104 魔族の協力者
2日後の合流に向けてリュウは識別装置の開発を急いだ。幸いドワーフの里の工房で機材や材料は全て揃うので後は構想を具現化するだけだ。
本来、この様な計測機器などは専門知識や長年の研究に基づいて開発していくものだが、ここは異世界でありリュウは神の力が使えるので万物創生を利用してデバイスを構築していけばある程度の者は出来る。但し、理論として成立している必要があるので何でも作れるという訳ではない。
装置の製作と同時にデーターをインプットする必要がある。獣人のデータは現地で入れるとして、人間と魔族のデータは先に入れておかなくてはいけない。人間は問題ないとして魔族のデータをどうするかだが、リュウには心当たりがあった。
ちゃんと魔族の協力者がいたのだ。
以前の魔族襲撃の敗残兵が捕虜となり、魔の森の収容所へ収容されているのだが、彼らに言えば快く協力してくれるだろう。
装置の製作は7割出来た時点でリュウは魔の森の収容所へと空間転移した。
ここへ来るのは久しぶりだが、リュウは現場の状況を見て驚いた。
住みやすい様にリュウが施設を設置したりしたのだが、自給自足するための畑や工房、商店など町と言えるような発展ぶりをしていた。
魔族達はリュウの姿に気付くと飛んで集まってきた。
リュウは彼らにとって恩人なので未だに感謝されていたりする。
魔族の捕虜については一定期間の収容後にドワーフの里を経由して釈放し魔界へ送還したのだが、
ここの生活か気に入って4割程の者が残って生活していた。
魔界に戻った6割の者も出来れば他種族との争いには加担したくないという意思が強かった。
戻ってからの立ち位置が難しいだろうが、しばらくは目立たない様に暮らし、魔族の好戦的な状況が変わることを待つこととなる。
又、もし今後和平への道が開かれた際には積極的に協力するとの約束も交わした。
『伯爵様。私達に永住を認めていただき、ありがとうございます。
私はここの代表のロデムと申します。
元々住んでいた所よりもこちらの方が快適で戻りたくないと言う者が多かったので皆喜んでおります』
ここの魔族達の代表者ロデムが感謝の言葉を述べた。
この男、どこかで会った事があるとリュウは過去の記憶を思い起こしたが、魔族襲撃の際にデビルに扮したリュウをガズルのところに案内してくれたオーガロードだった。
『魔界への報告では段階的な保釈をしているという風に伝える様、帰還者へは伝えてあるのでここに残ったとしても問題ないだろう』
『ご配慮いただき、ありがとうございます。それで大変勝手な事と承知してのお願いなのですが・・・
この中にはここでの永住を希望するものも多くいますが、帰還した者と同様に向うに家族が居る者もいて、その事で悩んでおります。
伯爵様のお力で何とかすることは出来ませんでしょうか?』
『そうだな。それについては俺も考えがある。今回帰還した者の中に協力者を何名か募って彼らにはここに残留している者の家族や戦いの意思がなく平和に暮らしたい者に働きかけを行い、この地へ将来的に迎え入れようというものだ』
『なんと!その様なご配慮を既に成さって下さっているとは。感謝の言葉もございません。それではまたここも活気に溢れるのですね。いやはやその日が来るのが楽しみです』
『恐らく数万人単位での受け入れとなるだろう。それまでにここの受け入れ態勢を作っておかなくてはいけない。これから忙しくなるぞ。
建築や工房に関してはドワーフから応援に来てもらう様に要請をしてあるので後日そちらと調整して進めていって欲しい。
建築資材や必要なものがあれば申し入れて欲しい。対処しよう』
『伯爵様。以前から疑問に思っていながら失礼と思い聞けずにいたのですが、どうして我らの様な者にこれ程までのことをして頂けるのでしょうか?我らは人に害する者として少なからず危害を加えてきたというのに・・・』
『俺はこの世界に来て日が浅いからよく判らないのだが、元々この世界では各種族平和的に共存していたと聞く。だから魔族と言えど戦いを好む者は少数派で多くの魔族は平和に暮らしていたいと考えているのではないかと思ったんだ。
今は邪悪な存在が力を持っているので従わざるを得ないかも知れないが俺が討伐した後の魔界を託せる者達を育てたいんだ。
ここにいる皆ならきっと良い世界が作れると思ってる』
『おお!有り難きお言葉。伯爵様の仰る通りです。我ら魔族とて戦いに好んで出ている者は極限られておりました。多くの者が望まない戦いに出向いて命を落とした訳です』
『まあ、戦争だとは言え、俺もそういう戦いを望まない者の命を四万以上絶ってしまったわけだ。少しでも罪滅ぼしになればと言う思いも無きにしも在らずだ』
『なんと・・・これが神のお慈悲というやつでしょうか。我ら魔族には判りませんがなんとなく雰囲気として伝わった気がします』
『まあ、そう理想的にはいかないのが世の常だな。実は今、獣人族の里が魔族に攻撃されているんだ。正しくは獣人の族長の身内が魔族に囚われていて、それを口実に獣人を従属させようとしているという感じだ』
『それは恐らく武闘派の仕業でしょう。ガズルを筆頭とした武闘派が好んで使う手ですから』
『はやりガズルが絡んでいるのか。それで俺たちは獣人の里に潜伏して状況を確認した後、魔界に囚われている人質を救出する作戦を遂行しようとしている。
獣人の里では魔族は獣人に扮しているため迂闊な行動が取れないので偽装を見破る装置を開発中で、それぞれの種族の特徴を比較して判断出来る様にするつもりだが、こちらの者に協力をして欲しい』
『状況については理解いたしました。是非協力させていただきます。伯爵様のためなら皆喜んで協力しますよ。
それで、獣人の里の潜伏や魔界での奪還については現地に詳しい協力者が必要でしょう。うってつけの者がおります。是非同行させてやって下さい。その者も伯爵様のお役に立ちたいと常日頃申しております』
ロデムはリュウに暫し待って欲しいと言い協力者を呼びに行った。