112 バレス潜入
リュウは予定通り、バレス手前1キロメートルの地点に到着した。
ここに来るまではジャングルや岩地といった険しい所を抜けて来たが、魔界に入るに従って草木の量も次第に減っていき、ここバレス周辺は所々に木々が生えている程度で見渡しが良く通行し易くなっている。
逆に隠れる場所もないので注意が必要だった。
1キロメートル先の外壁の門が辛うじて見える程度だが、ゴーグルのズーム機能を使って様子見をしてみた。単一機能だけでなく用途に応じて使い方を変えれるのですごく便利な代物だ。
ゴーグルに映ったのは門の両端に立って警備をしている門番の姿だ。見たところ門番はオーガの様だった。
事前情報ではこの門番達は魔族の協力者であるとの事だったが確かめる必要がある。もし違っていたら今後の計画に大きく影響が出てしまうので慎重に行わないといけない。
リュウは門番に向けて光信号を点滅させた。特に合図としての取り決めをしている訳ではないがこちらの存在を知らしめる意味での発光だ。門番が協力者であれば何らかの合図があるだろう。もし違っていれば不審者とみなされ付近の捜索が行われるはずだ。
しばらくして門番はこちらに向かって手を振った。時間が開いたのは周りに誰もいない事を確認する時間の様だ。
リュウ達は門番のところへ駆け寄った。
『魔族に見えますが伯爵様でしょうか?私達は魔の森収容所に居た者です。又お会いする事が出来て嬉しく思います』
『協力感謝する。見た目だけがインキュバスだが中身は元のままだから安心してくれていい』
そう言うとリュウは指輪を外して元の姿を見せた。
『おお!本当に伯爵様でした!向うでは大変お世話になりました。我々に協力出来ることがあれば何でも言って下さい。
申し訳ございませんが、ここでゆっくり話をしていられません。我々の交代時間が10分後となっております。時間がありませんのでお早くお通り下さい。ここからは別の者がご案内させていただきます』
門番が扉を開門してリュウ達を通した。少し進んだ先に別の協力者と思われる者が待っていた。ゴブリンメイジと思われる容姿だ。
『伯爵様、こちらです』
協力者の案内で裏道の様なところを進み、街の奥へと入り込んだ。夜間で通りには誰も居ないとは言え、どこで聞かれているか判らないので協力者もリュウ達も無言で足早に進んで行った。
『着きました。こちらにお入り下さい』
周りを確認するとそこは民家が並ぶ居住区のようだった。協力者の後に付いて民家の一軒に入った。
『ご挨拶が遅れましたが私も魔の森収容所でお世話になった者です。ここはバレスの中心地に近い居住区です。この区画の多くが収容所でお世話になった者が住んでおりますので何かあれば近くの者にお声がけ下さい』
『いろいろと世話になって済まないが宜しく頼む』
『何を仰います。皆、伯爵様に恩返し出来ると喜んでいますよ』
協力者のゴブリンはリュウに礼を告げると暗闇の中へと消えていった。
リュウが行った魔族の捕虜を収容所という名の居住区として提供し保護した事がこんな形で自分に返ってくるとは面白いもんだなとリュウは思った。だが、リュウの現在の行動は再び魔族にとっても良い結果をもたらす事となり更に感謝されるのは後日の事だった。
普段は空家なのだろうか、この部屋はその割には汚れておらず掃除が行き届いている。恐らく協力者が快適に使える様にと配慮してくれたのだろう。寝具や調理道具、食料もある程度置かれていて普通に生活出来るレベルなのは有り難かった。
少し休憩をとった後、皆に集まってもらった。
『本来ならすぐにでもラナの家族を救出したいところだが、何分情報が不足している。準備不足で救出に失敗すると本末転倒だ。先ずはここを拠点として情報収集をするとしよう。上手くいけば救出作戦実行はそれ程先にならないだろう』
『ここは私の古巣でもありますので情報収集はお任せ下さい。すぐに必要な情報が入ると思います』
『ああ、宜しく頼む。ムーアが居てくれてよかった』
リュウの言葉にムーアは嬉しそうに頬を赤らめていた。
用意してもらった民家は一階建ての4DKの間取りの家だ。一部屋あたり10畳程度あるので結構広い家だった。部屋割はリュウとクリフの部屋、ムーアとラナの部屋、居間、リビングに分けた。
ここはあくまで隠れ家としての活動拠点なので生活においての利便性は求めなくてもいいのだが、広い部屋で寛げるスペースがあるのならそれに越したことはない。
居間の壁にはバレスの街と城の内部の地図が貼られており、集まった情報を少しずつ書き加えている。
城だと警備の位置、交代時間、隠れる場所、各部屋の詳細などで潜入に関して重要な情報となる。
リュウはしばらくしてこの目でバレスの様子を確かめたくなり外へ出ることにした。
インキュバスの姿のままなので特に怪しまれることはないだろう。
夜も更けてきたのでこの辺りで人が集まるところとなると酒場あたりが妥当なところだろう。居間に貼ってあった地図で酒場の位置をインプットしておいたので迷うことなく酒場へと辿り着いた。
隠れ家から酒場までの距離はブロックで言うと8つ程離れており、
歩いて15分程の距離だ。
通りからでもすぐに判る酒場の看板が目印で窓のあかりがまだ客が居る事を現している。
酒場はレンガ造りになっており昔やったゲームのイメージそのままの造りだった。
リュウは扉を開けて酒場へと入った。