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武龍伝  作者: とみぃG
102/222

101 束の間の休息

クリフを見送ったリュウは今後の行動についてどうするのか考えた。考えたというよりも瞑想を行い情報を頭の中で整理したというのが近い。このところ動向が目まぐるしく変わっていくので大事な物事を見落としてないか、他に良い方法がなかったのか等を考える時間を持つことにしている。

瞑想をする時は茶室の様な和風の部屋で座禅の様に胡坐を組んで座っている。庭が石庭の様になっており、鹿威しの音色が心を和ます。


この部屋で瞑想する際は着替えをして作務衣や浴衣を着る事が多い。

常夏の国なのであまり厚手の着物だと暑くて不快になるので和服も軽装を選んでいる。


『あなた、よろしいでしょうか?』


クリスが障子の向うから声を掛けてきた。


『ああ、クリスか。うん、大丈夫だ』


クリスが障子を開けて入ってきた。この国で生まれ育ったクリスだが、リュウに影響されて作法も少しは身に付けている。

障子を開ける時は正座をしてゆっくりと手を添えて開いた。

リュウは時々こういったクリスの動作に感心することがある。特にこうしろと言った事はないのにいつの間にか作法を身につけているのだ。ひょっとしたらアカネとか日本人の血を持つものに聞いているのかも知れない。だとしたらすごい努力家だ。


『今回も大変だったみたいですね。お疲れさまでした』


『うん、今回は分身体だけで対応できなかったので少し焦ったよ。しかも相手が神楽元だからね。奴は悪事に関する頭の回転が速いんだ。昔から奴には煮え湯を呑まされてきたからね』


『そうだったのですね。私がこの身体でなければ真っ先に馳せ参じましたのに』


『いやあ、俺としては家に居てくれてよかったよ。万一クリスに何かあったら正気で居る自信がないから』


『それは私も同じです。あなたはいつも戦いの最前線にいます。あなたが神の力を持ちお強いのはわかっていますが、万一というのは絶対ではないという事なので心配しているのです。お腹の子のためにも無事でいて欲しいと願っています』


『うん、俺は俺自身だけなくこの国の全ての人が平和に暮らせるのが一番だと思っている。その為に何が出来るかを常に考えて行動しているんだ。たぶんこれは俺にしか出来ない事。だから神にその力を与えられて託されたんだと思う。

それと、俺一人で戦っている訳じゃないからね。皆の力があってこそだよ。人間だけでなく仙人達も力を貸してくれているから。

絶対ではないけど、安心してくれていいよ。約束する』


クリスは最近悪阻が酷い日もあって余計に何も出来ない自分に思い詰めている感じがあったのでリュウは安心させるためにクリスが落ち着くまで会話を続けた。


世界中を飛び回るビジネスマンの如くリュウの移動距離と滞在日数は反比例しており、自宅に居る時間もいつも僅かなものだったので今日はずっとクリスといる事にした。


『そういえば俺は時々思うんだが』


『なんでしょうか?』


『いや、くだらない事なんだが、クリスとクリフとクラリス。かなり似た名前が多いなと。混同してしまいそうで』


リュウは笑いながら話した。


『あは、そうですね。私も感じています。でも、私の名前はクリスティーヌなのでそう呼んでいただいてもいいのですよ?』


『いやあ、それは今更だろう。そんな呼び方したら夫婦喧嘩の最中かと思われてしまうよ』


『それもそうですね』


クリスも珍しく大きく笑った。


””マスター、私の名前も改名した方がよろしいでしょうか?型式名や開発コードもございますが””


今度はクラリスが気を遣った。というか、コンピュータも気を遣うのかと一瞬思った。


『いや、クラリスも今まで通りでいいよ。逆に自分でこういう名前がいいとかあれば言ってもいいぞ?』


””いえ、マスターが考えて付けていただいた名前です。不満などありません。むしろ光栄に思っています””


『クラリスから光栄という言葉を聞くとは思っていなかった。だんだん人間っぽくなってきたんじゃないか?』


『私の思考回路はAIの人口知能をより人間の思考に近い形にマスターに改良していただいておりますのでそのお蔭だと思います』


『ふふふ、面白いですね。私もクラリスと名前が似ているので親近感があるのですよ』


『そうか、それじゃあ二人はそのままでクリフの名前を変えよう』


リュウの無茶ぶりに帰途についたクリフはどこかでクシャミをしているかも知れない。


『あ、忘れてました。お聞きしたかったのが、明日からの行動予定なのですが』


『ああ、明日はクリフを南大陸に連れていく予定にしているよ。早朝出発なので見送りはいらないから。数日はドワーフ達との打ち合わせがあるので戻れないと思う』


『わかりました。少しの時間だけでもいいので家にも帰ってきて下さいね。私を安心させて下さい』


『そうだな。こうしてクリスと一緒に居るだけで俺も癒されるからな。でも家に帰ると煩いのが数名いるからな。特に黒猫とか』


『そういえば鈴鳴さん、怒っていましたよ。あなたが全然顔を見せようとしないって。わざと避けてるんじゃないかと』


確かに、鈴鳴とは急いでいる時に会うと時間を取られてしまうので顔を合わせない様にしていたのだった。


『そんなことはないさ。ほら、時間がない時が多いから、ゆっくり時間のある時でないとね。今日も居れば話をするんだが、ほら、いないから』


リュウは苦し紛れの言い訳に近いフォローをしていた。それを聞いたクリスも少し苦笑いになっていた。


『そうか、今日は時間があるんじゃの?よかったわい、じっくり語ろうではないか』


いつの間にか背後に鈴鳴が立っていた。しかも目つきが悪だくみをしている時の目になっていた。


久しぶりに家で寛ぐ筈が鈴鳴に拘束されて散々な目に遭うリュウだった。

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