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隠された真実⑤

 刀條と異獣(ヴァインフルグ)の攻防は激しさを増した──と言うより刀條の防戦一方に戦況が変化しつつあったのだ。

 召装具(シクザール)を発動し、右腕を切り落として以降、刀條の攻撃は(ことごと)く弾かれ逆に異獣の攻撃を防ぐ事が増えていた。


「ふぅ、効果的な攻撃をしようにもこのままだと刀の方がダメになるし・・・困ったわね。」


 国宝級の刀身にまだ刃毀(はこぼ)れはないものの「通常の刀」である以上、どうする事もできなかった。


「──殺り辛いわね、正直・・・・はぁ、私は何を弱気になってるんだろう・・・ッ!」


 異獣の攻撃をギリギリでかわした刀條は少し間合いを取り、先程とは違う構えをしだした。上段に構えつつも切っ先を前にし、刀身は右側を向け重心も低くした。


「刀が耐えられるかわからないけれど、やらなきゃ殺られる世界よね。──刀條流(とうじょうりゅう)抜刀術皆伝(いあいかいでん)参乃型(さんのかた)羅刹(らせつ)】!!」


 一瞬で間合いを詰め、胸部を中心とした八斬撃を繰り出したのだ。

 異獣の胸部は裂け血が飛び散ったと同時に叫び声を出した。刀條の攻撃は大ダメージを負わせる事が出来たものの刀への負担も大きく刀の柄部分を残し、刀身が砕けてしまう程だった。


「──金森さん、ありがとう。」


 次の瞬間、背後から猛烈な殺気を感じ取り振り返ったが、既に左腕が首元まで来ている状況だった。


「かはっ!」


 不覚にも刀條は首を掴まれて持ち上げられようとしていた。必死に抵抗──掴まれてる手を外そうとしている──するも全く動かない。それどころか異獣はこの状況を楽しんでいる様にも見えたのだ。

 胸部を見れば強靭だった皮膚が切り裂かれ、おびただしい量の血を流していた。

 徐々に締め付けられる首から右手を伸ばした刀條の先には唯の姿があった。

 遠退く意識の中、聞こえないであろう声を唯に発したのだった。


「──ゆ─い───ご──ご─め──ん───ね────」


 言い終わった刀條の手から次第に力が抜けていったのだった──。




 唯はどうしていいのかわからなかった。

 このまま刀條に言われた通り隠れているべきなのか、目の前の戦いに加勢すべきなのか──いや、加勢は(むし)ろ邪魔になるであろう──。


「こんな事になる位なら何にもない平凡な日々で十分だよ・・・なんなんだよ・・俺達が何したってんだよ──」


 俯いたままだったが、視線を刀條に向け直すとそこには異獣と対峙する姿があった。

 左腰辺りに刀を構えて何かを喋った次の瞬間、彼女の姿は一瞬で右側から左側へ移動していた。後から上がる土煙が猛烈な速さだったことを物語っていた。

 余りにも突然の事で目を見開く事しか出来なかった。しかし驚くべきはそれだけではなかった。

 なんと異獣の右腕を切り落としたのだ。叫び声をあげる後ろで刀身の血を振り払う姿は勇ましいとさえ感じてしまう程だった。唯は彼女のこんな姿を見るのは初めてだった。


「え?か、勝てる!おい、なんだよ華耶の奴、あんなの隠してたのか?あははは!てか、ずっと変だったしな・・・なんかこう、いつもと雰囲気違ったしよ。ッ!こ、これがかの有名なギャップ萌えってヤツなのか?・・・いやいやいやいや。」


 視線を落としながら独り言を呟いている自分が少し恥ずかしかったが視線を元に戻した瞬間、違和感があった。


「・・あれ・・・?アイツ・・あんなに、デカかったか?」


 遠目でハッキリとまではわからないが、2倍まではいかないものの1.5倍程巨大化している様に思えたのだった。あまりの体格差に目を疑うばかりか、硬質に見える皮膚も異様極まりなかった。

 そんな異獣の姿を目にした瞬間だった。突然、胸の痛みに襲われたのだった。

 痛烈だった。まるで内側の、それも心臓を締め付けられている様な──そんな感覚だった。


「ッ!・・な、なん・・だよ・・・こ、こ・・れ・・・ぅぐっ・・」


 痛む胸を左手で掴み、右手は地面について体を支えていた。徐々に強まる痛みに比例するかの如く、右手にも力が入った。やがて乾いた地面に指が食い込み、固い土を砕くまでに至った時だった。


──・・ジ・・・シ・ト・・レ──


「な、なんだ・・頭の・・・中に・・響いて──」


──(なんじ)(われ)憑代(よりしろ)()レ──


「ふ、ふざけ・・るな・・・ぐッ!な、な・・んなん・・だよ・・・ちくしょ、ぅぐッ!」


──汝、我ニ(ゆだ)ネヨ──


 頭に響く不気味な声に反応するかの様に体に何かの模様が浮かび上がってきたのだ。体に浮かび上がる模様は紅く、その模様は一本の線を筆書きしたように描かれており、更に軸の線から枝分かれした線を湾曲に延びる様に浮かび上がっていた。浮かび上がる模様に痛みはないものの、抵抗の意を示す様に全身に力が入った。


