120 男達の帰還
神楽元が自分の魔鬼がどれくらいすばらしいかをオーグに力説していた。最初はすばらしいと驚きと共に話を聞き入っていたオーグだが、あまりにも話がくど過ぎてオーグもウンザリしてきたので話を打ち切らせようとしたその時だった。
突如今居る謁見の間の隣の部屋で爆発が起こった。オーグは身の危険を察知し謁見の間にいる自分を含めた三人に球体状のバリヤを急遽施した。
力を封印されているとはいえ、オーグの放つ結界は非常に強固なもので少々の爆発などものともしなかった。
爆発は続き謁見の間自体も屋根部も下層階も全て爆発の発生源となり安全な場所など存在しなかった。
『な、何事だ!!』
『慌てるな、ガズル。こういう事をするのは神の手の者しかおるまい』
最上階の謁見の間に居たオーグ達は魔城が崩れるのと同時に重力に引かれるまま下へと落下していった。高さは100メートル近くはある高さだったためそのまま落ちれば無事では済まない。
だが、オーグのバリアは落下の衝撃をも吸収し怪我をすることは無かった。
地上階まで落ちたオーグ達の周りは土煙が充満しており周辺がどの様になっているのかは判らなかった。
視界が晴れて周りの状況が確認できたのは三十分後の事だった。
『これは一体・・・・』
ガズルは辺りを見て唖然とした。魔城が崩壊し、辺り一面が瓦礫の山と化していた。この城には先程まで決起の集まりで武闘派の者達の多くが集まっていた筈だ。
残念ながらその者達は逃げる事も出来ず瓦礫の下敷きとなっていた。
『またしてもやられましたね・・』
神楽元は今回もリュウの仕業でやられたことは理解していた。何故か余裕に見えたのは自分の兵が犠牲になった訳ではなかったからだろう。兵力が落ちた分、自分の魔鬼で補充をすれば賄えると思ったのだが魔族に対する自分の影響力も上がるので願ったりだった。
城は崩壊したが、自分には魔鬼の生産工場があれば何とでもなる。そういう余裕があったのだが、もしかしてという胸騒ぎがするので工場のある方角へ目を向けて絶句した。
『なんだと!!なんでこうなっている!クソっ!ふざけるな!!絶対許さんぞ!!何倍にもして仕返ししてやる!!』
普段は丁寧且つ紳士的な行動をモットーとする神楽元だったが、あまりの不測の事態に取り乱してしまた。
彼の魔鬼生産工場は魔城から離れた位置に建設していたのだが、塔の倒壊が垂直ではなく木を伐り倒した時の様に横に倒れてしまった為に彼の工場が倒壊した建物の直撃を受けて潰れてしまっていたのだ。倒壊の際に勢いがついており工場は壊滅状態に等しく跡形も残っていなかった。
彼が取り乱したのも無理はない。このところこの工場の建造と実験のために不眠不休で取り掛かって苦労の末に完成したばかりだったのだ。もう一度作れと言われても気力と資材がなかったのだ。
この工場の破壊については出来過ぎの様な感はあるのだがリュウにとっては知るところではなかった。
知らなかったのだが、どういう爆破をすればいいのかを考える際に神の力が作用したのかも知れない。だがそれには誰も気付く事はなかった。
<同時刻 獣人の里>
獣人の里では男達の帰還で喜びに包まれていた。里中がお祭り騒ぎの様になっている。
転送された際には何が起こったか判らず混乱していたのだが、ギムドとナタルがリュウの指示通りに皆を従え説明を行ったのですぐに混乱は収束した。
『ギムドもナタルも無事だったのね!よかった!』
『おお!ラナ。お前があの人を連れて来てくれたんだってな。そのお陰でこうして無事戻ってこれた。よくやってくれたな』
『族長の奥さんとリサが人質に取られたと聞いて心配していたんだが無事救出されてよかった』
ギムドとナタルはラナの幼馴染だった。年齢は男性二人の方が年上なのだが幼少期は一緒に遊んだりしたので仲が良かった。
『伯爵さんではなくて最初は部下の人に助けられたの。すごくカッコいい人なんだよ』
『お・おう、それはよかったな』
ギムドは突然ラナから聞いた男の存在を知って気が気ではなく、ライバルの出現に戸惑いを隠せていなかった。
その夜、獣人の里では皆の無事を祝って宴が繰り広げられた。
もちろん主賓はリュウだ。
リュウ扮するガズルは爆発の混乱に乗じてその場から姿を消し、獣人の里へと移動したのだった。
リュウが里に戻った時には既に家族の再会も済んでおりそれぞれが自宅へと戻った後だったのだがリュウが里に戻って来た事を知って皆がこぞってリュウへのお礼を言いたくて族長の家の前に集まって来たのだった。
里のお祭り騒ぎは夜通し行われるのだろうがリュウはまだやる事が残っていた。
今度は魔族の疎開を進めなければならない。今魔都バレスは爆発の混乱の最中だがこれを好機として一気に遂行させる必要があったからだ。
リュウは宴が盛り上がる中頃合いを見て抜け出し、魔都バレスへと飛んだ。