172 次元の狭間
リュウとオーグは次元の狭間へと飛んだ。リュウはローグを転移させた異世界が自分が元居た世界だと知る由もなかった。
次元の狭間。ここはどの世界とも様相が異なる。地平線があってそれは地平線ではない。様々なものが浮遊している。崩壊したビルの残骸、自動車、船舶、飛行機、何の装置かわからないもの。自然の物から人工物まで様々だ。それはまるでゴミ捨て場の様だった。
世界の墓場と言えばその通りだと思うだろう。
混沌という表現に近いだろうか空間は光と闇が混ざりあっている。太陽にあたる光は見当たらない。薄ぼんやりと明るくなっているという感じだった。
次元の狭間に飛ばされてすぐにオーグの拘束は解除された。本当に数分も持たなかった。オーグは余程拘束が辛かったのか息を切らして立っていた。
『よくもやってくれたな。小賢しい者どもよ』
『お前に世界を壊させる訳にはいかないからな』
『愚かな。どこに居ようが儂の恐怖からは逃れることは出来んというのに』
『ひとつ聞きたい。オーグ、何故お前はそれ程までに世界を消したがる』
『ふん、聞きたいか?まあいいだろう。遅かれ早かれ死ぬ運命にあるのだ。それくらいの事は聞かせてやろう。
その昔、儂は神として君臨しておった。儂らの役目は人間達を見守ること。幾千年もの間その生活、所業を見守っておった。だが人間はいつの時代も争いに明け暮れ人を貶め、殺戮・強姦・略奪・破壊、何故これ程までに同じ種族である者同士で争えるのか理解に苦しんだ。
儂は一つの村の面倒を見たことがある。やせ細った土地だったが皆必死に生きるために工夫をしたり励ましあったりして生活しておった。そこの住人と話をするのが楽しみだったとも言える。
だが人間はそんな慎ましく生きる者達にも刃を向けたのだ。
儂も一つの村を見続けている訳にはいかず他の土地も面倒を見ていたのでひと月毎に行く程度だったのだが、次に訪れた時には村はもうなかった。盗賊が村人を襲い略奪、強姦、殺戮を行い挙句の果てに村に火を放ったのだ。
それを知った儂は怒り狂った。犯行に及んだ者達だけでなく卑しい者全てを恐怖とともに血祭りに上げた。その時からだ。儂の考えが変わったのが。
この世界の創造主が作った生き物では駄目だ。儂なら理想郷を作れるとな。だから儂はこの世界を一旦無に帰す必要があるのだ。新しい世界を作るためにな』
『なるほど。なんとなくだが理由はわかった。だがお前が滅ぼそうとしている人間にも昔面倒を見ていた村人みたいな人が多くいるんじゃないか?そういう人を殺すのがお前の本望なのか?』
『善人はいつか悪人に仕打ちを受ける。それがこの世界だ。それなら儂の手で無に帰してやるのがせめての慈悲というものだ』
『それは望まない慈悲だな。極めて自己中心的な考えだな』
『何とでも言え。別にお前に理解してもらうつもりで話したのではないわ。さて、長話をし過ぎたな。お前にも終止符を打ってやろう』
オーグは既に呼吸は元に戻っている。禍々しい気も健在だ。
オーグは前方に手をかざした。すると世界が水平に真っ二つになった。空間がズレたと言うべきか。
リュウは咄嗟にオーグの攻撃を察知し跳躍で避けたが、リュウの元居た場所、その後方の建物や瓦礫すべてが水平に交互にズレた。
それはまるで空間ごと横一文字に切り裂いたと言うべきだろうか。
もしリュウが直撃を喰らっていればそこで死が確定していただろう。
『ほう、今のを避けたか』
オーグはリュウが避けるとは思っていなかったらしく感心をしていた。それは余裕がある証拠だった。
『ならばこれはどうだ』
オーグは特に動作をとるでもなく次の攻撃に移った。今度はビルの残骸や瓦礫、大きなものは30メートルほどもある物体を次々に操りリュウ目がけてぶつけた。
いくら跳躍スピードの速いリュウでも物体が大きければ回避が間に合わない。しかも一つ二つの攻撃でなく同時に数十の物体がリュウ目がけて飛んでくる。
リュウは分身を5体放った。標的を分散させることで攻撃を逸らす考えだ。
だがオーグは5体全てに数十の物体をぶつけにかかった。ビルとビルがぶつかり合い、石油タンカーが衝突する。凄まじい轟音と共に土煙が舞い上がる。
5体の分身体は数回避けるの限界ですぐに消滅させられた。
やはり力の差は歴然だ。
今のリュウとオーグの力の差は約1:30といったところだろうか。今までの戦いで削られてきたとはいえまだ30倍もの力が蓄えられているのだ力技を繰り返したとしても急激に減るものではなかった。
『本当に厄介な相手だな。持久戦に持ち込めば確実にこちらが先にガス欠になってしまう』
どうやって打開策を見出すかを考えるリュウだったが、そのリュウ目がけて再びオーグは横一文字の空間交差攻撃を仕掛けた。
咄嗟に回避したリュウだったが今度は間に合わず右足が膝上から切断された。
『ぐっ』
強烈な痛みがリュウを襲う。大量の血が足の切断面から流れ出た。
『ちっ、仕留め損ねたか。だが最早これまでだな。片足では自由に動けまい』
オーグは次の攻撃でとどめを刺すつもりらしい。
リュウは完全治癒を自身の足に掛けた。
すると次の瞬間に欠損していた足が元に戻っていた。