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武龍伝  作者: とみぃG
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129 カミングアウト

カーラはアカデミーの授業が終わった後に孤児院に寄った。ここ最近は日課の様になっている。孤児院に通うきっかけとなったのは、体験入学で同じ班にだったトーマスの事が少しでも判ればと思ったからだ。

トーマスの事はエレノアから聞く事が出来た。エレノアはトーマスの経緯を知っているため口裏は合わせている。リュウからも体験入学の誰かがトーマスの事を聞きにくるかも知れないと伝えていたので孤児院に居たことにしている。


貴族の娘であるカーラは今まで何不自由なく暮らしてきたのだが、身寄りのない孤児院の子達を見て自分は今までなんて幸せだったんだろうと思うようになった。そしてこの子達の手助けに少しでもなればという気持ちで毎日足を運ぶ様になったのだ。子供たちもカーラに懐くようになりここで過ごす時間はカーラにとっても楽しいものとなった。


孤児院では食事の材料はなるべく自給自足とするために菜園が敷地内にある。ここの菜園も魔の森から持ってきた土で耕しているので作物が良く育ち通常の三分の一の期間で収穫できた。

カーラは専らこの菜園の手入れや収穫した野菜の保存の手伝いをすることが多かった。それらの仕事がない時は裁縫や料理の下ごしらえを手伝ったりしている。


箱入り娘で育ったカーラだったので野菜の手入れや家事など一切したことがなく最初は失敗も多く苦労していたが、熱心に続けていくうちに普通にこなせる様になっていた。


カーラはジャガイモの間引きをしていた。実を大きく育てさせるにはある程度数を減らして日が当たりやすくしたり土の養分を行き届かせる事が必要なので葉が付いてしばらくした時点で間引きをするのだ。

作業をしているカーラにリュウが近づき自分も作業に加わった。


『え?うそ?伯爵様ですか!?なんで???』


カーラは突然リュウが来訪し、しかも畑仕事をしだした事に驚いた。

孤児院に協力しているとは聞いていたがまさか目の前に現れるとは思ってもみなかった。


『やあ、驚かせて済まない。君がカーラだね。エレノアから聞いてるよ。孤児院に協力してくれてありがとう』


『そんな、恐縮です。私なんて大したこと出来てないです』


『でもどうして孤児院に協力する気になったんだい?君は貴族の家のお嬢さんだろ?』


『はい、父からは反対されていますので内緒で来ています。最初は友達が以前ここに居たというのを聞いてどういう所か興味があったからなんですが、来てから作業を手伝っているうちにいつの間にか日課みたいになってしまいました』


カーラは笑いながらリュウに説明をした。


『それでその友達の事は判ったかい?』


『それがあまり情報としてはないんです。エレノア様やシスターは知っている様ですがここの子達は知らないっていうから不思議なんです。私もその子とは実際には二週間くらいしか一緒に居なかったんですけど、その何倍もの時間を一緒に過ごした感じでした。魔法も教えてくれるって言ってたのに目の前から消えてしまって・・・』


そう言いながらカーラはリュウの方を見たのだが、その目に映る光景が信じられなかった。今まで話していたリュウではなく自分の思い出に残っている少年の姿がそこにあったからだ。


『トーマス君!!!』


カーラは土仕事で手が汚れているのも関係なく勢いに任せてトーマスに抱き着いた。突然の驚きと嬉し涙で声が出せない。


『やあ、カーラ。孤児院を手伝ってくれてありがとう』


『トーマス君、会いに来てくれたのね。私ここに通って良かった。でも、トーマス君死んだものと思ってた・・・』


『いつまでも君を騙しているのは悪い気がしてね。実はトーマスは俺なんだ』


リュウはそう言いながら指輪を外してトーマスから元のリュウの姿に戻った。


『嘘!信じられない!トーマス君が伯爵様だったなんて・・・でもそう考えると一連の出来事に辻褄が合います。ソフィア先生も敬語だったしトーマス君の能力が規格外だったし・・・』


『今まで騙していて済まない。俺は君たちを守る必要があったんだ』


『はい、伯爵様のご事情はわかります。私たちもいつも守られているという安心感があったのは伯爵様のお陰ですから。でも、私は伯爵様が正体だったとしてもまたトーマス君に会えてうれしいです』


トーマスの正体がリュウだと判ってもカーラはずっとリュウに抱き着いたままだった。カーラにはリュウとトーマスに同じ匂いに感じ、その温かさも同じものだった。もう会えないと思っていたトーマスにまた会えた。そのトーマスが目の前のリュウだということはこれから先も会えるという今までの失望感から安心感に変わったので嬉しくて仕方がなかった。


『あはは、カーラがこんなに甘えん坊だったとは知らなかったな』


リュウはいつまでも抱き着いて離さないカーラにどうしたものかと対応に悩んだ。


『だって、すごく寂しかったんですよ。ポッカリ穴が開いてしまった感じで。たった二週間の付き合いだったのに。こんな気持ち初めてです』


リュウはその気持ちが何か判っていたのだが敢えてそれは言わなかった。またいつものトラブルの予感がタップリしていたからだ。しかもここにはお目付け役としてエレノアがいるのだ。


そのエレノアはと言うと施設の院長室の窓から二人の様子を遠目に眺めていた。事前にカーラには本当の事を告げるとリュウに聞かされていたのでエレノアにとってこの事態は予想通りの展開だった。

彼女は他の女性と違ってリュウが女性と親しくすることに嫉妬はしなかった。神の慈悲として多くの人に愛を与えるのは当然と思っていたからだ。むしろ自分の一番大切な人のすばらしさを共感出来る人が増えることを嬉しく思っている程だった。


リュウはエレノアがそこまでとは知らず家族に告げ口されないか冷や冷やしていたのだがとり越し苦労だった様だ。

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