107 チートアイテム
翌朝、日差しの光で目が覚めた。
リュウが瞼を開けると天井が見える筈の景色に映ったのは天井ではなくて美人な女性の顔だった。起きたての頭を回転させて顔の主を直視した。ムーアだった。
『おはようございます、伯爵様。お目覚めですか?』
『ああ、おはよう。ところで何故ここにムーアがいるんだ?』
『ふふふ、気持ちのいい朝なので伯爵様を起こしに来たのですよ。私の気配で起きちゃいましたね』
リュウは気配には敏感で少々の眠りならすぐに気付く筈なのだが、今朝は何故かムーアが目の前に居た筈なのに察知することが出来なかった。彼女には隠密性のスキルがあるのだろうか?単に自分が疲れていて気付かなかっただけなのだろうか?
『いつもならすぐ人の気配に気付くのだが、余程疲れていたのか熟睡していたようだ』
『そうみたいですね。気持ち良さそうに寝ている寝顔を見てたら悪戯したくなっちゃいましたよ』
『おいおい、顔に落書きとか勘弁してくれよ』
『そんなことしませんよ。もっと私にとってメリットのあることです。でも何かは教えてあげません。
伯爵様。朝食の準備が出来てますので着替えたらお越し下さいね』
ムーアは上機嫌に笑いながらリビングへと戻って行った。
リュウはいつもの服に着替えた。いつもの服というのはリュウは外交が多く貴族と言う立場を使う事があるため相応に相手に認めてもらう必要がある。この世界の上級貴族の服装を軍服風にアレンジしたものを自分専用に仕立ててある。だが、どちらかというと軍服を貴族風にアレンジしたと言った方が適切かもしれない。
そして出来上がったのを見てどこかのロボットアニメにでも出てきそうな服だと思った。『量産型とは性能が違うのだよ』というセリフが聞こえてきそうだ。
ちなみにリュウは服を洗濯したりクリーニングはしない。一日着終えたら万物創生で新品の状態に復元しているので施す必要がないからだ。そんなことに神の力を使うなと仙人達の苦言が殺到しそうだが協力しているのだからこれくらいのご褒美はあってもいいだろうというのが持論だった。
着替え終わってリビングへ向かうとテーブルには朝食としては豪華な料理と品数が並んでいた。そしてまたもリュウの好物と呼べる物ばかりが並んでいたのだ。
『もはや何も言うまい。いやはや感服したよ』
『伯爵様に食べていただきたくて一生懸命作りました。どうぞお召し上がり下さい』
味も絶品だった。最初並んでいる料理を見て朝からこんなに食べられないだろうと思われたが、実際に食事をし出すと美味しいのであっという間に完食してしまった。
食事の後に装置製作を再開した。完成度としては7割程度で最後の詰めの段階に来ている。
最初は装置をハンドガンタイプで対象に向けたらランプが点灯するというものを考えていたが、常に持ち運ぶのと使い勝手を考慮すると改良の余地があったため根本から見直してゴーグルタイプに変更することにした。ゴーグルを装着していれば戦場で敵味方の区別になるのと手がフリーになることのメリットは大きい。
ゴーグル内に映った生物は自動的にロックオンされターゲットマークがつく。ターゲットマークは種族別に色が変わる様になっているので敵味方の判断がつきやすい。
更に改良を重ねて、最新版ではターゲットマークの下に戦闘能力数値が表示される様になった。
戦闘能力というは武術であったり魔術であったり手段は異なるのだが、どれか一つ一番能力の高いもので判断される。魔力や胆力の保有値も係数として加算される仕組みだ。
この戦闘力はCP(combat power)の略で表す。通常の成人男性のCPは100程度で女性で60となる。
ゴーグルで見たらゴブリン300、オーク400、オーガ500といったところだった。ゴブリンを人間が安全に倒すには3人以上必要ということになる。
これでこっそりムーアを見てみた。数値は55,000だった。非戦闘員とのことだった彼女だがこの数値はデビルロードに匹敵するものだ。
ひょっとしたら何か能力を隠しているのかも知れない。
ちなみにリュウをこのゴーグルで見た場合数値は------となる。
装置の最大値が999,999なのでそれ以上で計測不能ということだ。
このゴーグルの戦略として持つ意味は大きい。相手の強さが判るので適切な対処が出来るからだ。戦闘して相手の戦力を測るのでは相手が強かった時の対処が遅れ犠牲も大きくなる。
これがあると初期段階で人員を適切に配置できるのでリスクが大幅に減るのだ。
調子に乗ったリュウはこのゴーグルに夜間暗視機能と10倍のズーム機能も追加した。もはや反則級のチートアイテムと言っても過言ではない。
一応サンプルとして1台完成したのでコピーを作ってドワーフの職人達に見せた。
ドワーフもゴーグルに興味深々で食い入る様に見ていた。リュウは単にゴーグルをドワーフに見せたかったのではない。このゴーグルを量産品として配備させたかったのだ。
リュウの万物創生でのコピーでなく実際に作らせてこそ意味があるのだ。ガラス部分に関してはドワーフにない技術だったのでリュウがローグからもってきたガラスを加工して利用する。トンネルが開通すればドワーフ達にもガラス技術が伝わるのは時間の問題だろう。
こういった技術交流はどんどんやって欲しかった。
ドワーフにゴーグルのサンプル品を2台ほど渡してリュウはドワーフの村長のところに出向いた。一応これから獣人族の救援に行く旨を伝えておいた。特にドワーフの支援を求める訳ではなかったが、今後どの様に事態は展開するかわからなかったので情報を出来るだけ共有しておきたかったからだ。
自分の部屋に戻ると完成品をとりあえず20台程用意し明日に備えた。