159 クラリスの召喚術
クラリスはリュウの勝利を微塵も疑っていなかったが無事に神楽元を仕留めたことでガズルとの戦闘に専念出来る。
クラリスは自身で召喚した戦闘ロボに搭乗してガズルに応戦している。この戦闘ロボがクラリスから召喚された時は流石のリュウも驚いた。
体長20メートルのガズルに対してクラリスの身長は160センチメートルだ。当然体は女性として魅力的なスレンダーなプロポーションをしている。どう見ても戦闘向きとは言えない。
その圧倒的な体格差をどの様にして埋めるのか?体格だけの問題ではない。魔王ガズルは圧倒的なパワーと魔力を持っているのだ。
巨大な体を活かした圧倒的なパワーで攻めるガズルに対してクラリスは俊敏な動きで攻撃を回避している。
今のところ決定打となる様なダメージは受けていない。だが、このままだとクラリスかガズルのどちらかの体力が無くなるまでの持久戦となりかねない。
自分の攻撃が全く当たらない事に苛立ちを覚えたガズルは攻撃方法を切り替えることにした。
対象はクラリスだけでなくこの周辺一帯だ。ガズルが両手を天に向かって上げるとその上空に暗黒の塊が発生した。その塊の大きさは地上から見るとそれ程大きくは見えないが実際の大きさは100メートルを超えていた。
『我が攻撃受けてみろ』
ガズルが発すると塊から黒いボールが無数に発射された。射出されたのは暗黒球。不浄の塊とも言えるその球の威力は形あるものを全て朽ち果てさせる効果がある。地上に落ちてもそこで止まらず土を侵食しながら奥深くまで貫いていく。
数百もの暗黒球が鈴鳴の張った結界に向かって落ちていく。当たった箇所はダメージを受けて綻びが生じる。都度その箇所を補強するために鈴鳴は力を注がなくてはならず、このままでは結界自体を維持できなくなるのは時間の問題だ。
『鈴鳴、結界がかなりダメージ受けているが大丈夫か?!』
『さすがに妾の力にも底が見えてきたようじゃ。このままだとあと数分後には結界が維持できなくなるじゃろう』
『そうか、わかった。じゃあ俺が何とかする』
そう言うとリュウは鈴鳴の顎をとり上に向かせ口付けをした。リュウの口から鈴鳴の口へと膨大な魔力が流れていく。突然のリュウの行動に驚いた鈴鳴だが大量に流れる魔力と口付けという行為に顔が熱くなり蒸発しそうなくらいになっている。立っているのがやっとという状態だったのでリュウが腰に手を回して支えていた。
時間にして一分くらいだっただろうか枯渇しかけていた鈴鳴の魔力は半分以上回復した。更にリュウが鈴鳴に代わって結界を張りなおした。鈴鳴の時より数倍強固な結界だ。
『と・突然何をするのじゃ』
『いやあ、これが一番効率的な魔力の供給方法らしい。今は時間が惜しいからな。鈴鳴は少し回復に専念して休んでいてくれ』
先程の光景を思い出すだけでも恥ずかしかった鈴鳴だったがリュウの優しさに触れられて嬉しかった。
お礼にと今度は鈴鳴から熱い口付けのお返しをした。これは魔力の供給ではなく普通の口付けだ。
『マスター!私も魔力が尽きてしまいました。どうか補給をして下さい!』
今の光景を見ていたクラリスが自分もしてもらおうとリュウにお願いをした。
『クラリスはまだ十分に魔力は残っているだろう』
『そうですよ!そんな安売り状態であちこちでされてたまるものですか!』
近くで見ていたムーアもクラリスに猛抗議している。 どうやら鈴鳴に対する口付けに関しては止む無しとして容認している様だ。
なんとも緊張感の無い光景だ。だが事態は厳しい局面だった。リュウは鈴鳴と交代して結界を張っており、鈴鳴は魔力回復のために休憩をしなくてはいけない。そうなるとガズルを押さえるのはクラリスしかいないからだ。
もしこの戦いを観戦していた者が居たのなら誰もがガズルの圧倒的勝利を予想しただろう。賭けだと全てガズルに掛けて賭けにならない状態が目に見える。だが状況は違った。
『私はマスターの全知全能のしもべ。あなた如きに負ける訳がありません』
このままでは戦局が不利と感じたクラリスは自身に蓄えた知識で召喚術を唱えた。手には丑の刻参りで使われる様な小さな人型の人形が握らている。
『急々如律令 奉導誓願可 不成就也!』
人形に式札を貼り付けクラリスは呪文を唱えた。
すると手元にあった人形が空中に浮かび上がりみるみる大きくなり形を変化させていった。
『おいおい、クラリスはいつから陰陽師になったんだ』
リュウはいつもながらクラリスの行動に驚かされる。だが、リュウの知識=クラリスの知識なのだ。更に文献など数多くの知識がクラリスには上乗せされている。
『安部清明という偉大な陰陽師に倣ってみました。どうです?マスター、すごいでしょ?』
『ほんとに、びっくり箱だな、クラリスは』
その昔、陰陽師という呪術宗教家が職業として地位と名誉を与えられていた。五芒陣の書かれたところで式神を召喚させ使役させたとか様々な術を発動させたと言われているがリュウの住む時代にはその様な術を使える者は皆無だった。単なる伝説として語り継がれたものなのか廃れた技能なのかは判らない。だが、目の前には正に人形が巨大な傀儡として召喚されているのだ。
だがその傀儡の形状が更にリュウを驚かせた。アニメで出てくる巨大ロボの形をしていたからだ。体長はガズルとほぼ同じ20メートル程でリュウは以前にお台場で展示されていた直立型ロボットの展示を思い出した。その光景にあまりにも似ていたからだ。
恐らく造形するにあたってクラリスはリュウの記憶も参考にしていたのだろう。