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隠された真実⑥

「う、う~ん・・・うん?俺・・どうしたんだ?」


 唯はゆっくりと目を開けるとそこには眩しいとさえ感じる室内灯と白い天井が広がっていた。

 目が慣れた頃、見ていたのが見慣れた天井であり、ここが学園内の研究機関室内であるとすぐにわかった。


「お?目が覚めたかい?」


そう言って近付く人物こそ、唯の召装分析(モルゲンレート)の担当者であり、この研究機関に所属している高梁(たかはし)主任だった。


「調子はどうだい、笠神くん?」


 いつも通りのにっこり笑顔になんだか気が抜ける思いだったが、そこはぐっと抑えて質問に答えた。


「特に問題はなさそうだよ、先生。まぁ、そもそも俺は怪我なんてしてなかったし・・・華耶・・華耶は?華耶は大丈夫なのかよ!!アイツ俺のせいで──」


「大丈夫、彼女なら心配は要らないよ。」


「なんだよ、心配要らないって・・・だってアイツ、頭から血を──」


「あれならかすり傷程度だったよ。頭は少しの傷でかなり出血してしまうからね。う~ん、強いて言うなら目に入った血液の洗浄位かな・・・つまりその程度だったから安心して大丈夫だよ。」


 そう言うとデスクに置かれたマグカップを(すす)り出したのだった。

 一息ついた高梁はおもむろに資料を取り出し、それを一読し始めた。

 唯からは少し離れていた為、内容がどの様なものなのかはわからなかったが、そんな唯の表情を見透かしたかの様に高梁が口を開いたのだった。


「これかい?これは異獣(ヴァインフルグ)のデータと君についての報告書だよ。気になるかい?」


「──ッ!異獣のデータってなんだよ!アイツはいったいなんだったんだよ!」


「あれ?気になるのはそっちかい?まぁ、この際だしね・・・笠神くん、君は異獣についてどこまで知っているのかな?」


 先程とは少し雰囲気が変わり、少し声のトーンも落ちた様だったが唯は気にせずに質問に答えることにした。


「ど、どこまでって・・・授業では滅んだって聞いてた異獣が目の前に現れて、その異獣は俺達人間を食料にする化け物で、召装具(シクザール)(まと)ってなきゃ相手にもならないってことくらいしか知らない。」


「なるほど・・・一応、基本的な情報は大丈夫みたいだね。う~ん、そもそも異獣についての情報操作は国際レベルで行われていることでね、今更どうのこうのという話ではないのだけれども・・・そうだね、異獣は人間を捕食する。これはわかっているね?」


「あぁ、わかってる──見てたから・・俺・・何にも出来なかった・・・永井も、金森も・・・あの野郎に──」


 うつ向きながら両拳を力一杯に握る唯に対して、高梁は少し困惑しながらも落ち着く様に促した。


「そうだったね・・・確かに彼等二人の犠牲は辛い・・・金森くんの召装分析は私が担当していたしね・・・心苦しいが話を戻すよ。そもそも何故、異獣は人間を食料にするわかるかい?」


 唯は首を横に振るとそれを見た高梁は少し嬉しそうに首を縦に二回振った。


「そうだよね、そうだよね。あ、ゴホン──異獣は人間を捕食することで大きく二つの効果が得られる。一つ目は一般人を捕食した場合、これは蓄積された傷や損傷部位が完全とは言わないが回復してしまうこと。二つ目は覚醒者(ペネトレイター)を捕食した場合・・・こちらは厄介でね。異獣の能力が一気に跳ね上がってしまうんだ。これを『進化(アノルシィ)』と称しているのだが、今回の異獣は金森くん、つまり覚醒者を捕食したことでこの進化を果たしたのだろうね・・・それに通常の進化は一つの能力が上がるのだけれども、稀に複数の能力向上が起きるんだが、今回の異獣は正に後者だったようだね・・・」


「せ、先生・・・」


 唯の呼び掛けに高梁は話を止め首を傾げながら問いかける。


「ん?どうかしたのかい?」


「すんません、途中からさっぱりわからなかったんですけど・・・」


 頬を人差し指で軽く掻き、ばつが悪そうにしていた。「あははは・・なら話題を変えよう──ほんの少しだけだが歴史を知ってみるのもいいんじゃないかな?──そうだね、終末戦(アルマゲドン)で異獣は殲滅されたことになっているのは知っているよね?」


