168 コンタクト
『こちらイーグルワン、八丈島南西60キロメートルの位置にターゲットを確認。目視可能距離に到達。
ターゲットは上空2000メートルに浮遊。全長約5キロメートル、巨大な島の様です。推進装置などはここからは確認できません』
『こちら小笠原管制塔、了解した。ターゲットには威嚇とならない様に距離をとりつつコンタクトを実施せよ』
『ラジャー』
『こちらイーグルワン、ターゲットからの反応なし。IFF(敵味方識別装置)の反応もありません。無線周波数帯域、各チャンネルで送信中、ビーコン発信、光信号投射』
ホバープレーンによる周辺偵察を始めようと思っていたソフィア達の前に現れたのは戦闘機だった。ジェット戦闘機で音速を超える速度で飛行している。当然ソフィア達がそれを目にするのは初めてであまりの速さに目が追い付かない程だったのと音が物凄くて初めて聞く爆音に恐怖を感じていた。
『隊長!何か光の点滅信号を送ってきているようです。どうしましょうか?』
『どうやら戦闘の意思はないようですね。信号の意味はわかりませんがこちらからも合図を送ってみましょう』
ソフィアはファイアボールを照明弾の様に3発上空へと打ち上げた。
攻撃と間違われない様に小さい規模のものを低い高度で行なった。
ソフィアも軍に所属する身だ。こういう遭遇時にはいきなり戦闘行為となることは少ない。先ずは所属を確認して相手の目的や戦意を確認して尚且つ相手が応じない場合は威嚇を経て戦闘というのが通常のプロセスだという事を理解している。
恐らく相手もこちらの意思を確認したいのだろう。そう察した。
『こちらイーグルワン、ターゲットから照明弾を確認。交戦意思はないものと思われる。ターゲットの地表に三人の人影を確認』
『こちら小笠原管制塔、照明弾の確認了解した。今そちらに巡洋艦とアパッチを向かわせた。イーグルワンはその場から離脱せよ』
『ラジャー』
ソフィアが放ったファイアーボールを確認した後に戦闘機はその場から離脱した。
ソフィアは先程の光信号は何らかのコンタクトの意思を示すものだと理解した。恐らくこの先彼らと会う必要があるはずなので宮廷に戻り国王達に知らせなければならない。
せっかく準備したホバープレーンなのでソフィアはそのまま宮廷までホバープレーンで駆け付けた。地上をホバーで行く半分の時間で済むので都合がよかった。
『なんと、それは本当か!?』
『はい国王様。この世界には高度な文明がある様です。物凄い速度で飛行物体が飛んでおりました。ですが彼らは我々には今のところ敵対の意思はないと思われます』
『うむ、そうか。こんな時に婿殿が居てくれれば心強いのだが・・・』
『お父様、今は私達だけで何とかしましょう。先ずは特使として数名赴かせる必要がありますが、その役目、私が行ってもよろしいでしょうか?』
『クリスがか?何故クリスが態々志願するのだ?』
『はい、主人が今私達の為に必死で戦ってくれています。そのローグを私達で守らないでどうしますか。私なら国の代表としても交渉のテーブルに付くには遜色ないはずです』
『そうか・・・わかった。ではソフィア隊長、クリスの護衛をお願いできるか?』
『はい、畏まりました。と言ってもクリスさんは私が守る必要のないくらいにお強いですけど』
『ソフィアさん、別に戦いに行く訳ではありませんよ。力よりむしろ頭を使わないといけないかも知れませんね』
そう言うと二人は顔を合わせて笑った。クリスは側室の中ではソフィアと一番仲がいい。付き合いが長いというのもあるが年頃も近いというのもあった。
クリスはソフィアと一緒に特使として恥ずかしくない服装に着替えることにした。今の服装も決して恥ずかしくないのだが普段着なので正装とは程遠い。相手への礼儀を考えると相応にしておく必要性を感じていた。
国王からは特使に同行者を連れていく様に言われた。相手の国がどの様な風土の国かわからない。男尊女卑でないとも言えないので男性を入れておいた方が良いとの考えだった。
そして同行者に選ばれたのが国王の執事長のセバスチャンだった。
初老ではあるが鍛えられたその体は衰えておらず武術、教養を備え付き人としても完璧にこなせる。クリスも小さい時からセバスチャンに面倒を見てもらっているので慣れ親しんでいたので心強かった。
<日本国首相官邸>
『総理、小笠原基地より連絡が入りました。八丈島南西60キロの海域上空に突如現れた未確認飛行物体にスクランブル発進を掛けて接触。未確認飛行物体は島が浮遊した形をしており我々のコンタクトに交戦の意思がなく発光信号で応じたとの事です。現在巡洋艦が現場に向かっており海軍にて対応を引き次いで行います』
『未確認飛行物体とは・・・エイリアンの類ですか?』
『いえ、飛行物体はUFOではなく島が浮いているそうです。現場のパイロットによると人影を目撃したとの事ですのでエイリアンではなさそうです』
『わかりました。とりあえず民衆の混乱があってはなりませんので報道管制を含めて本件はトップシークレットで行動してください』
日本国首相 一条時宗は急報を受けてその対応に悩んだ。他国の侵攻とかであれば対応はマニュアル通りにすればよい。だが今回はどうやら勝手が違う様だ。異星人など映画の世界の話だと思っていたのだが自分が対応する日がくるとは夢にも思っていなかった。