169 接見
先程の戦闘機が離脱して一時間が経過した。恐らく今度は交渉のための部隊が赴いてくると思われる。だが、ローグ上空には結界があるため無暗に近づいてしまうと結界に阻まれて墜落する恐れがあった。これを回避するためある程度離れた場所で接見することにした。
小笠原基地の軍港から出動した巡洋艦『しらかぜ』はローグの南東80キロメートルの海域を航行中で2時間後に到着を予定していた。
『艦長、未確認飛行物体の調査との指令ですが一体どの様な生物がいるのでしょう?』
『その辺は行って自分の目で確かめるしかないな。あれじゃないか、エリア51に保管してあった宇宙人みたいなの。目がギョロっとしていて頭がでかくて銀色の肌をしているらしい』
『だとしたら不気味ですね。やっぱりテレパシーとかで会話するのでしょうか?』
『どうなんだろうな。生物が進化すると言葉が必要なくなり会話でなく念話でコミュニケーションするって言うが』
しらかぜ艦長の佐治重治は副長の加賀武史と他愛もない会話をしていた。この世界では宇宙人はまだ公にコンタクトをとっていなかった。アメリカ軍などは密かに宇宙人とコンタクトをとり技術を隠匿しているという噂なのだがまだ噂の範囲でしかなかった。
今回、未確認飛行物体の調査を命じられたのだがこれが異星人だとすれば非常に貴重な体験をすることとなる。だが、相手が何の目的でここに降り立ったのか判らない。今は攻撃の意思は見せていないが侵略目的だと非常に厄介なこととなる。あまり楽観視はしていられなかった。
やがて船からローグの浮遊が確認できるところまで航行し近づいた。
『艦長!十一時の方向に未確認飛行物体を確認しました!』
まだ視界に入ったばかりで詳細は判らないので佐治艦長は首に掛けている双眼鏡で確認を行った。
『あれは飛行物体というよりも島だな。しかも相当でかいぞ』
『一体どういう原理で浮かんでいるのでしょう?』
『わからんな。我々の技術では到底不可能はことは判る。島の下部に推進装置とかも見当たらんしな』
巡洋艦が浮遊ローグにあと1キロメートルに差し掛かった時だった。
『艦長!未確認飛行物体から小型の飛行艇の様なものが出てきました』
『向こうからもどうやらお出迎えが来たようだな。
よし、船を停止させろ。甲板に着艦準備を急がせろ』
『アイアイサー!』
巡洋艦しらかぜは甲板が広く作られており4~5機のヘリコプターが着艦できるようになっている。普段ヘリコプターは艦内にエレベータで格納されており、緊急出動の際に甲板上まで搬出される仕組みだ。
近づいてくる飛行艇に艦上にいる誘導員が手旗信号で着艦場所に誘導する。
『それにしても不思議な飛行艇ですね』
『うむ、推進装置が見当たらんな?』
『どうやら三名搭乗している様です』
艦橋で飛行艇の着艦を見守っていた艦長と副長だが、無事着艦したのを確認した後に甲板へと出向いた。
艦長らが甲板上に着くとすでに飛行艇の周りには多くのクルーで取り囲まれていた。艦長が現場に到着すると人垣が潮が引いたように道を開けて艦長を通した。
艦長は飛行艇から降りてきた人物を見て驚いた。エイリアンではなく人と呼べる存在だったのだが、欧米人の様な金髪やブロンズの抜群のプロポーションの女性が二名と初老であるが身なりが整った男性が一名。この三名は地球人と何ら変わることはなかったからだ。
艦長は他国の人間かと一瞬思ったが、それにしては浮かぶ島やこの推進装置の見当たらない飛行艇は従来の技術で説明出来る物ではなかったため恐らくこの世界から来たのではないのだろうと考え直した。
艦長と副長は毅然と立つ三人の前に立ち挨拶を行った。
『初めまして。我々の言葉が判りますか?』
『突然の訪問で失礼いたします。はい、言葉は理解できます』
艦長は驚いた。喋ったのは金髪の女性だった。綺麗な金髪でモデルだと言っても疑わない様な美貌とプロポーションの持ち主だったが、発した言葉は流暢な日本語だったからだ。
『私は日本国海軍 巡洋艦しらかぜの艦長の佐治少佐です』
『同じく副長の加賀大尉です』
艦長と副長は儀礼に倣って自分たちの身分を明かした。
『私はマキワ国王女のクリスティーヌ・マグワイヤーと申します。
右隣の女性がマキワ軍隊長のソフィア、左隣が参謀のセバスチャンです』
クリスはセバスチャンを執事とは説明しなかった。こういう場合、身分が低いと扱いを軽んじる場合があるのと自分たちが低く見られていると勘違いすることもあるので相応の役を持っている様に説明したのだ。だが、これからの交渉でセバスチャンの意見も貴重なものとして参考としたいと考えているので参謀はあながち間違いではなかった。
『ここで立ち話というのもなんですので中でお話いたしましょう。ご案内いたします』
『はい、宜しくお願い致します』
一行は艦内へと丁重に案内された。