170 魔法という存在
クリス、ソフィア、セバスチャンの三名は艦内にある会議室の様な場所に通された。ここは軍用艦なので立派な内装や調度品のある部屋は用意されていない。その中でも客人を案内するとすればこの会議室が一番最適だと艦長は判断し通したのだった。
艦内を案内されて通りながら中の様子を見たクリス達だったが今まで見たことのない様な装置や機材がびっしりと並べられているのに驚いた。それとこの船を一隻作るのにどれくらいの鉄が使われているのだろうとも考えた。ローグの職人やドワーフが見れば思い切り食い付くことだろう。
部屋に入り着席すると三人の前には紅茶がティーカップで出された。
『狭苦しいところで申し訳ありません。当艦は軍用艦ですのでお客のもてなしを考慮されておりません。何卒ご容赦の程を』
『いえいえ、お気遣いには及びません。突然の来訪ですので』
『恐縮です。それでは単刀直入にお伺いしてもよろしいでしょうか?貴国の浮遊島は突然我が国の領海上空に出現しましたが一体どの様なお考えの下での行動なのかお聞かせ下さい』
『はい。先ずは私達についてご説明いたします。私達の住む世界はこの世界とは別のところにあります。それがどれくらいの距離というものでなく次元が異なるものです。そして私達の世界に厄災が起きて私達の国の首都が滅亡の危機に直面しました。その危機を回避するために私の主人が魔法で都市を空間転移したのです。その転移した場所が今浮遊している貴国の領海だったということです』
艦長は驚いた。異次元の存在は既に周知の事だったので特に驚くに値しなかったのだが、王女の言葉から魔法と言う言葉が出たからだ。もちろんこの世界に魔法というものは存在しない。魔術というものが今の現在ではどこにも存在しておらず過去の迷信と言われているものだったからだ。
『大変失礼ですが、今魔法と仰られましたか?』
『はい、魔法です。何か変でしょうか?』
『いえ、我々の世界では魔法とはお伽噺に出てくる様なものでして現実には存在しませんので』
『どうやらその様ですね。私の主人も異世界から来た流れ人でその世界では魔法が存在しないと申しておりました』
『この場にお見えになりませんがご主人は今どこに居られるのでしょうか?』
『はい、主人は元の世界で厄災と呼べる存在と戦っております』
艦長はクリスの言うことを虚言だと疑ったのだがそれにしては真面目な顔で話をしている。どうやって真偽を確認してよいのやら悩んだ。
『そうですか、それは心配ですね。ではご主人も異世界の住人ということですがこの世界の人間なのでしょうか?』
『それは私にはわかりません。ですが主人は昔軍人だと言っておりました』
『ほう、我々の同僚だったのかも知れないのですね。失礼ですがご主人のお名前をお聞かせいただいても?』
『はい、構いません。主人の名前はタイラ・リュウと申します』
その名前を聞いて艦長と副長は互いの顔を見合わせた。
『今、平龍と申しませんでしたか?』
『はい、タイラ・リュウです。昔、モスキートという部隊に居たと言うのを聞きました』
『やはり。貴女のご主人は平少佐です。伝説のソルジャーとして日本軍の軍人なら誰でもご主人の事を存じ上げております。私も若き日に平少佐の部下として行動を共にしていた事があります。
平少佐は数年前に軍を退役して民間企業に勤めていましたが帰宅中に行方不明となったと聞いておりましたが・・・まさか異世界に飛ばされていたとは驚きました』
『主人をご存知なのですね。なんだか主人を知っている方がいて嬉しいです。あと、主人ともう一人流れ人が居ました。名前を神楽元と言う人です』
『神楽元ですか?特S級犯罪者の?』
『はい、主人もその人の事を以前から知っていました。彼も我々の世界に飛ばされて来た様で厄災の手下として悪行を行っておりましたが主人の手で仕留められたと聞いております』
『王女、それはすごい朗報です。神楽元の護送車が消えてその行方をずっと追っていましたが、異世界に飛んでいたとは・・・』
クリスはリュウの元住んでいた世界に飛ばされていた事に驚いたが同時に運命を感じた。そして自分の知らないリュウを知る人達と出会えた事がうれしかった。
『ああ、すいません。主人の話で脱線してしまいました。魔法の話でしたよね。私たちの世界では普通に魔法は存在しています。このソフィアも魔法部隊の隊長なんですよ』
『はい、魔法が得意な者を集めて部隊を率いています』
『それではその魔法を何かお見せいただくことは出来ますか?』
ソフィアはクリスの顔を見た。クリスが頷いたので簡単な魔法を発動させることにした。
『この場は狭いので火系の魔法は使えませんので風の魔法を出してみます』
そう言うとソフィアは小さな竜巻をフロアの開きスペースに展開した。演習場の様なところでなければなかなか普通の魔法も発動するのは難しい。
『おお!本当だ!これが魔法ですか!』
艦長と副長は初めて見る魔法に驚き興奮した。
『あとこんな事もできますよ』
時間静止魔法を使いソフィアは机の反対側に座り時間を戻した。
『テレポートですか!?』
『いえ、種明かしをすると時間を止めて机の反対側に移動したものです』
瞬間移動でなかっとしても時間を静止出来る時点で驚くべき能力だった。