118 二人のリーダー
『いくぞ!俺に続け!!』
獣人の若者が仲間を従えて突進をかけた。彼は里のリーダー格なのだろうか?こういった光景を客観的に眺めているとそれぞれの動きがよく見えてくる。
『こっちは防御が手薄になっているぞ!守りにも気を配れ!』
もう一方のチームでもリーダー的な存在がいる様だ。この二人が若者の中心にいるのだろう。
リュウはこの二人を今後の作戦に協力させる事を思い付いた。
『おい、指導官』
『はい!なんでしょうか?ガズル様』
『あの二人はどういった立場の者だ。それぞれのチームで陣頭指揮をとっている者達だ』
『あの者達ですか。確か獣人の里の次期族長の座を争っている者達です。獣人は男性が長をする掟で、今の族長には娘しかおらず、別の候補者を選ばなくてはならず、その候補者としてあの二名の名が挙げられているみたいです。
左側の攻めで優勢な方がギムド、右側の守りに入っている者がナタルと申します。
早速ガズル様のお目に留まりましたか。この後であの二人を呼びましょうか?』
『いや、それには及ばん。この程度では話にならん。もう少し成長してからにしておこう』
『ははっ、畏まりました』
目に留まった二人、ギムドはチータでナタルは熊の獣人だった。
リュウは指導官から離れて兵士達に近づいた。先ずは首輪を何とかしないといけない。念話でクラリスを呼び出した。
”クラリス、聞こえるか?”
””はい、マスター。ご無沙汰しております””
何だか最近益々クラリスが人間の様な挨拶をする様になってきた。
”獣人達に装着されている首輪だがどういう仕掛けなのか解析してくれ”
””承知しました。少々お待ち下さい・・・・・
解析出来ました。首輪には発信機と小型爆薬が装着されています。爆薬はC4タイプで間違いありません。所定のエリアから出たり、任意の操作で起爆させることが出来ます。この地域の爆発残留物から推測して何度か実際に爆発する事態が起こっている模様です。
それと、首輪には固有コードわ割り当てられております。個々に対応したキーコードで管理者が制御を行っております””
””やはり神楽元の仕業だな。二千人全員の首輪を解除することは可能か?残されている時間は少ない””
””全てにマーキングを予め施しておけばマスターのお力なら造作のないことかと””
”そうだよな。空間転移で飛ばすか、万物創生で分解するかだよなだが、まてよ。空間転移で移動させた時点で起爆装置が作動するだろう。迂闊な場所に飛ばせないな・・・・逆にそれを利用してやろうか”
リュウは名案を思い付いたとばかりに人の悪い笑いを顔に浮かべた。
棒倒しはギムド側のチームの優勢のまま、あと一押しというところまできていた。
その時だった。辺り一面が突如として静寂に包まれ何者も動かなくなっていた。いや、正確にはギムドとナタルの二人だけが動ける状態で他の物やこの空間自体がリュウの静止魔法で時が止まっていたのだ。
『これは一体!?おい、お前達大丈夫か!?』
『動けるのはギムドと俺だけか?どうなっているんだ?』
『それは俺が発動させた時間の静止魔法だ。この周辺の時間が一時的に止まったんだ』
リュウは変化の指輪を外してガズルの姿から元の姿に戻って二人に話しかけた。
『誰だ!?こんな事、人間に出来る訳がないだろう』
『まあ当然の疑問だな。俺は人間というよりも神の使いの者だ。お前達強制連行された二千人を助ける為に来た。既に魔城に囚われていた族長の家族は救出済だ』
『神の使いとは流石に信じろという方が無理だろうが、今のこの状態を見れば納得するしかないだろう。それと族長の家族が救出されたというのも今朝の魔族の慌て様からして本当らしい。よくやってくれた。感謝する』
突然聞かされたリュウの言葉に混乱したが瞬時に理解をするところは流石リーダー格だ。
『表向きは北の大陸のマキワという国でタイラと言う貴族をやっている。これからお前達獣人二千名をここから避難させる。詳しい説明は時間がないので省くが、これから聞く事を仲間に伝えて欲しい。
まずここから脱出するにも首輪が邪魔をしているのは承知している。そこで首輪を俺の空間転移の魔法で別の空間に飛ばす。首輪が外れたら皆を獣人の里に転移させるので混乱がない様に統率して欲しい。獣人の里では族長達には伝えてあるので向こうでは混乱はないと思う』
『そんなこと出来る筈が・・・いや、この状況を見れば神の使いであるあなたなら出来るのだろう。わかった、こっちの方は任せてくれ』
『ああ、大丈夫だ。ギムドと俺で皆には混乱が無いように説明しておく』
ギムドとナタルはリュウの言葉を信じて行動すると約束した。
『それじゃ、宜しく頼んだぞ。静止時間がそろそろ切れるからまたガズルの姿にに戻る』
リュウがそう言い終わると時間が元に戻った。