 唯は何かを含まれた言い回しに違和感感じながらも首を縦に振ると高梁は話を続けた。


「でも実のところ、人類は異獣を殲滅まで追い込んだ──というのが真実なんだよ。では、終末戦で英雄になった5人編成部隊リヴォルト・・・こちらに関しても実のところ当時の資料は非常に少なくてね。覚醒者(ペネトレイター)と異獣の全面戦争があったのは記されているんだが、彼女達の活躍はどこにも記されていない──寧ろ、そこまでの全面戦争があったのなら何かしらの文献があってもおかしくはないのだけれども・・・あるいは───」


 そこまで言うと高梁は愛用の椅子に腰掛けた。


「とはいえ、もう200年近くも昔の事だし、当時を知る人なんていない。諸説はあるのだけれども、今言えることは・・異獣は現在も生存し、人類にとっての敵であるってこと──と私が知っていることは少ないが今の君には十分な知識だったかな?」


 これでこの話題は終わりとばかりに高梁が立ち上がると再び資料に目を通しだした。


「では笠神くん、もう一ついいかい?え~と、君の召装具についてなんだけど!」


 目をキラキラと輝かせている高梁とは対照的に唯は落ち着いていた。いや、落ち着いていたというよりシラケていた。


「おいおい先生、何言ってんだよ?俺、覚醒すらしてねぇのに召装具なんて扱える訳ないじゃん。そもそも召装分析受ける予定だったの覚えてないの?」


「・・・え?もしかして、自覚がないのかい?」


「・・・なにがだよ?」


 再び資料に目を通す高梁は首を傾げながら問いかける。


「いやいや、今回の異獣を倒したの君だよね?報告書にはそう記載されてるんだけれども・・・」


「はぁ?そんな訳──」


──コンコンッ──


 扉をノックする音に続いて扉が開く無機質な音が─学園内の扉は全て自動スライド式である為、無機質な音が鳴る─室内に響いた。

 二人とも開かれた扉に視線を送るとそこには刀條ともう一人、刀條よりも少しだけ小柄な女子生徒が立っていた。


「高梁主任、笠神くんに関しては私から説明します。御母衣(みほろ)さん、高梁主任に例の資料を渡してください。」


「畏まりました、副会長。」


 御母衣と呼ばれた女子生徒は刀條に軽く一礼すると左腕に挟まれている資料─右手を資料に軽く添えていた─を高梁へ近付くと、それを丁寧に手渡していた。その様子はまるで秘書を彷彿させる様なとても凛とした動作であった。


「笠神くん、お体の具合はいかがですか?」


「お、おう!大丈夫だ。ちょっと筋肉痛があるくらいでこの通りピンピンしてるぜ!・・・それよりお前、本当に華耶か?なんかやっぱり雰囲気が違うっつうか、なんつうか──」


 刀條は口元に軽く手を添えながらクスッと笑った。


「もしかして、笠神くんはおどおどしてる私の方がお好みなんですか?」


「な、なに──」


「なにを仰っているのですか、華耶姉様(かやねえさま)!?」


 御母衣が風を切るかの如く勢いで刀條に近付くと唯にまるでゴミを見るかの様な視線を送り付けたのだ。

 先程の凛とした姿は脳内から一瞬で何処かに消し飛んでしまう程のインパクトに唯は唖然としていると刀條が呆れたように溜息をついた。


 そして御母衣の頭を軽く叩いたのだ。その際変な鳴き声が一瞬した様な気がするが、唯は聞き流す事にした。


「軽い冗談よ、下がってもらえるかしら。」


「か、畏まりました・・・。」


 頭を両手で押さえながら涙目になると一歩後ろに下がった。


「ごめんね、笠神くん。彼女いつもあぁなの・・・まぁ、いいわ。では本題に戻りましょう。」


 なぜか満面の笑みを浮かべながら話をしてくる刀條に対して一抹の不安を隠せない唯だった。

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