142 記念式典
一週間後に予定通り誕生記念式典と各国首脳会議がローグで開催された。
開催場所は記念式典を王宮で、サミットをローグが北の大陸の陸都であり、世界の中心都市を象徴する様に国際会議場を建設しそこで行われた。
誕生記念式典はリュウとクリスの息子ジルーバートが披露され多くの観衆から祝福された。この時はまだ昼間なので花火でなく祝砲が撃たれた。花火は日没後に行われる。
式典には各国の首脳が来賓として招待されていた。一同が顔を合わせるのはもちろんこれが初めてだ。北と南の大陸それぞれでの交流は少なからずあったのだが、大陸を越えての交流はなかったためお互いに初見では緊張が感じられた。だが、全ての首脳はリュウの事を知るため共通の面識者としてリュウがこの場を上手く取り持って不愉快を感じたり不手際が無い様に配慮をして回った。
サミットの前に記念式典を先に開催した。これは式典行事の後で立食会を催しそれぞれの交流の機会を与えて少なからず面識を持たせるためだ。ここでもリュウは各国の要人同士の顔合わせをセッティングしたり、挨拶を行ったりで大忙しだった。
『ふ~っ、流石に疲れるなあ』
『お疲れ様です。あなた。お飲み物をどうぞ』
立食会にはクリスも参加している。リュウを気遣って飲み物としてアップルサイダーを持ってきてくれた。多くの人と話をする必要があるリュウを気遣ってアルコールの入っていないものを選んでいた。
息子ジルバートはお披露目が終わったので別室で御付の者に世話をさせていた。流石にこう引っ張り回されたら生まれたばかりの赤ん坊にとっては身体によくないので配慮された。
『あなたはここに来られている方皆様と面識がお有りなのですよね?各国の首脳クラスの方ばかりとお聞きしました。』
『ああ、そうだな。少なくとも南の大陸の方々は皆面識というか親交があるな。北はまだ国交が始まって間がないので知り合いと呼べる程の交流は出来ていないのだが』
『それにしても素敵なことですよ。あなたのお力でこの世界をひとまとめにした様なものですから』
『お父様(国王)もあなたの事を早く昇爵させたいみたいでしたよ』
『今のままで十分なのだがなあ。伯爵の身分で困ったことなどなかったからな』
『何も無しでは逆にお父様の威厳にも関わりますから。これだけの功績を上げているのに国王は何をしているという声も聞かれていますし、あなたが評価されると喜ぶ人達も多いのですよ』
『そういうしがらみもあるんだな。なかなか難しいものだな。俺はもともと軍人だから階級の昇進とかはあったが中級士官程度のものだったからな』
『王家親族ということで公爵への昇爵が妥当ではないでしょうか。私もあなたが立派になられるのはすごく嬉しく思いますよ。あなたのお陰で何一つ不自由のない贅沢な暮らしが出来るのですが、爵位が上がれば領地も持てますしあなたに仕える人も増えます』
『そうか、クリスがそう思っているのなら有り難く拝命するかな。俺は政治より商売の方が好きなのだが今となってはそういう我が儘が通らなくなってきたからな』
『それと側室の件なのですが、私も噂を耳にしていますが、どうなさるお考えなのでしょうか』
リュウは覚悟をしていたがとうとうクリスからその件について話を出された。とはいえ、いつまでも放置している訳にはいかない。
『まあ、噂はあくまでも噂だな。どこが出処かわからないが、俺としては今のままでいいと思っているんだが・・・』
『私としては今の身内の方を大切に思っていただけてすごく嬉しいのですが、あなたの武勲に対して相応で良いかと思っています。あなたの元居た世界では一夫一妻が通常だったとお聞きしておりますが、この世界では偉大な功績を残した者にはその大きさに匹敵して妻を持つ事が望ましいとされております。例え十人二十人増えたとしてもあたなには多過ぎる事はないでしょう。むしろ賞賛の声の方が高まるかと思います』
『そういうものなのか・・・この文化だけは馴染めないな。そんなに多くの妻が居たら顔と名前を覚えるだけでも大変だよ。俺は正妻であるクリスと今の側室四人でも充分なのだが・・・』
『ふふふ、もうあなたったら。お優しい方ですからそんな事はないでしょうに。何れにしても公爵になる際にはこのお話も出るのでお覚悟を決めてくださいね』
『わかった・・・クリスがそう言うのであれば仕方ないな。その件に関してはまた他の四人も含めて相談させてもらうよ』
リュウはクリスの話を聞き入れた様に振舞った。だが内心では自分が居なくなった後で未亡人を増やす事になってしまうので極力悲しい思いをさせる人数を増やしたくなかった。
リュウとクリスが会話しているのを見ていた人達は会話の内容はわからないが仲のいい二人という印象だったに違いない。二人のもとに続々と要人が挨拶をしに来たので会話はそこで止まった。
式典後のパーティではグルメ食堂からローグの人気料理をヴュッフェ形式で並べたのだが、この料理がかなりの評判になっていた。
余程気に入ったらしく自国に出店してもらえないかというオファーもあり思わぬところでビジネスの商談になったりもした。
料理だけでなく食材や調味料も初めて目にするものが多く、それらの調達も行うことで話をしていた。このイベントが終了した後に別の意味で忙しくなる。
無事に式典とパーティが終了し、各国の首脳を各国首脳会議の会場である国際会議場へと案内した。
移動はホバーのリムジンバスで周辺には護衛がついてのものだ。
このホバーもローグ産の工業製品の代表ですでに他国への輸出が行われているが実際にローグの街中で普通に走っている近代的な光景を見て驚いていたが遅れを取るまいと大量のオーダーを各国から出されておりこちらも大商談会の様な賑わいだった。