127 晩餐
その夜の食事は久しぶりにリュウが帰ってきた事もあり豪勢な料理を振舞った。来月に臨月を向かえるクリスには無理をさせられないのでソフィアとエレノアがメインで料理をしたのだが久しぶりに食べる家庭料理という感じでリュウは料理を楽しみながら一家団欒を楽しんだ。ユリンもリュウが帰宅したという一報を受けて早めに切り上げて帰ってきた。
『リュウよ、其方はついに魔族とも和睦の道筋を得ることが出来たみたいじゃのう。これ程までの事を成し遂げるとは思っておらんだぞ。流石妾の見込んだ男じゃな』
鈴鳴は神の使いとしてリュウの本来の目的を知っている。それ故に魔族との対立は避けられないと思っていたのだが、リュウが平和的解決の道を作ったことに相当感心していた。
『魔族ってあの襲撃のイメージがあるからいまだに怖いんだけど大丈夫なの?』
ユリンがリュウに問いかけた。
『ああ、大丈夫だ。結局人間も魔族も何も変わらないってことさ。人間にも悪者はいるし魔族にも善人はいる。ただ魔族って言うだけで悪者扱いをするのは差別と同じなんだ』
『そうなのですが、やはりトラウマというものが民にはあると思いますよ。特に戦いに参戦した人はなかなか割り切れないと思います』
『まあクリスの言う通りだ。しばらくはわだかまりとして双方に残っているだろう。だが、魔族も長年平和を維持してきた種族なんだ。あの侵攻作戦も多くの魔族は望んでおらず、徴兵で強制的に連れて来られた者達が殆どだったらしい。しかも多くはそこで命を落としている。
魔族の中にも人間憎しや俺の事を憎んでいる者も少なくはないだろう。だが彼らはもう未来を見ているんだ。新しい新天地で平和に暮らそうという思いが強い』
『あたらしい街でしたね。ニューシティでしたよね?どの様な街なのでしょうか?リュウ様』
『エレノアも今度行ってみるといい。魔族の街だが、今は街造りのためにドワーフやローグの職人、エルフ達も多く手伝っている。一足先に多種族の街になっている。
もうすぐ開通するトンネルが出来れば鉄道で行き来が盛んになるからローグも半年後には同様になっているだろう』
『鉄道が開通したらいよいよ南の大陸の種族との交流が始まるのですね?ドワーフや獣人やエルフがやってくるなんて想像がつきません。リュウさんはもう全ての種族とお会いしてるのですよね?』
ソフィアがリュウに質問した。
『ああ、もちろん会っているよ。丁度俺の訪れた時に各種族も魔族の襲撃を受けていてね、それを助けるために尽力を尽くしたので人間に対しては悪い印象は持っていないはずだと思おう』
『それでは前に言われていたアカデミーの生徒の多種族も実現しそうですね』
『そうだな。遅くとも来年度には間に合うと思う。そうなると又いろいろと忙しくなるな。ソフィアにまたお願いしないといけないかもしれないな』
『はい、いつでも言ってくださいね。二週間だけでしたが教える事の難しさがわかりました。でも遣り甲斐のある職業だという事も判りました。平和になったら講師に転職してもいいかと思うようになりましたよ』
『まだ諸悪の根源を倒してないからな。それが終わればこの世界も平和になるだろう。あと少しだけ先だな』
『心配いらぬ。リュウが片づけてくれるからの』
『おいおい鈴鳴、簡単に言ってくれるな』
鈴鳴もリュウが久しぶりに帰ってきたのが嬉しかったのだろう。いつも以上に笑顔が見れた。
『そういえば、エルフのエリンちゃんやフェアリのメアリーちゃんも鉄道が開通すれば又会える様になるよね!』
『ふふふ、ユリンさんは二人と一番仲が良かったですものね』
『だってさあ、リュウの嫁になるって必死でさあ、何とか力になってあげれたらって思うじゃん。それにユリンとエリン、名前が似てるから他人事の様に思えなくてね』
『名前が似てるで思い出した。クリフなんだが』
『クリスさんとクリフってこと?』
『いや、今回はクリスは関係なくてクリフ自身の事だ。獣人の族長の娘といい雰囲気だったんだ』
『なんと!!それは本当か?詳しゅう話してみい』
鈴鳴は世間の噂とか恋愛話は三度の食事より好きだったのだ、急に目が輝きだした。
リュウは今回の獣人救出についての経緯や出来事を詳しく話した。
そしてお互いが満更でなかったという事がポイントだった。
『しかしあの堅物クリフがねえ。信じられないわ』
『まあ、一番クリフを良く知るのは同じ部隊で仕事しているユリンだろうな。でも事実だ。本人は隠しきれてると思っているらしいが、恋愛には慣れていないのだろう。見ていて笑いが止まらなかったぞ。ムーアも怪しいって言ってた』
『『ムーアって誰??』』
みんな聞いた事のない名前に疑問を抱いた。明らかに女性の名前だ。
リュウは例の一件があったので余計な心配のさせないためにムーアの事は伝えてなかったのが藪蛇となった。
『ムーアは魔族の協力者だよ。今回彼女の協力があって成功したと言ってもいい。また今度会う機会があれば紹介するよ』
リュウはこの場はなんとかやり過ごしたと思ったのだが、女性陣達の目は誤魔化せなかった。これはきっと何かあるに違いないと女のカンがそう知らせていたのだ。
女性陣もこの場はやり過ごしたフリをして後日この女性について調べることにした。こういうことはユリンの得意分野だ。
リュウの女難の相はきっと更に濃くなっていった事だろう。