149 更なる猛攻
ダークネス達は鈴鳴により張られた光の聖なる壁によって行く手を阻まれ押し返された。この壁はローグ全体を覆っており侵攻は完全に止めらた形となっている。
『うぬぬ、小癪な真似を。このままでは埒があきませんね。次の手といきましょう』
神楽元が腕を上げるとダークネス達の動きが止まった。
次に腕を振り上げるジェスチャーでダークネス達が上下に跳ねだした。
単なるその場ジャンプなのだが跳躍力のあるダークネス達は3メートル程のジャンプを繰り返す。防衛システムや鈴鳴の壁によりダークネスも数を減らされたがそれは一割にも満たない。数としては誤差ともいえるものだった。
百万近い数の跳躍が繰り返されて起こる事。それは地響きである。
最早地響き等という生易しいものではなかった。
神楽元は今回の戦いも聖なる攻撃として障壁を展開してくる事を予想していた。それが展開された時の対策も講じていたのだ。
コンサート会場で数万人のスタンディングの足踏みで周辺が地震の様に揺れたというニュースを見た記憶があり、数万が百万に変わったらどうなるかという面白い実験の様な感覚だった。
この世界には地震という現象がなかったのだが、リュウは地震大国である日本で育っているのでその揺れがどの程度のものなのかは理解できた。体感震度はすでに震度5を超えていた。
震度5レベルとなると建物も倒壊する恐れがある。幸いローグの建築物はリュウが広めた鉄筋コンクリート造りのため煉瓦で積み上げらてた建物の様に崩れたりはしない。
だが、通常の地震は余震があって本震と数回に渡る数十秒程から長くても数分の揺れなのだがこの揺れはずっと続いているのだ。
しかも神楽元は揺れを周期的に発生させる様に跳躍をコントロールさせている。これは揺れに波を作り効果的に地上のものに影響を与えるためだ。
ローグ市内は万一の為を備えて市民を地下シェルターに避難させていた。戦闘開始までの時間があったため避難が遅れることなく全員が退避できたのだが、このシェルターは爆発などを防ぐことを主としており地震の揺れに対しては無防備だった。
『キャー!お母さん、怖いよー!!』
『大丈夫よ!若様ががきっと守ってくれるわ。信じて待ちましょう。大丈夫よ・・・きっと・・・』
市民の親子はリュウが今回も救ってくれると信じている。この親子だけでなく多くの市民が同様にリュウなら何とかしてくれる。そういう期待というよりも祈りに近いものだった。
『皆さん、落ち着いて下さい。ここのシェルターはこの程度の揺れで倒壊したりはしません。今外ではタイラ伯爵達が応戦しています。今回も撃退してくれますので私達は無事戦いが終わることを祈りましょう』
市民をシェルターに誘導したソフィアは皆が不安がらない様に声掛けをした。だが内心では外で一体どの様な戦いが行われているのか?リュウにもしもの事があったらと不安で仕方なかった。
『このままではマズイことになるな』
『リュウ済まぬ。妾も障壁を張るだけで他には手が回らぬ』
リュウはこの振動の対策を頭に思い描いた。だがそれを実行してもダークネス達の動きを封じることは出来ない。
『クラリス!俺がこの揺れを遮断している間にダークネスを何とかしてくれるか』
『はい、マスター。承知しました。お任せ下さい』
リュウは振動を街に伝えないための手段として街ごと地面と切り離して浮遊させることを考えた。ローグの街は5キロメートル四方もある巨大な街だ。その重さは正確には判らないが数十、いや数百万トンにもなるかも知れない重さだ。いくらリュウの魔力が膨大とは言え簡単に出来ることではなかった。
だが、悠長に構えている時間がない。とにかくリュウは街を切り離し振動の伝達を遮断させた。
鈴鳴が張った結界の中の部分だけ30センチメートル程浮遊させた。切り離しを行って空間転移で街の底面に重力反発装置を多数挿入させた。そうすることによりリュウは魔法を発動させる量を押させる事ができた。だがそれは出力が抑えられるだけでリュウが魔法を止めると途端に街は落ちてしまう。そのため敵への攻撃を行うことが出来なかったのでクラリスに託したのだ。
『すごいです!マスター!街が浮いてます!!流石私のマスターです!私惚れ直しましたよ♪』
なんとも緊張感の無い会話をする。いや、もしかしたらこの状況でリラックスさせ様と思ってわざと言っているのかも知れない。
その割には密着して抱き着くのは止めて欲しかった。
『クラリス。その柔らかい胸の感触は心地いいんだけど、魔法発動の気が散るから止めてくれ』
『どうです?マスタ、元気でたでしょ?ここからは私に任せて下さい敵を殲滅させます』
クラリスは既に4体の分身を出しているが同時に動かせるのは初号機である自分を入れて10体までだ。追加で5体の分身を同時に発動させた。そしてダークネスに向けて魔法を放った。二体のクラリスが上空から液体を散布している。この液体は一見すると水の様だが地面に落ちてからそれが粘着性のある液体だということが判った。
クラリスは跳躍させているダークネスの足元を粘着性の高い液体を散布して足元を固着させる考えだった。
この粘着性の液体は特殊ポリマーで出来ており、最初はサラサラしているのだが空気に触れて酸化することで非常に粘着性の高い液体となるのだ。リュウの世界の文献を読んで咄嗟に化学方程式を組んで万物創成で仕上げたので効果の程は確かめてない代物だったのだが実際の状況を見て考えは正しかったことが判った。
『クラリス、よくやったこれで揺れはだいぶマシになった』
粘着性の高い液体を散布してもその影響下にあるダークネスは限られている。まだ全体に影響する程でなかった。だが、勢いは抑える事ができた。