116 獣人の里解放
ムーアに説得された魔族は仲間の魔族に呼びかけを行い全員が隠れ家である民家へと集められた。
魔族は門番に二人、街の警備に二人、族長の家に二人の合計で六人だった。
『伯爵様、ご無沙汰しております。大変お世話になっておきながらこんな形でお会いするなんて申し訳が立ちません』
門番の魔族は魔の森収容所でのリュウからの恩を知らなかったからと言って仇で返す形となったことに申し訳なさで一杯で謝ることしかできなかった。
『仕方がないさ。必要に迫られてたんだろ?今魔族は武闘派が支配していてそれに逆らうと酷い仕打ちをされるという事は聞いている。
だが、これはまだ始まりでしかないんだ。武闘派は邪神オーグの手先となって動いているに過ぎない。オーグの望みは世界の混沌。封印されている力を取り戻すために魔族を利用し、封印が解かれれば世界を破滅にもたらす存在なんだ。決して皆の事など考えていないんだあいつは。
今集まってもらったのは武闘派やオーグの動きを阻止するための計画を説明するのでそれに賛同して欲しいんだ』
リュウはこれから動こうとしている魔族の移転の構想について話をした。既に元収容所である自治区では受け入れ態勢を整えつつある事、住居や生活が保証される事などを説明すると半信半疑ながら興味を示した。
『伯爵様が言われる事は全て本当だ。収容所に居た者なら疑う余地もないと思う。実際に俺たちに住む場所から生活基盤に至るまで全て配慮をしてもらったんだ。いまも収容所に残る者の数が多いのもその場所が住みやすくなければ有り得ない事だろう。
それに武闘派達に襲われたとしても伯爵様が守って下さる。物凄くお強い方だから数万の軍勢で掛かっても一瞬で消し去ってしまわれる程のお力を持っているんだ。いつも怯えて暮らす生活にはもううんざりだと思わないか?一緒に伯爵様に協力させてもらおう』
門番の帰還兵が自分の体験も含めて仲間に語り掛けた。
『でもよう、バレスには家族がいるんだぞ?どうするんだ?』
『それについては問題ありません。伯爵様は家族全員について保護下さる考えです。状況によっては順次になりますが多くを収容出来る手筈になっていますので人数に制限はありませんよ』
魔族の一人がバレスに残っている家族を不安に思ったが、ムーアがその家族も一緒に連れていけることを説明した。
結局六人全員がリュウの構想に従う事となり里の占拠も放棄された。
このメンバーはすぐに行けるものはリュウが転送し、家族が居る者は家族の説明も含めて明日バレスへ飛ぶ事となった。
こうして魔族の移転計画もスタートした。
魔族が占拠を放棄したためラナ達三人は無事家に帰ることが出来た。
『お父さん!』
『あなた!』
『お前達、無事だったか!?よかった』
家族全員の無事の確認と再会が果たされた。そして解放された経緯についてラナから族長に説明がなされた。
『妻と娘たちを助けていただきありがとうございます。里のためにご尽力いただきなんとお礼を申して良いのやら』
『私は元々獣人族との交流を目的としてこの地に赴きましたのでそれについて配慮をいただければ十分です。それとまだ事態が解決した訳ではありません。この里の成人男性の多くが連れ去られたままです。彼らを奪還してこそ成功といえます』
『そうでしたな。我等に手伝える事があれば何なりとお申し付け下さい』
こうしてリュウは獣人族との強い繋がりを持つことが出来た。最後の仕上げとして大掛かりな仕掛けを用意している。
里のことは族長達に任せてリュウとムーアはバレスの隠れ家へと戻った。
『おかえりなさいませ、タイラ伯爵』
隠れ家ではクリフが待機していた。情報がいつ入ってくるか判らないので誰もいない状況を避けるためにクリフに留守番をさせていたのだ。
『問題なかったか?クリフ。外が妙に騒がしい様に思うが』
『騒動の中心人物のお言葉とは思えませんね。城の人質が居なくなったことで衛兵が街中を血眼になって探している様です。それ以外には特に変わったことはありませんでした』
『警備が厳しくなると動き難くなるな』
『伯爵様、ご心配には及びませんよ』
ムーアが意外な言葉を発した。
『なにか良い案があるのか?ムーア』
『はい。これから我々が向かう先は軍の養成施設です。武装しているところは警戒を厳重にしたりはしませんよ』
『まあ確かにムーアの言う通りだな。途中の道のりにさえ気を付けていれば問題ないな。灯台下暗しってやつだな。
それと二千人の移動についていい考えを思いついたぞ。夜間と言わず、昼間の演習中に作戦を実行するんだ。
何故目立つ昼間を狙うかって?演習事態を作戦に組み込めばいい。教官に扮して演習を実行するんだが、上手く固まる様に仕組んで集まったところを全員空間移動で飛ばすんだ』
『そんなスケールの大きい事が出来るのでしょうか?いえ、伯爵様ならお出来になるのですよね』
ムーアは今までのリュウの起こした予想外の展開の数々を思い浮かべて苦笑いをした。