161 ガズル渾身の攻撃
ガズルの力技とも言えるパワーに任せた多数のファイアボールのダメージを回避するためクラリスは対火戦闘モードに切り替えた。
このモードを発動させるとクラリスロボは装甲板がフリージング魔法でコーティングされ白に近い水色へと変化した。
その表面温度は絶対零度に近く高い温度の攻撃でも対応することが出来る究極の耐熱防御と言える。
ファイアボールの温度対策とは別にクラリスロボの周囲を10基のミラーボールの様な球体が周回している。クラリスを中心として全周全方位を範囲として球体同士が結界を張り巡らしている。
これは単なる結界ではなく冷気結界だ。この領域に入るもの全てが瞬時に凍りつく。ファイアボールもこの領域に入るとその炎が消え去り勢いを失って地面に落下していった。
『どうです、この冷凍防御は。ファイアボールが効かなくなりましたよ』
『なるほどな。そうきたか。ならばこれならどうだ!』
ガズルはクラリスの冷凍防御は予想の範囲内だったのか驚くことはなかった。ガズルが天に手を上げて発動させたのはグラビティメテオフォールという重力密度の高い巨大隕石だった。
天上から多数の隕石が炎の尾を引いて飛来してきた。
この世界が宇宙に対してどの様な存在をしているのかリュウは判らなかったが、隕石などはそう簡単に引き寄せることは出来ない。
召喚の類なのだろうか。方法はともかくその多数の隕石は単なる飛来物というだけでなく重力を伴った隕石ということなので見た目よりも質量が高く破壊力は相当なものだということが予想出来る。
『クラリス!あれはマズイぞ。見た目に騙されるな!』
結界を張っているリュウは結界強度を更に上げて飛来する隕石に備えた。
隕石はクラリスだけを狙っているのでなくこの周域全体を狙っていたのだ。律儀に一対一で戦う義理などガズルにはないのだ。
『飛来物のサーチを行います。表面温度5000度、直径10メートル、重量100万トン、時速2万km/hで飛来中』
クラリスのサーチ分析で瞬時に結果が出た。
大きさはそれ程ではないが重量が相当にマズイ。大型の石油タンカーの重量は20万トン程度と言われているがそれが5隻分も10メートルの隕石に凝縮されている。地表に激突した時の衝撃は通常の隕石落下の衝撃の数十~数百倍になるだろう。
通常10メートル程の大きさの隕石落下だと少なくとも大爆発と共に1キロくらいの巨大なクレーターが出来地面がえぐられる。
その数十倍以上だ。一発でローグが簡単に消し飛んでしまう。
速さこそ宇宙から飛来してきた隕石よりも遅いがそれでも2万キロという音速の約20倍もの速度で落下しているのだ。
クラリスはこの事態を分析し冷静に対処法について考えた。
『コメットランチャーいきます!』
コメットランチャーという武器を召喚したクラリスはバズーカ砲の様に肩に背負い照準スコープを覗いてランチャーの照準を隕石に定めた。トリガーを引いて発射されたのはミサイルの様なものだった。
ロケットの様に炎を噴射しながらターゲットに向かって飛んでいったランチャーは隕石との距離半分で分離された。一瞬発射失敗したかの様に見えたが予定されていたものらしい。
『隔壁分離完了。包囲展開。粉砕ミサイル射出、10秒後にターゲットに着弾予定』
クラリスがそう言うとすぐにミサイルと隕石が衝突し眩い光が放たれ衝撃音が後を追ってやってきた。
『ターゲットに命中。隕石は粉断されて飛散』
隕石はミサイルによって爆破されたが今度は飛び散った隕石の残骸が地表に落下してくる。勢いは多少殺されているが質量からしてかなりの威力での攻撃になったとも言える。絨毯爆撃の様に辺り一帯に被害が拡散してしまう恐れがあった。
だがそれも杞憂に終わった。先程のクラリスの放ったランチャーの最初の段階で展開した包囲シールドが一面に展開されて飛び散った破片を消滅させていったからだ。
『よし、クラリス!よくやった。それにしてもよく考え付いたものだな』
『はい、マスター。隕石は破壊するだけでは止められない事は文献によって理解しておりました。むしろ二次被害の方が深刻だという事も記載されておりましたので』
知識としてあっても実際に成し遂げる事ができるというのは至難の事だ。やはりここは素直にクラリスの高い能力を称賛すべきだろう。
だが、とっておきの大技を阻止されたガズルは面白くなかった。
『あれを止めるとは・・・少しお前達を見くびっていた様だな』
ガズルにとって先程の技は奥義と言えるものだった。隕石を引き起こすにもかなりの魔力を消費する。あの奥義も阻止されるとなると打つ手がかなり少なくなってきた。力でも互角で瞬発力は向こうの方がやや上となると手詰まり感が強かった。
とは言えここで負けを認める訳にはいかない。背水の陣でこの戦いに挑んでいるのだ。ガズルにそれが許される訳がなかった。
ガズルは再びクラリスロボの前に立はだかり直接攻撃で打開策を考えようとしていた。
その時である。
突然空気が一気に冷え込んだ。周囲の体感温度が一気に下がったのだ。それと共にすでに朝を迎えていた明るいそらがまた暗闇へと戻っていった。
単に暗くなるだけでなく重圧に押しつぶされる様な威圧感を伴っての暗闇だった。
『うっ、この感じは!?あやつが目覚めよったか?』
鈴鳴がそう言うと同時にクラリスロボとガズル目がけて闇の波動が放たれた。その衝撃音は凄まじく威力も恐ろしい程だった。
波動に吹き飛ばされたクラリスロボとガズルはローグ城壁を突き破り遥か遠方へと飛ばされていた。