175 はじめての世界
艦長と約束した時間に合わせて国王達は日本国の招待に対する準備を行っていた。
今回の訪問は国王、王妃妃、王女と政務大臣、財務大臣、軍務大臣、法務大臣の四大臣、モノローグから代表代行としてジャン、王族お付として10名、秘書官5名の23名を選出した。
滞在日数はどの程度か判らないが数日分の衣装と小物をケースに入れ荷物としているが、このケースは空間ケースであるため王族用、大臣用、その他用と3つのケースに留めている。
浮遊島ローグは希望通りに高度を100メートルのところまで下げている。この位置からだとホバープレーンを使って降りるよりも反重力装置を底面に敷いたフロアをエレベータ代わりに使った方が早かったのでローグ職人の突貫工事で島の端部に昇降スペースを設けた。
この昇降装置は通常は上空の位置に待機させてあるが遠隔操作で下まで降ろすことも出来る。定員も50名程度なら一度に運ぶことが出来るから便利だ。
約束の時間に浮遊島ローグの下で待機していた“巡洋艦しらかぜ”だが、二十人以上が乗ったフロアが何の装置も見当たらずに降下してきたことに驚いた。
『艦長、やはりあのテクノロジーはすごいものがありますね』
『ああ、我々には理解できないレベルだな。あの技術が我々にも教授してもらえると有り難いのだが』
艦長と副長は上から降りてきたローグの一行を出迎えた。
『お初にお目にかかります。国王様。私は日本国海軍?巡洋艦しらかぜの艦長の佐治と申します。この度は我が国の招待をお受けいただきありがたく存じます』
『こちらこそご招待に預かり光栄です。私はマキワ王国 国王のマグワイヤー三世です。突然貴国の領土に出現してご迷惑をお掛けし恐縮です』
『いえいえ、とんでもない。むしろ我が国の海域で幸いでした。王女にお話を伺いましたが平少佐がお世話になっているそうで、我々の元同僚がお世話になっている方々には丁重にお迎えする様に我が国の国家元首よりご指示されております。』
『婿殿、いや、平伯爵は我が国を発展させてもらった救世主です。今の技術力や生活レベルの向上は全て平伯爵のお陰と言っても過言ではありません』
『そうなのですね。ところで平少佐は向こうでは伯爵なのですね?』
『はい、私と一緒になった事とそれまでの実績を考慮して爵位を与えられたのです』
『やはりどの世界に居ても只ならぬ活躍をしますね少佐は』
話をしながら艦長は甲板に待機しているヘリコプターまで一行を案内した。待機していたヘリコプターは大型の輸送タイプのヘリで2機がいつでも飛び立てる準備をしていた。
『この巡洋艦しらかぜで皆さまを首都の東京まで御送りしても良いのですが船舶の航行ですといささか時間が掛かりますのでこちらのヘリコプターに乗っていただきます』
『これが空を飛ぶのですか?見たことない乗り物ですね』
『そちらの世界にはない物なのですね。こちらの世界の物は何でもあるものと思っていましたのでちょっと驚きました』
『そうです。まだ発展途上なもので。でもここ数年でかなり充実してきました。それも主人のお陰です』
『さあ、足元にお気をつけて順番にお乗り下さい』
ヘリはまだプロペラを回しておらず乗り込む際に頭上を気にする必要がない。これが回っている時だと今にも頭に当たりそうな錯覚があり恐怖心を与えると思い艦長が乗り終えてからプロペラを回す様に指示していたためだ。艦長は気配りが出来る男だった。
『これで空を飛ぶのですね?空を飛ぶなんて初めてで緊張しますわ』
『ああ、私も初めてだから一緒だよ』
国王と王妃はいささか緊張気味だった。クリスは魔法でリュウと何度か空を飛んだ事があるのとホバープレーンで既に飛び回っているので落ち着いていた。
ヘリの搭乗員から簡単な説明があった。ここから約1時間の飛行で首都東京へ着くらしい。
パイロットが正面パネルのスイッチやレバーを操作すると頭上にある大きなローターがゆっくりと回り始めた。
このヘリは輸送や人を運ぶために造られているので2機に分乗して十分に余裕があった。
艦長も搭乗員達も一行のあまりの荷物の少なさに驚いたのだが空間トランクの存在は秘密にしてある。思わぬ所に落とし穴が無いとも限らないので文化や生活の異なる事に関しては極力発言を慎む様に皆にも命じている。
かなりの大きな音がしてヘリがフッと浮いたかと思うと瞬く間に巡洋艦しらかぜの上空へと舞い上がった。
窓の外は海しか見えないが上空へと飛び立ったことは感覚でわかる。
垂直上昇をした後にヘリは真っ直ぐ東京へ向かって進んだ。
ヘリの中は騒音が大きくてあまり会話が通じる状態ではない。会話が必要な場合は備え付けのヘッドフォンマイクを使って会話をする様に伝えられていた。
しばらくは海しか見えなかったが進むにつれてタンカーや客船などの民間の船舶が海上航行しているのが見えてきた。
今は上空800メートル付近を飛んでいるので船舶は結構小さく見えるがタンカーなどは物凄く大きい。それよりも海が非常に穏やかな方が一行には驚きだった。
やがてヘリは東京は付近にさしかかると湾岸沿いに建てられた建造物やタワーが見えはじめた。どれもこれも初めて見るものばかりで驚きの連続だ。ローグがいくら繁栄してきたと言っても足元にも及ばない程の文明の発達ぶりを目の当たりにした。
『長らくお待たせしました。当機はまもなく市ヶ谷基地ヘリポートへと着陸いたします。備え付けのシートベルトを装着下さい』
パイロットが到着準備のアナウンスを告げた。