137 出産
翌月、臨月に入ったクリスにクリスに陣痛が起り、官邸の専門医が召集され分娩の準備に入った。
クリスの傍には母親のケイトが付き添っている。
国王とリュウの男達二人はは何も出来る事はないので待合室でまだかまだかと待っているだけだった。こういう時は男は何の役にも立たないものだ。
分娩室に運び込まれてから五時間程が過ぎた。通常の出産でも半日以上掛かることはあるし酷い難産の場合、数日を要する事もある。その場合、母子共に生命が危うくなる。
それを考えると早い方だった。半日も経たずに元気な赤ん坊の泣き声が分娩室から聞こえてきた。
『婿殿!あれは!』
『はい、無事産まれたみたいですね』
分娩室から看護師が出てきた。
『国王様、伯爵様、おめでとうございます。元気な男の子がお生まれになりましたよ』
看護師がそう告げると国王は全身で喜びを表現した。
『でかしたぞ!婿殿。これでこの国の先行きも安泰というものだ。いや、実に嬉しい』
『国王様、手柄はクリスのものですよ。私は何もしていませんので』
『まあそうだが、二人の子というのには変わりあるまい。しかも婿殿の血を引いているのであればさぞがし優秀な子なんだろう』
国王は親ばかでなく爺ばかなのだろう。この先過保護に育てないか少しリュウは不安になった。
しばらくしてクリスが部屋に移されて国王とリュウもそちらに移動した。
『クリス、よくやったな。ご苦労様』
『はい、頑張りました。元気な赤ん坊でよかったです。あなた』
『どれ、わしにも良くみせてくれんか』
国王はクリスの横で寝ている赤ん坊の顔を顔を近づけてみつめた。
『これはどっちに似てるのかの?髪の毛はクリスだが、目鼻立ちは婿殿か?』
『お父様。まだ産まれたばかりなのでどちらにも似て見えますよ』
『それにしても小さい手だな。こんな小さい手が動くなんて不思議だな』
リュウは初めての自分子に感動していた。あまり子供が好きではなかったのだが自分の子供となると話は別だった。きっと目の中に入れても痛くないというのはこういう事を言うのだろう。
『あなた、クリスが産まれた時も大騒ぎだったですからね。今日はまだ大人しい方です』
『お母様、そんなにお父様は騒がしかったのですか?』
『余程はじめての子供が嬉しかったのでしょうね。私の事など気にせず子供の事ばかり言ってましたから』
『おいおい、古い話を持ち出さないでくれないか。あの時は悪かったと思っているさ。もちろんお前の事も心配だったさ』
いろいろと奥方には弱みを握られている国王だった。
『ところで二人とも、子供の名前はどうする?』
『この国の伝統では名付けはどの様にするのですか?』
『そうだな。基本的に付けたい名前を夫婦と国王で考え、それが議会で承認するという形になるな』
『そのことですが、お父様。私と主人で考えた名前を検討いただけないでしょうか?名前はジルバートにしようと思っています。普段はジルって呼ぶといいですね』
『ふむ、ジルバートか・・・うん、いいな。王に相応しい名前だ。わしは気に入ったぞ』
『そうですね、母も良いと思いますよ。何よりお婿さんと一緒に考えたというのであればそれに越した事はないわ』
国王も奥方もジルバートという名前を大層気に入ったみたいでリュウもクリスもホッとした。
『ではワシから議会に報告しておく。誰も異論は言うまい』
こうして二人の子供の名前はジルバートとなった。
クリスは安産だったとは言え、しばらく安静にしておく必要があるので数日は医療施設で母子共に様子を見るために残ることとなる。
病室を出たリュウは国王と話をした。
『国王様、少しお話をしてもよろしいでしょうか?』
『なんだ?婿殿あらたまって』
『子供が生まれて早々で何なのですが、次期国王は私ではなくジルバートとしていただきたいと思います』
『突然何を言うかと思えば。それで、その理由は?』
『はい。私は元々この世界の人間ではありません。クリスと結婚して得た身分でしかないのでやはり正式な血を引く者に国王を継がせるべきと考えます。それと、私の立場上いつも危険と隣り合わせで国王がその様な状態だと国民が不安がります』
『うむ、言いたい事は判った。だが、この国の民の多くは婿殿を慕っておるのだぞ?王になったからと不満の言う奴などおらんとワシは思うがな。まあ判った。まだ子供が生まれたばかりだ。その事についてはもう少し先送りにしよう』
リュウは地位とか名誉にはあまり関心がなかった。むしろ足枷となる事の方が多いので逃げれるのならと思い早いうちにジャブを打っておこうおと考えて国王に相談したのだった。