130 訓辞
翌日、リュウはアカデミーに赴いた。既にアカデミーは開校しており平常の授業が行われている。開校式は理事長である国王が挨拶をしていたのだが、やはり創設者であるリュウからも一言言葉が欲しいという教職員やリュウを知る生徒達からの希望もあり、その挨拶をするためにアカデミーに足を運んだ次第だ。
この日に合わせて同じく理事であるギルド会頭のナターシャも同席した。
リュウは只単に訓辞を言いに来たわけではない。もうすぐ開通するトンネルと鉄道により南の大陸からも各種族がやって来る様になる。当然ローグに住む者、アカデミーに通う者が出てくる。その為の受け入れ準備を進めておく必要があるのだ。その事を伝えるのと入学の生徒枠をどうするかと取り決めしないといけない。
先ずは理事長、理事を含めた教職員会議を職員会議室で行った。
初年度の入学者は予定通りの1500人となっているが、来年度も同じく1500人枠で行くとすると人間と他種族の比率をどうするかが問題だ。
『南北間の交流が始まるとこれまでと生活スタイル自体が変わってくると予想されます。このアカデミーの生徒に関しても多種族に対応しないといけませんが、私の管轄するギルドも各国の受け入れ態勢と依頼の管理を行える様進めています。来年度から始めるにしても事前情報が無いまま行うのは厳しいと思いますがその点について何か良い案はありますでしょうか?』
ナターシャが今後の進め方について質問をおこなった。
『そうだな。受けれを考えると各種族最低でも一名ずつでも職員が居た方がいいな。エルフはナターシャに任せるとして、ドワーフ、獣人、魔族は俺の方で都合をつけよう』
『そうしてもらえると助かります』
『それと、今は戦術科とハンター養成科の二つだけだが、来年度からは職錬科を新設したいんだけどどうかな?』
『婿殿、いや、タイラ伯爵、職錬科というのはどういったことをするところなのかね?』
『新入生はドワーフもやってきます。ドワーフは鉄工、エルフは機織り、獣人は毛皮なめしや木工などそれぞれ優れた技術を持っています。これらの技術をを授業として取り入れすぐれた職人に育てるという試みをしてみたいと考えております。
本来優れた職人になるには何十年もの月日を修練してこそ成れるものですが、まだ学生なのでそこまでを求めなくても可能性について確かめる機会を与えられたらと思っています。授業を通じてエルフが鍛治を目指してもいいですし、ドワーフが木工をしてもいいのです』
『なるほど、それは面白い取り組みだな。是非進めてくれ』
国王にも賛同してもらい来年度は職錬科を三科体制で進めることが出来そうだ。
こうして教職員会議で来年度の方向性が決まり準備に取り掛かることになった。ちなみにアカデミーの授業料は今のところ無料だ。正確にはマキワ政府が助成している。ローグは税収も潤沢なため余剰金を蓄えるよりも投資できるものに使おうというのがリュウの考えだ。
授業料は無料だが、入るための試験での振るい落としは行っている。誰れでも入れるというものではなく、入学しても一定の基準を満たない者や素行が悪い者は退学処分となる。
アカデミーはギルドと直結しているのでブラックリストに載ると今後仕事に就く事も難しくなる。まだ開校したばかりなのでその様な者は出ていないが今後も出ないとは限らないので一応規則として浸透させて抑止力とさせていた。
教職員会議の後にリュウは生徒たちに訓辞を行った。講堂に全校生徒が集まられリュウの話に注目した。
生徒たちにとってリュウは憧れの存在だ。若きニューリーダーと言った感じだろうか。僅か数年で国とも呼べなかったマキワ領がローグを中心として大きく発展して北の大陸、南の大陸の種族の交流の橋渡しを行ったり、魔族侵攻の際の撃退武勇伝など多くの伝説が生徒たちの間で交わされていた。そういった噂話は大抵背ひれ尾ひれがついて誇大になるものだがリュウの実績はそういった付け代が無いくらいに壮大な功績ばかりだった。
リュウは訓示を述べながら生徒達を見渡して見ると体験入学に来ていた生徒の顔が確認出来た。トーマスの同じ組だった四人の顔も確認できてホッとした。
訓示も終わり臨時集会が解散となった後、講堂を出ようとしていたリュウに二人の生徒が話し掛けてきた。
『あのう、伯爵様、少しよろしいでしょうか?』
『ああ、構わないが』
『お初にお目に掛かります。生徒会会長のランシュと申します』
『同じく副会長のマレリアです』
リュウに声を掛けたのは生徒会会長のランシュという少年でいかにもという金髪の美少年と副会長の茶色のストレートの長い髪が特徴のマレリアという少女だった。
リュウは設立には尽力を尽くしていたのだが、実際の運営に関してはスタッフに一任していた。その中には生徒会に関するものも含まれており、その存在も今初めて聞いたのだった。
『おお、もう生徒会が出来ているんだね。知っての通り理事のタイラです』
『まだ出来たばかりの学校ですが、私たち生徒会が中心となってより良い学校にしたいと考えております。是非伯爵様にもお力をお貸しいただけないでしょうか』
『それはもちろん協力は惜しまんよ。で、何か今困っていることがあるのかい?』
『はい、実はアカデミーとして学校はスタートしたのですが、普段の勉強だけでなく何か励みになる様な活動とかイベントが出来ればと思っているのですが、なかなか良い案が浮かばなくて困っているのです。伯爵様のご意見をお聞かせいただければと』
『なるほど、良い心がけだね。ヒントならいくつか出せるよ。一つは毎日の授業が終わった後にクラブ活動をするといい。クラブとは同じ趣味のサークルみたいなものだ。運動とか芸術とかね。この国はスポーツがあまり盛んではないんだかこういうところから発展してくれると面白いんだけどね。
あとは季節毎にイベントをするといい。芸術祭とか体育祭とか。これはあくまでもヒントだから自分達で具体的に何が出来るか議論して欲しい』
『伯爵様、ありがとうございます。やはり私達とは着眼点が違いますね。流石です。早速生徒会で検討したいと思います』
『活動において費用が伴う者は予め予算化しておくといい。大凡の見積金額で申請してくれればいいから』
リュウは自分のアイデアでも何でもない元居た世界の学校行事を適当にヒントとして伝えただけだ。それをどうアレンジするかは今後の楽しみに見守ることにした。