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武龍伝  作者: とみぃG
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106 ムーア

識別装置の製作はムーアの手伝いもあり順調に進んでいった。順調なので余計に時間を忘れて没頭してしまう。もう既に日が暮れそうな時間となっていた。


『伯爵様。申し訳ございませんが、少し休憩をとらせていただいても宜しいでしょうか?』


『ああ、済まない。気が付かなかった。好きな時に自由に休憩してもらっていいぞ』


ムーアも卒なくこなすとは言え、慣れない作業で疲れたんだろう。

休憩するために部屋をで出ていった。


その後もリュウは作業を続けていたのだが、どれくらい時間が経っただろうか、自分を呼ぶ声が聞こえた。


『伯爵様。根を詰め過ぎては身体に毒ですよ。お腹が空きませんか?お食事にしましょう。リビングへお越し下さい』


ムーアに声を掛けられて確かに空腹だった事に気付いた。そういえば昼も食べていなかった。ムーアが呼ぶのでリビングに移動するとそこには豪華な料理が並んでいた。


『これは一体どうしたんだ?』


『はい、伯爵様に栄養をつけてもらいたかったので作らせてもらいました。お口に合うか自信がありませんが一生懸命作りました』


並んでいる料理は見た目も完璧だが、料理がリュウの好みの品ばかりだった。


『ここに並んでいるのは俺の好物ばかりというのは偶然じゃないだろう?』


『伯爵様にお仕えするに於いて伯爵様の好みを知っておくのは必然ですよ』


ムーアがにっこり笑いながらそう言うとそれ以上何も言えなかった。


『それよりもお食事が冷めてしまいますのでどうぞ召し上がって下さい』


お腹が減っていたリュウは目の前の料理を見て余計に食欲が出てきた。テーブルに着いてムーアの手料理を堪能した。


味も好みの味付けになっている。すごく美味しいと思った。このままグルメ食堂に並べてもいいくらいの出来だ。本当にムーアは何をやらせても完璧だった。


『家以外でこんなに美味しい料理を食べるのは初めてかも知れないな。ムーアはいつも料理しているのか?』


『料理はたまにしますよ。料理も男性を悦ばせる技能の一つですから。これが出来るとポイントが高いのです』


リュウは会話をしながらアッという間に料理を平らげた。


『ご馳走様。美味しかったよ』


『お粗末でした。伯爵様に美味しいと言っていただけて苦労して作った甲斐がありました』


ムーアは喜びのあまり涙ぐんでいた。


本当に喜んでの涙なのか気を引く涙の演技なのかリュウには判らなかったが作業の後で疲れているのにこれ程の料理を作ってくれる事に感謝していた。


『ふふふ、何だかこういうのって新婚生活みたいですね。と言いましても私は結婚したことはありませんが』


『それは意外だったな。女性に歳をダイレクトに聞くのは失礼だけど、エルフとかと同様に魔族も人間よりも長生きなんだろう?その長い年月で伴侶はいなかったというのは意外だな』


『どう説明すればいいのでしょうか。私の種族は特定の男性と一緒を添い遂げるという事は出来ないのです。不埒と思われるかも知れませんが、一夜の戯れのみで目的が果たせればそれまでという関係で縛られる事を嫌います。人間から見たらとんでもないと思われるかも知れませんが、そういう生活スタイルを平常としている種族もあるのです』


『いや、俺は不埒等とは思ってないぞ。種族である以上宿命だからな。吸血鬼が生き血を吸わなければいけない様にサキュバスも生きる為に必要なんだろう』


『伯爵様にご理解いただけて嬉しゅうございます。あ、ちなみに私の年齢は聞くと減滅してしまうので内緒ということでお願いします』


見た目は二十代前半に見えるムーアだが、魔族での地位はどちらかというと高い方だったので相応の年月を生きているのだろう。

ひょっとしたら500年を生きるナターシャよりも年上なのかも知れない。やはり知らぬが仏だなとリュウは思った。


食事の後、ムーアにコーヒーを入れてもらい少し彼女と話を交わした。リュウは今まで魔族を悪、その他を善と決めつけていたが、詳しく知ってみると結局何も違う所がないということだった。

人間にも悪党はいるし魔族にも善人はいるのだ。収容所の者達やムーア達と話をしてそれを強く感じた。


この先、魔界に入って人質を救出することとなるだろうが、極力魔族側の犠牲者を出すことなく任務を遂行できればと思った。

騒ぎが大きくなれば種族間戦争と成りかねないしそれが最悪のシナリオで邪神オーグの狙うところなのだ。奴の思い通りにしてはいけないのだ。


小一時間休憩をした後リュウは作業に戻った。ムーアは食事の片づけが終わった後でリュウの作業を手伝いに来たのだが、今日はもういいから休む様に言った。


部屋は複数あるのでリュウとムーアは別々の部屋で休むことにしたのだがムーアは少し寂しそうな顔をしていた。


リュウはまた厄介事が増えそうな予感がしたので気にする事なく作業に集中した。


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