過言ではありません。今日は彼に会えなくて非常に残念です』
『お褒めに預かり光栄です。はい、主人は今も戦いの地に居ります故にこの場に居らぬ事ご了承願います』
『それはさぞ心配でしょう。我々には何もする事が出来ませんで恐縮です』
『いえ、とんでもない。お心遣いだけでも有難く思います』
『さあ着きました、皆さんこちらの車にお乗り下さい』
歩きながら山本司令官と話をしていたが駐車場に待機しているリムジンに国王達皇族が乗り、その他の物はリムジンバスに乗車した。
先導と警備の為の白バイとパトカーも既に待機していた。
山本司令官達に別れを告げ国王一行を乗せたリムジンとリムジンバスは赤坂迎賓館に向かった。市ヶ谷から赤坂まではそれ程離れた距離にない。渋滞がなければ十分もあれば着く位置にある。
白バイ二台とパトカーに先導され、後方も二台のパトカーが追従している。目立たたさない為に道路封鎖はしていない。
街行く人達は日常に迎賓館を訪れる要人を目にしているので護衛付きの一行を見てもそれ程気にすることはなかった。この近辺には迎賓館だけでなく各国の大使館や国関連の施設が多く日常として目にする機会が多いからだ。
国王一行は空から眺めていた街並みを今度は車窓から見ることとなった。どこを見ても高いビルに囲まれている反面、堀りや木々も所々に存在しており近代的な建物と自然が共存していることに驚いた。
一行の車は迎賓館の要人専用の門から入ることとなった。この迎賓館も自然の多い場所だった。先程の都会のビル群と同じ場所とは思えない光景だ。そして目の前には見たこともない程立派な西洋調の建物が見えてきた。
玄関前に止まったリムジンの前には赤いカーペットが玄関まで続いていた。この様な格式高い出迎えは向こうの世界ではなかった事で国王達も驚いた。足元のカーペットは柔らかく足の感触が心地よかった。
『ようこそお越しいただきました。私は日本国総理大臣の一条時宗と申します』
一条総理と国王は挨拶を交わし握手をした。総理の一条は元軍人の総理大臣だ。この国では軍が非常に力を持っており、国会議員にも軍出身の者が多く居た。その中で与党となる自由平和党が過半数を大きく超える議員数で政権を握っていた。
この国は軍事大国で戦争をする事に対するハードルは低かったが主にアジア諸国の植民地からの解放や世界平和を脅かすテロ国家に対する制裁などでの戦争が中心で侵略戦争の類は法律で禁じており軍が暴走しない様に歯止めを掛けている。
首相との挨拶を済ませた一行は奥へと案内された。
この迎賓館は調度品といい床や壁の造りといい非常に贅沢に施されており、この国の来賓に対する歓迎の度合いが伺える。
『長旅でお疲れでしょう。まずはこちらにお部屋を用意してあります。三十分程後に席をご用意致しますのでそれまでは暫しお寛ぎください』
館内の案内係に部屋を案内され国王達は応接の間へと通された。