174 スーパークラリス
リュウはクラリスが生きていたことがこの上なく嬉しかった。正しくはもともとがコンピュータなので元の状態に戻っただけなのだろうが形があろうが無かろうがあのクラリスが健在であればいいのだ。
今ではリュウにとってクラリスは癒しに近い存在だった。呆れる事も多いが常にリュウのために気遣ってくれる心地よさがあった。
””マスターの世界の技術に非接触給電という技術があるのをご存知ですか?””
『ああ、携帯電話の充電とかで端子がなくても台に置くだけで充電される技術のことだな?』
””はい、その通りです。その技術はもう少し進んでおりまして数メートル程度なら接触せずに電力供給することができる様になっています。人工衛星と地球との電力通信も実用化に向けて取り組んでいる様でした””
『その技術が魔力供給とどう関係するんだ?』
””はい。実は私は消滅の衝撃である変化が起こる様になったのです。そのある変化とは未来のネットワークにアクセスできる様になりました。人間で言うタイムワープですね。それをネットワーク上で実現させた様なものです。その能力を使ってこの技術の未来についてデータアクセスを試みたところ100年後には当たり前の技術として浸透していました。むしろ有線技術というのが無いくらいに進化していたのです。そこで得た基本ベースに魔力を送信する技術を確立させた次第です。それと同時に未来のコンピュータの情報も得たのでシステムもハードとプログラムの両方を高速化させました””
リュウはクラリスの説明を受けて唖然とした。既にクラリスは未来にもアクセスできるというのは想像の遥か先を越えていた。
『俄かに信じられないが、なんとなく判った』
””まあ、簡単に言っちゃえばスーパークラリスになったということですよ。髪の毛は金色に変化しませんけどね””
もうどこを突っ込んでいいのかわからなくなったリュウだった。
こうやってリュウとクラリスが会話している間もオーグとの戦闘は続けられている。
オーグは瀕死だったリュウが次第に回復していき手強くなっていくのを不可解に思っていた。
『貴様!しぶとい奴だな。なぜ落ちん?』
『そう簡単にやられてたまるかよ』
今まで余裕だったオーグに焦りが見え出した。この次元の狭間の空間は闇の属性のオーグにとっても消耗の激しい空間だったからだ。力を供給されているリュウとは逆にオーグは力が奪われる一方だからだ。何故かこの空間では吸収が使えないのだ。
長時間の消耗の末、リュウとオーグの力のさが拮抗しつつあった。
元は魔力で1:30、力で1:5だった差が、魔力1:10、力1:2までに縮まっていた。
今まで圧倒的な力の差に押されてきたリュウの技が通り始めたのだ。
『馬鹿な!この儂が、全てを統べる創造主である儂がこんな人間如きに手こずるとは』
オーグは焦りが怒りに変わっていた。まさかここまで引っ張るとは思っても見なかった事と最初から侮らず全力で叩き潰すべきだったという後悔があったからだ。
””マスター、オーグの力が急激に弱まっていますが何か変です。嫌な予感がします””
『クラリスもそう思うか?俺もオーグが何か企んでいる様に見えて仕方ない』
どうにも怪しく見えたのがオーグが押され始めているのに奴の顔が笑って見えたからだ。その顔には何か企んでいると顔に書いてあるが如くのたちの悪いニヤケ顔だった。
『オーグ、何を考えている!お前の事だからまた悪企みの類なんだろう?』
『ふん、儂が手の内を明かすと思うか?まあ、貴様は次の一手で終わりなのには変わりない。せいぜい最後の念仏でも唱えていろ!』
オーグはリュウ得意の誘導尋問にかかり次に大技を発するつもりである事を宣言した。こういう油断が命取りになるのは定石だろうに。
だが、オーグの言う次の一手が気になる。一体どんな攻撃を仕掛けてくるのだろうか?
『クラリス、オーグの次の手とは一体なんだと思う?』
””今分析していますが、オーグはまだ使っていない技がある様です。自分の最も得意とする闇魔法ではないでしょうか?””
『奴はまだこの次元の狭間では一度も闇魔法を使っていないのだがそれと関係するのだろうか?』
””それですマスター、実はこの世界混沌の世界の様に見えますが聖魔法領域の様です。ただ、聖ではありますが聖属性に影響を及ぼすことはないみたいです。それが何故だかは判りません””
リュウは驚いた。次元の狭間が聖属性の空間だったとは。でもそれで納得がいった。オーグは闇の魔法を使わないのではなく使えなかったのだ。
『さて、そろそろ終わりにしようかの。人間よくぞここまで頑張った。褒めてやる。お前といいカグラといい流れ人の方が使える様だな。だがこれで終わりだ。消えてなくなるがいい。
次元反転!』
オーグが唱えた瞬間に空間が全て闇に覆われた。聖属性であった次元の狭間が闇属性へと塗り替えられたのだ。
『暗黒爆発!』
オーグは闇の空間を自由に操れる。その力で闇の空間全体を爆発させたのだ。遥か彼方まで広がる暗闇の世界。その世界全体が爆発を起こした。引火性の高いガスが充満したところに火を放ったに近い大爆発だった。
成す術もなくリュウは爆発に巻き込まれた。爆音とともに意識が途切れた。