99 後処理
神楽元の逃亡により難は去った。
丘陵の基地ではアカデミーの生徒と講師、援軍に駆け付けた軍の兵士が戦いの後処理を行っていた。
バイオスライム100体、メカゴブリン600体と戦ったのだ。スライムは汚染物質として処理する必要があり、メカゴブリンは鉄も含まれているのでそのまま焼却は出来なかったのでとりあえず一ヵ所に固める作業を行った。
バイオスライムの汚染浄化はエレノアがキュアレインで一帯に浄化の雨を降らせて対応した。
メカゴブリンは鉄の部分が外せるなら取り出し、後程溶解処理で鉄として再利用するが、他の部分は山ほど積まれていたものをリュウが空間転移で廃棄処分とした。
生徒の一大事ということでしばらくしてナターシャも駆け付けた。
高速ホバーで来たらしく思ったよりも早く到着した。
『みんな無事!?うちの生徒が襲われるなんて思ってもみなかったわ』
『ああ、何とか無事と言えるだろう。負傷者はいたが今は完治している。後遺症もないのだが、問題は精神的なダメージだな。こればかりは俺には施し様がない』
『そうなの。はやりあなたについていて貰って正解だったわ。一人でも犠牲者が出ていれば国際問題になるところだったわよ』
ナターシャは今後の事が心配だった。アカデミーとしてこれから始まるという時にこの様な大事件が起こったのだ。各国への説明や対応について考えると頭が痛かった。
そんなナターシャとは逆にリュウはあまり心配はしていなかった。
何故なら、軍の兵と一緒に片づけをしている生徒達を見る限り、そんなに悲観的になっている者がいなかったからだ。
むしろ精鋭の戦いを見て憧れを抱いているらしく、積極的に兵士と会話をしているみたいだ。
今回はハンター育成科の体験授業だったのだが、正式な開校時には体験生徒の半分が戦術科への志願を出していたのは後日わかることだった。
『ソフィア。今回は苦労をかけたな』
『リュウさん・・・いえ、気にしないで下さい。リュウさんもいつも傍に居てくれたじゃないですか。いつも一緒で結構嬉しかったんですよ』
『まあ、最後には消えちゃったけどな。本当なら体験授業が終了するまで持たせたかったんだけどな。生徒には可哀想なことをしてしまった』
『ひょっとしてリュウさん、実は自分だったって名乗り出ないのですか?』
『その方がいいだろう。そういう仲間が居たという思い出として残っていればそれでいいさ。それにあの子達の事は今後も見守っていく事には変わらないから』
ソフィアとトーマスについて話をしていると突然後ろから声を掛けられた。
『あのう、伯爵。ちょっとよろしいでしょうか?』
声の主はローラだった。
『ああ、ローラさん。お疲れさまでした。どうかされましたか?』
『先程の戦闘の事です。援軍で来てくれた兵士は精鋭だと聞きましたが、私の所属していた軍の兵士レベルとは次元が違いました。どうすればあの様になれるのか。タイラ伯爵に私も手ほどきを頂きたくてお願いに参りました』
突然のローラの申し入れにリュウは困惑した。本人の希望かも知れないがリュウとしては個別に面倒を見ている余裕などないのだ。今この場に居るのも南の大陸のドワーフとの打合せを中断して来ているくらいの分単位のスケジュールだった。
『よくわからないのですが、ローラさんは今ギルドの職員ですよね?何故に強くなりたいのですか?』
『それは・・・』
リュウの隣にはソフィアが居たのだが、普段彼女はリュウに言い寄る女性に対して嫉妬をしたりしなかったのだが、自分とリュウとの会話に割って入られた事が非常に不愉快で少なからず顔に不機嫌さが表れていた。
そしてローラの言葉を耳にしたもう一人の女性がいた。
ギルドの会頭、ナターシャだった。
『あなた、それってギルドを辞めるってことよね?それじゃ、辞表を提出してくれるかしら』
『ええ!?そんな・・・』
『言っておくけど、あなたの見た精鋭の兵士達、どれだけの苦労を重ねてあのレベルに到達したか。武人のあなたなら判らないわけないでしょ?それは今の生活を全て投げ出してやらないと出来ないって事なの』
頭では理解していたローラだが武術よりもリュウとの繋がりが欲しかったというのが強かったのだ。
当然、女性であるナターシャもその事に気付いているので強い口調で咎めているのだ。
同様に女性として下心を感じたソフィアも不機嫌さが表れていたのだ。
『ローラさんがいなくなるとギルドの人達もハンターの多くも困りますよ。もう持つ物が剣からペンに代わってるんですよ。どうか今のまま続けてもらえませんか?私もローラさんが居なくなったギルドは寂しいと思いますし』
リュウはお世辞ではないがローラが思い留まる様に説得した。
勇気を振り絞ってリュウにお願いしたローラだったが玉砕した今となっては後悔以外何も残らなかった。