153 ドワーフとエルフの里
■ドワーフの里
ドワーフのダークネス侵攻は結果的に失敗に終わっている。
前回の襲撃を教訓として次に襲われた時にはいつ何時であろうと迎え撃つ用意をしていたからだ。
村長の息子イワンがリュウと共に警戒装置を町の外に張り巡らせ異常を検知すると警備兵が即刻迎え撃つ体制を敷いていた。
更にドワーフでは強力な武器や攻撃を防ぐ防具の開発にも力を入れており、戦闘となった場合でも早い殲滅と極力被害を抑えることを考慮していた。
ダークネス10万に対してドワーフ戦士は3000いるかいないかの数でしかなく圧倒的に不利な状況下であったが文明の利器が勝利をもたらした。
ドワーフは銃火器の扱いを得意としており小銃などに留まらずバズーカ砲やロケットランチャーまでも量産化している。その中で最新兵器の熱追尾ミサイルならず闇追尾ミサイルはリュウと共に共同開発した自信作だ。ダークネスの襲来を予想して闇の者たちの負の因子を検知し自動追尾させるミサイルだ。
兵器の使い方の指導は軍人でその取扱のプロフェッショナルであるリュウが自ら行った。強力な武器を使っても敵の数が圧倒的なので隙間を抜けて襲われる事もあったのだが、ドワーフの強靭な体に加えて防御力の高いプロテクターを装着しており致命傷となる傷は少なかった。
ドワーフに現れたダークネスは里を囲む様に周辺を覆い尽くしていたのだが包囲網を敷かれてもドワーフ達には対策がとられていたので不安はなかった。
ここは岩山に穴を掘った住居が多くある。その洞穴から里の外部へ抜ける抜け穴が至るところに用意されていた。外部からの侵入を防ぐためにわざと迷路の様な作りになっていたり途中に仕掛けを施している。
里で守りに徹する役と抜け穴からダークネスの背後を攻める役の二手に分かれて両方からの挟撃を行う作戦だ。
遠方からのロケットランチャーの絨毯爆撃で広範囲に渡ってダークネスを吹き飛ばした。
実はドワーフにはリュウから実験を頼まれていた。リュウが用意した弾をダークネスに撃って欲しいというものだった。
その銃弾はシルバー色が少し黒くなった様な色をしていた。イワンがカートリッジに弾を装填しダークネスの一体に向けて放った。
するとダークネスに着弾すると同時にダークネスが吹き飛んだ。
いや、正確には消し飛んだという表現が正しい。抵抗なく貫通したため後続に続くダークネスも次々に消し飛んでいる。
『なんだこの弾の威力は!凄いなんていうものではないぞ?』
これ程の威力があるとはイワンも思っておらず驚いた。
リュウが用意したこの試作弾は銀で出来ていた。ただの銀でなく表面を聖魔法でコーティングした特別製のものだ。
これが効果があったら使って欲しいとリュウは大量のカートリッジをドワーフに提供していた。
『至急この弾の事を各国に知らせて欲しい。弾の供給はタイラ伯爵の方で都合をつけてくれるらしい』
ドワーフのこの弾の情報は各国へ即刻通達された。各国への銀弾供給はローグからの支援部隊が行っている。
これで圧倒的に不利な戦力差が補えるようになる。
とはいえ、銃弾の数に限りがあるのでガトリングの様な無駄撃ちは避けて単射で確実に仕留めていかなくてはいけない。
ドワーフの里に駆け付けたエレノアは被害が殆ど出ていない事に驚いた。だが無事なら治癒の力を他に回すことが出来るのでありがたかった。
■エルフの里
エルフの里は森の奥深くに位置する。その立地故にダークネスの大軍が押し寄せるには背の高い木々が邪魔をしているめ行く手を阻んだ。纏まって集結する場所も少なく広域に渡って分散させざるを得ない。
この地は精霊の森なので森全体がエルフを守護してくれている。森自体が何かの形で攻撃や防御を支援してくれる訳ではないが治癒力が高まったり魔力を高めてくれたり気付かないうちに支援を受けているのだ。逆にダークネスに対しては聖なる気で浄化の波動を送り続けておりその場に居るだけでダークネス達は体力や魔力を削られ続けている。
敵の侵入を察知したエルフは幻影結界を展開し里の隠蔽を行った。幻影で里を隠すものなので物理的には存在するため時間稼ぎ程度にしかならないのだが緊急時の時間稼ぎは重要だ。
エルフもダークネス対策として専用の武器を用意している。弓を基本の武器とするエルフだが、弓は弦を引くため非常に体力を消耗するのと弓矢に限りがあるためこれらの欠点を補うべくリュウが開発したものだ。形はボウガンと同様のものだが弦を引く必要はない。トリガーを引くだけで矢が射出される。その矢も実際の矢を用いるのではなく召還魔法で生成した魔法矢だ。使用者が魔法を唱えて召還するのでは数多く撃つと魔力が枯渇してしまうが、このボウガンはボウガン自体に魔力カートリッジを装填しておけばトリガーを引くだけで矢を射出することが可能となっている。しかもトリガーを引き続けていれば連射機能となり1秒間に5発の弓を射出できる優れものだ。カートリッジ1つで約2000発を発射する容量の魔力が蓄えられている。エルフのレンジャーは体に弾帯ではなくこのカートリッジが並べて付けてあるタスキを掛けて戦闘を行っている。
迎撃能力としては十分なのだが敵の数が多いので負傷者も少なからず出ている。エリンは戦闘ではなく弾薬供給や負傷者の治療などの後方支援を行っていた。途中からエレノアが応援に駆けつけたので負傷者も即治療が完了したため戦闘復帰でき戦力ダウンにはならなかった。
『エレノアさんお久しぶりです。エリンです』
『あ、エリンさん。以前の特使でローグに来られて以来でしたね。お元気でしたか?』
『はい。私は元気なのですが里がこの現状なので・・・』
『私が来たからにはもう大丈夫ですよ。エリンさんが応急処置をしてくれたお陰で手際よく回復治療にあたれます』
『それで、伯爵様はどうされていますか?』
『今、ローグには100万のダークネスが押し寄せています。リュウ様はダークネスと戦っておられます』
『百万って、ここの十倍じゃないですか!?大丈夫なのですか?!』
『リュウ様は神のお力を持つお方です。私はリュウ様の勝利を信じておりますよ。いつでも私たちを守って下さいます』
エリンは応援に駆けつけてくれたのがエレノアで知っている顔でうれしかったのだがリュウの事が心配だった。