167 飛ばされたローグ
オーグの攻撃を咄嗟に回避するためリュウはローグの街全体を自身の残された力の殆どを使い異世界へと転移させた。
リュウが転移させることの出来るのは過去に訪れた場所、目に見える場所だ。だが異世界と次元の狭間だけは何故か最初から転移させることが出来る場所だった。
直径5キロメートルもあるローグの街を地下500メートルまで堀り下げて離脱させるのは今の神達にも不可能に近い。そういう意味ではリュウの持つ力は真仙桃によって既にどの神よりも勝っているのかも知れない。だがリュウはその事に気付くことは無かった。
必死でローグを転移させ今は魔力が枯渇状態に近かったからだ。
リュウによって異世界に飛ばされたローグの街はオーグの吸収から逃れることが出来た。だがローグの市民は地下シェルターに全員退避しているので自分達に何が起こったか知る由も無かった。
リュウはローグを転移させる際にクリスとソフィアに念話で状況を伝えてある。だが転移させた異世界がどういう場所かはリュウも良く理解していなかったのでとりあえず安全な場所であることだけしか説明できてなかった。
そのローグの街は異世界の海上に浮かんでいた。
正確に言うと海上の上空に浮かんでいた。
リュウがダークネスの地震攻撃の対応で設置した反重力板が作用していたのだ。どうやらこの世界は元の世界よりも重力が少ないらしい。ローグの街は海上2000メートルの場所に浮遊していた。
よくアニメで見かける浮遊都市そのものだ。
リュウから念話を受けたクリスとソフィアは自分達が安全な領域に転移させられた事を理解し市民にその旨を説明した。
しばらく脅威はないためシェルターから各自の自宅への帰宅が許可された。商店や企業を稼働させるかどうかは任意の判断に任せている。
隔離させた場所にいるだけでずっと避難をしていても仕方ないので通常の生活に戻った方が気が紛れて良いと国王が判断したからだ。
『クリスさん、この先どの様にいたしましょう?』
『そうですね。まずは周辺の確認を急ぎましょう。あの人が安全と言ってくれているので大丈夫だとは思いますが、ここがどの様な場所なのかは知っておく必要があります』
『わかりました。では私が部下を何名か連れて偵察隊として周辺の確認を行って参ります』
『はい、ソフィアさんの部隊なら安心ですね。宜しくお願い致します。持ち帰った情報を国王に報告しましょう』
クリスはとりあえずの安全が確保されたはずなのだが顔色が良くなかった。それに気付いたソフィアがそっとクリスの手を握った。
『クリスさん、リュウさんなら大丈夫ですよ。また元気に私たちのところに帰ってきてくれます。今は信じて待ちましょう』
『そうですね。主人が頑張っているのに私達もしっかりしないと笑われてしまいますね。ソフィアさんありがとう』
自分と同じくソフィアもリュウの事が心配で仕方ない筈なのに他人に気遣えるソフィアはすごいとクリスは思った。それと同時にもっと王女としてしっかりしないといけないと気を引き締めた。
ローグの街は空中に浮遊しており城壁の内側だけ転移したので街の端は崖になっている。だが、転移と同時に防御結界も張られており外敵から守られる様に施されていたので通常の者はその結界の外へ出ることが出来ない代わりに外部の者も入ることも攻撃することも出来なかった。この結界は聖属性の結界のため聖属性の高い者であれば通過することが出来る。ソフィアの部隊も仙人界の修行を経ているので皆聖属性を備えており問題なかった。
ソフィアの部隊はソフィアと副官、部下の3名。軍の小型ホバーで街のはずれまで移動した。
ローグの街は空中に浮遊しており水平線に映るものは何もない。見渡す限り青い空とところどころに浮かぶ白い雲だった。
ソフィア達は結界の外から出ない様に注意を払いその周辺を確認した。
そしてソフィアが見たのは見渡す限りに広がる広大は海だった。元の世界では海はあったが海流が激しく非常に荒いものだったのだが眼下に見える海は非常に穏やかなものだった。太陽の光が反射してキラキラと眩いばかりだった。
『隊長!これって海ですよね?私達の世界の海と全然違います!』
『そうね。こんな静かな海って初めて見るわね』
『この海も何かの巨大生物がいるのでしょうか?』
『その辺も調べる必要がありそうね』
北の大陸では大陸の中心に大きな湖があるのだがそこに住む水龍が暴れるため船での航行は出来なかった。
海も海流が荒い他、巨大なタコやイカが目撃されており非常に危険なイメージしかなかった。
ローグは浮遊しており上空2000メートルの高い位置にある。ここから出るにしてもこの距離をどうするかが問題だった。
魔法で浮遊させる事も出来るが魔力を消費するため偵察で何が起こるか判らないため出来れば使いたくない。
こうなる事を予測していた訳ではないがリュウが密かに開発していたものがあった。ダークネスが攻めてくる直前まで開発をしており、まだ実用段階まで至ってないかも知れない代物だったがソフィアはリュウからこの開発品の説明を受けており、必要な時があったら遠慮なく使ってくれと言われていた。
その開発品とは小型ホバープレーンだった。
原動力はホバーと基本的に同じで反重力の加減で上昇下降を行い、推進には風魔法を使いジェット噴射を行うというものだった。
賢者の石のカートリッジで3日間は飛行することが出来るという優れものだ。リュウはこれを誰でも操縦出来る物にしたかったのだが、プロトタイプでは魔力がある程度ないと制御が出来なかった。
その点偵察部隊は問題なく操縦することが可能だ。
ソフィアは空間ポーチから小型プレーンを取り出した。このプレーンは4人乗りなので今回の3人は一機で出ることにした。
装置の始動確認を行っている時だった。
はるか彼方から光る物体が見えた。その物体は非常に小さいが轟音と共に物凄い速度で迫ってきた。
金属と思われる物質で出来たその飛行体はローグの上空を音速を超える速度で通過した。