163 闇との攻防
オーグは先程ガズルを取り込んだのと同時に世界中に向かわせたダークネス達も同様に自身に吸収している。
ローグに居たダークネス達は既に吸収が完了し、近いところから順次オーグの体に集まってきている。まるで体がブラックホールになって吸い込んでいる様にも見えた。
だが、今は何も見えない。オーグのその力によって世界の光がが消え暗闇の世界となってしまったからだ。
『何これ?朝がまた夜に逆戻りしてしまったの!?』
『慌てるでない。これはオーグの力によって闇に包まれたのじゃ』
突然目の前から明かりが消え暗闇となり気が動転してしまったムーアに鈴鳴が状況を説明して落ち着かせる。
『この状況で混乱するなと言う方が無理だよな』
流石のリュウもオーグの力がこれ程までとは思っていなかった。
明かりを得るために光系の魔法を唱えるも闇の力が強すぎて明るくなったと思った途端に闇に吸収されてしまう。
『どうした、人間よ。手も足も出ない様だな。所詮貴様らの持つ力では儂の足元にも及ばんと言う事だ』
確かにリュウの力ではオーグには遠く及ばない。だが光を灯す程度であれば全力を出せば周りを照らすことは出来るだろう。だがそれに力を費やしてしまえばこの先の戦闘が更にじり貧となり万事休すとなる。
『リュウよ。ここは妾が何とかしよう。其方は力を蓄えておかねばならんからの』
『すまない鈴鳴。頼めるか?』
『この程度であれば妾でも・・・』
鈴鳴の神の力で世界の暗闇を光に戻す。一瞬明るくなるのだがまたすぐに闇に押し戻されてしまう。それを繰り返し続けており鈴鳴が消耗していく。一方、オーグは全体の力の何割も使っておらず平然としていた。
『そうだ鈴鳴よ。お前が頑張らなければこの世界は闇となり全て儂が取り込んでしまうぞ』
今必死に闇を掃っているのは単に明かりが欲しいからではない。闇に覆われてしまえば全ての生き物や物が先程のガズルの様に闇の力としてオーグに吸収されてしまうからだ。それを何としても阻止しなければならない。
『鈴鳴、大丈夫か?かなり辛いんじゃないか?』
魔力がどんどん減る鈴鳴の顔色はその残量に応じて悪くなっていく。それを横で見ているリュウは心配になり声をかけた。
『今頑張らなくていつ頑張るのじゃ。いつも其方ばかりに負担をかけておるからの。今回ばかりは女の意地で其方を守らねばならん』
魔力が全開に回復した訳でなかった鈴鳴はどんどん魔力が消耗されて枯渇寸前にまでなっている。
このままではクラリスだけでなく鈴鳴まで失ってしまう。リュウはそんな絶望的な状況を打開するため自身で鈴鳴に代わって闇を掃おうとした。
『鈴鳴、もういい。俺に代わってくれ』
『いかんぞ。其方にはまだやって貰わないといけない戦いがあるのじゃ。こんなところで魔力を使い果たす訳にはいかんのじゃ』
『だがそれでは鈴鳴、お前を失ってしまう。クラリスだけでなくお前を失うなんて俺は嫌だ』
『聞き分けのない駄々っ子の様じゃぞ』
鈴鳴は笑いながらリュウに言葉を返した。最早これまでかと思った時だった。
空が急に明るくなった。闇がどんどん晴れていき元の明るい青空が見えてきた。
『なに?儂の闇が負けるだと?一体何が起こったというのだ!?』
オーグはかなり焦っている。無理もない。絶対的な闇の力を押しのける程の力がここに在るとは思っていなかったからだ。
『鈴鳴、リュウよ、待たせたな』
天上より降り立ったのは七神の一人、仙人長の龍王と白翁仙人だった。
龍王と白翁の力でこの周辺の闇は既に取り掃われている。
『おお!龍王と白翁、遅かったではないか。何をしておったのじゃ。こんな大役妾一人に任せおってからに』
『すまん、すまん。いろいろとこっちにもあってな。それよりもほれ、これを食え』
龍王から鈴鳴とリュウに一つずつ丸い果実が投げられた。養仙桃に似たそれは桃色ではなく金色の果実だった。
『なんじゃと!これは真仙桃ではないか!?こんな貴重なものをどうやって?』
『それを用意するのに時間が掛かってもうたのじゃ。ふぉふぉふぉ、心して食べるが良いぞ』
『リュウよ。これは真仙桃といってな。数千年に一度しか実らんと言われている果実じゃ。これを食べると魔力の回復だけでなく能力値の飛躍した向上が可能となるのじゃ。言わばレベルアップの実の様なもんじゃの。もちろんこの二人も既に食しておるのじゃろう』
『龍王様、白翁仙人様、ありがとうございます。お力添え感謝いたします』
リュウと鈴鳴は早速真仙桃を口にした。口に含んだ瞬間にそれまでの疲労困憊な状況が嘘の様に回復すると共に体が漲る様に力が溢れ出てくるのが判った。
『これはすごい!今までの何倍もの力が出てきた様に感じます』
リュウと鈴鳴はすぐに戦力として復帰するのだった。