──・・・あぁ、もぅ面倒なヤツじゃなぁ~・・さっさと力を抜かぬか!憑依出来んじゃろが、このたわけ者が!あの女子(おなご)が死んでもええのか?──


「・・・え?」


 突然の怒鳴り声に反応する様に落としていた視線を正面に向け直すと、そこには異獣の左手が刀條の首を鷲掴みにして宙に浮いている姿が目に入ったのだ。

 刀條の手がこちらに向いて伸び、そして何かを伝えようとしているのか口が少し動いていたが、手から徐々に力が抜けていくのがわかった──。


「か、華耶ッ!」


──あぁ、マズいのぉ・・・致し方あるまい・・負担はあるが、強制的に代わるかの。まぁ、・・れじゃ・・だ・・んか・・い・・・ん?・・とる・・・・──


 頭に響く声と共に急激に意識が薄れ、目の前が真っ白な世界に落ちていったのだつた。




 刀條は絶望的な状況下にあった。抵抗する力は既に残されておらず、掠れゆく視界には異獣が口を開け迫って来るのがわかる程度だった。


(あぁ・・もう駄目ね・・・笠神くんの事、護りきれなかった・・違う、そんな事じゃない・・・私、最後まで素直になれなかった・・もっと・・もっと一緒にいたかったなぁ・・・)


──もぅ、諦めたのかの?──


 突然、聞こえてきた声に反応する様に閉じかかっていた瞼に力を込めた。目が半分位開いたと同時に異獣の体がくの字に曲がり、首を掴んでいた手も離れたのだった。声の主は刀條が離された瞬間にもう一度攻撃をしかけた為、異獣は吹き飛ばされていた。

 刀條は地面に落下はせず、そのまま誰かに抱き抱えられたのだった。


「おーぃ、諦められたら妾がこの小僧に憑依した意味が無くなってしまうじゃろうて・・とはいえ、今は耳に入らんかの。仕方ないのぉ、さて──」


 少し離れた場所にほぼ意識を失いつつある刀條を優しく横にすると異獣に体を向き直した。


「ぅんん♪外は久々じゃの~♪・・・しかし、この洋装はちとキツいのぉ・・胸の辺りが(きゅう)く・・ありょ、ボタン飛んでいきおったな。まぁ、致し方ないの。さて、妾もあまり長時間の憑依は出来んでな・・名残惜しいがこれで幕引きといこうかの。」



 刀條は微かに意識を取り戻すと生きている事に少し驚いた。そして唯が無事なのかが気になり激しい痛みに襲われつつもなんとか上体を起こす事が出来たのだった。

 しかし周りを見渡すも唯の姿はなく、代わりに少し離れた場所に異獣と見たことのない者がいたのだった。

 その者は透き通る様な白い肌に紅い模様がとても印象的だった。

 その模様は一本の線を筆書きしたように描かれており、更に軸の線から枝分かれした線は湾曲に延び、所々に点や文字の様な物も描かれていた。

 頭髪は金色の長髪で腰の辺りまで届いている。長髪は毛先付近で纏められており9束になろうか、纏めている装飾は黄金に輝く金属の髪止めをしていた。

 体躯は全体的に細く肩幅も狭かった。しかし、一目で女性とわかる胸の膨らみは遠目で判別出来る程だった。


「でも、なんで男子制服を着用し──え?もしかして!」


 一瞬視線を反らした刀條が再び視線を戻すと既に決着がついた様だった。

 視線の先には上半身の無くなった異獣とゆっくりとこちらに向かって歩いている謎の女性の姿があった。

 余りにも呆気ない決着にただただ唖然とするしかなかった。

 その女性は目の前までくると刀條の頭を優しく撫たのだった。

 目をぱちくりさせている刀條に対して満面の笑顔をみせる女性──。


女子(おなご)、なかなかやるのぉ♪名はなんと申す?」


「え?え?あの──刀條・・華耶です。」


「華耶と申すか♪妾、強い女子(おなご)は好きじゃ、覚えておくぞ♪妾は狐珀(こはく)じゃ、ところで、すまぬが少々眠くての・・・悪いが脚を借りてもよいかの?」


「え?えっと・・・その、それは、膝・・枕って事でしょうか?」


「おぉ、そうじゃ♪そうじゃ♪ほれ、そこに座ってだの、そうじゃそうじゃ♪・・ふぅ、やはり女子(おなご)の膝枕は格別じゃのぉ♪ふぁ~・・流石に体力の・・限界じゃ・・・こぞ・・もっと・・鍛え・・・」


 すやすやと寝息をたてだした狐珀の周りに突如煙──無味無臭の煙──が全身を覆う様に立ち込め、その煙が消えるとそこには唯の姿があった。


「やっぱり笠神くんだったのね・・なら琥珀は笠神くんの召装具(シクザール)って事なのよね・・・意思を持つ召装具なんて聞いたこと・・・あれこれ考えても仕方ないわね、まずは会長に連絡を取らないと──」

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