148 最後の戦い
リュウ、鈴鳴、クラリスの三人が門前で敵の出方を見ている。
『それにしても不可解じゃのう。他の各地では既に戦闘が始まっておるのじゃろう?なのに何故ここだけ戦闘が始まっておらんのじゃ?』
『それは簡単な事だ。敵の指揮官が奴だからだ。
神楽元、奴は何事にも恰好をつけたがる。こういう大きなイベントをやらかすんだ、何もせずに戦闘なんてする筈がない。
こうやって軍勢を背後に控えさせて口上でも切るんだろう』
リュウの想像していた通りの展開だった。
百万の軍勢の一番最前列によく知る顔が居た。ガズルと神楽元だ。
今回は指揮官車両なのかリュウのホバーにもよく似た浮遊型のオープンカーの様なものに乗っている。但し乗っているのは神楽元だけだ。ミノタウルスであるガズルの巨体では車両に乗ることはサイズ的に無理があった。
『いよいよ最後の戦いですね。隊長さん。長年の因縁にもようやく決着をつける時が来ました』
『そうだな。ここでお前とオーグを始末してしまえば平和が取り戻されることになるからな』
『おい!貴様!儂を忘れているだろう!』
リュウがわざとオーグと神楽元のみを語ったので最高指揮官であるガズルが憤慨していた。
『ククク、ガズルさん。挑発に乗ってどうするのです。隊長さんがわざとそういう風に話しているのがわかりませんか?』
ガズルは今度こそ失敗は許されない。下手なことをするだけオーグに消されてしまうのだ。その焦りと今までリュウのせいで尽く計画を潰されてきた怒りで冷静さを失っていた。
『まあ、神楽元。お前のことだから口上を切って優越感に浸るだろうとは思っていた。そのお陰で少しだけ時間稼ぎをさせてもらったぞ』
『そうですか。でも残念ですね。今回はこちらの勝ちは確定しています。ですから余裕のあるところを見せないといけませんからね』
『ところで教えてくれないか?これだけの軍勢をどうやってこの場所に出現させた?ここだけじゃない。世界各地で既に戦闘は始まっているんだろう?』
『どうしたものでしょう?この種明かしをしていいものやら。まあ最後なのでいいとしましょう。
これはオーグ様のお力です。といってもオーグ様はもうすぐ目覚めるので今発動させた訳ではありませんけどね。復活の時を見据えて何百年もこの世界を生きてきたお方です。世界各地に転移の刻印を施しておられたのですよ。長い年月をかけて多くの場所に大規模な転移を出来る程に刻印に魔力を注ぎ込んで。後は刻印を発動させるための鍵となる術式を唱えるだけで今目の前の様な光景となったという訳です』
『なるほど。気の遠くなる話だな。まあその苦労が全て水の泡になるんだから少し気の毒な気がするな』
『おやおや言いますねえ。隊長さん、その余裕がいつまで続くか見ものです。そろそろ終焉を合図を送りますよ』
神楽元はそう言うと右手を挙げてダークネス達に攻撃開始の合図を送った。
それを見ていたリュウは先程の説明で最高司令官はガズルという事だったのに神楽元が合図を送っていいのか?とツッコミを入れたくなったが今はそれどころではなかった。
世界の中心となる都市ローグである。しかもオーグ復活で脅威に晒されているのだ。何の防衛策も無い筈はなかった。
しかも、今防衛に当たっているのはリュウと鈴鳴とクラリスの三人だけだ。これは人員が居なかった訳ではない。
ローグにはどこよりも優れた最新防衛設備がある。その攻撃で戦場に味方がいるとフレンドリファイアとして味方を攻撃してしまう恐れがあるので少数精鋭で対処しているのだ。
その分、軍の人員を市民の避難や敵侵入の際の市内防衛に当たらせ、他国への援軍として派兵させた。
リュウは軍専用の転送ゲートを各国に設置して有事の際に援軍を送れる様にしてある。このゲートは認識された者しか送る事が出来ないため悪用をしようと思っても不可能になっている。
神楽元の合図でダークネス達は一斉に前進を始めた。百万もの大軍の前進だ少々の攻撃で防げる訳がない。
地中に埋め込まれたローグ防衛システムが地上に出るとビーム照射を開始した。各地に設置したビーム砲の永久作動版である。
地下には賢者の石に蓄えられた魔力が凝縮されて貯蔵されているので枯渇するには数か月作動をし続ける必要がある。それ程の膨大な量を蓄えていた。
ビーム砲が最前列のダークネスに着弾し消滅させていく。誘爆も含めて範囲攻撃となっているのだが敵の数が多すぎる。攻撃での消滅よりも前進の方が早いのだ。意思を持たないダークネス達はただひたすら命令のままに前進を続けているので怯むことがない。
ビーム砲が当たり消滅するまで数秒間で数メートル前進する。それの繰り返しでどんどん敵が間近に迫ってきた。
『悪しき奴らの好きにさせておけぬわ』
状況を見かねた鈴鳴が祈りを捧げるかの如く両手を胸の前に重ね合わせた。するとゆっくりと鈴鳴は空中に浮かび上がり、もと立っていた場所から5メートル程上に浮遊した。
上昇が止まるのと同時に鈴鳴の体から眩いばかりの光が発せられた。
神のオーラと呼ぶに相応しいその神々しい光に包まれて鈴鳴は羽衣を纏った天女の姿に変身した。これが本来神である鈴鳴の姿なのだ。
鈴鳴が両手を大きく広げると押し寄せてくる大軍の前に光の壁が出来た。それはただの壁ではない。光の聖なる壁だ。悪しき者が触れると浄化され消え去る力を備えている。
押し寄せるダークネスは壁にぶつかると断末魔とともに消え去っていた。感情を持たないダークネスでも痛みはあるので悲鳴はあげるのだ。
光の聖なる壁は高く伸びておりローグの外周を覆った。更に壁が外側へと広がりダークネス達を押し返していった。壁の成長が止まった場所はダークネス達が元居た場所、城壁から500メートル程先だった。