147 救済処置
リュウとクラリスは門に空間転移した。門の外壁に設置してある監視塔より外の状況を確認する。
時刻は午後9時を過ぎたところだったが月明りに照らされて黒い塊が周囲を埋め尽くしていた。一番近いところでは城壁から500メートルという近さだ。
『これだけの数がどうして急に現れたんだ?こいつら全世界に展開していると言ってたよな?空間転移が出来るのか?』
理由は後回しと言っていたのだが目の前の光景を目にしては言葉に発せずには居られなかった。魔法の空間転移は距離が限られている。ダークネスの拠点である火山島のある場所からはあまりにも遠い距離だ。しかも世界中に現れたとなると術者の能力を遥かに超える物量と距離を一体どうやって?という疑問が出ない方がおかしかった。
『クラリス、ローグ以外はどういう状況だ?』
『はい、マスター。既に交戦に入っております。残念ながら防衛システム作動の前に敵が侵攻してきたため被害も相当出ております』
『それはマズイな・・・今すぐエレノアとカーラを連れてきてくれ』
『了解しました。少々お待ち下さい』
クラリスが4号機と5号機を召喚しエレノアとカーラのところに瞬間移動させた。
クラリスはリュウを蘇生させてからリュウとのシンクロ率が飛躍的に上がりリュウの持ついくつかの力を自分も使える様になったのだ。その一つが空間転移だった。
もともと化成体と思念体との切り替えが行えるクラリスだったので空間転移もその応用に近かった。リュウとしては驚く程の事ではなかったのだが有用性という意味ではかなり助かる。
こうした有事の際にはリュウの指示で動ける者がいるかいないかでは全然違うからだ。
『お待たせしました。お二人を連れてきました』
クラリスがエレノアとカーラと手を繋いで空間転移で戻ってきた。
『リュウ様、また魔物が攻めてきたと聞きました』
『これから戦いが始まるのですね』
『ああ、そうだ。目の前を見て欲しい』
リュウが指さす方向、ローグの城壁の外側に無数の黒い影が埋め尽くしている光景が目に映った。
『・・・・これは・・・・』
『なんなのですか?これは?』
エレノアもカーラも我が目を疑う光景に唖然とした。
『ローグはまだ敵が攻めてきていないが、各地では既に戦闘に突入しており負傷者も多数出ている。済まないが二人で手分けして負傷者の治療に当たって欲しい』
『わかりました』
『はい!頑張ります!』
『カーラには北の大陸のマキワ以外の3カ国、エレノアには南の大陸全域を任せたい。分身で各地に配置して欲しい。空間転移は先程同様にクラリスが連れていってくれる』
『リュウ様。この目の前の敵以外に邪神オーグがまだいるのですよね?』
『そうだ。復活は時間の問題だろう。俺たちは奴の復活を止める事が出来なかった。だが俺が命に代えてでも皆を救ってみせる』
『伯爵様!命に代えてもなんて言わないで下さい!私まだまだ伯爵様とお話したいですし一緒にいたいです』
カーラは涙を流しながらリュウに抱き着いた。
何も言わなかったがエレノアはリュウが今回の戦闘では無事では居られない事を覚悟している事を感じ取っていた。
『おいおい、俺は別に死ぬために戦うつもりはないぞ。そういう心構えで戦いに挑むという意味だ』
リュウは二人に心配させまいと明るく冗談っぽく話した。
『安心せよ。妾が命に代えてもリュウを守る。安心して行くがよい』
背後から声が聞こえた。声の主は鈴鳴だった。
『鈴鳴さん!』
『妾も神の一人じゃからの。いつまでもこの者達の好きにはさせておかん。リュウ一人に重荷を背負わす訳にはいかんからな。共に戦うから心配するでない』
『はい、クラリスも一緒なので大丈夫です!クラリスはマスターの盾です』
『わかりました。鈴鳴さん、クラリスさん。リュウ様の事はお任せ致します。何卒お二人もご無事で』
『二人とも宜しく頼んだぞ』
エレノアはいつもと同じ通りの平常心だった。むしろ神々と共に戦える事に高揚していた。
クラリス4号機、5号機に共に手をとられエレノアとカーラはそれぞれの地に向けて空間転移した。
『鈴鳴、来てくれたんだな』
『前にも言ったじゃろう。其方を失いたくないからの。神の本気というものを見せてやるぞ』
『いつになく鈴鳴が頼もしく見えるな』
『茶化すでない。言葉にするのは恥ずかしいのじゃぞ』
そう言いながら頬を赤らめる鈴鳴だった。