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隠された真実④

 金森は異獣目掛け走りだし、今までの経験の中でも味わった事のない完璧なタイミングで踏み込んだ。それと同時に胸が高鳴っている事を感じた。集中もしている金森が狙う場所は一箇所だけだった。


「(狙いは右腕!その後は永井の仇、膾切り(なますぎり)にしてやる!)──ハァァァァ!」


 金森の刀身が異獣(ヴァインフルグ)の右腕を斬りかかるその刹那──金森の視界が一気に横に流れたのだ、それも凄まじい勢いで──。

 そのまま地面に叩きつけられながら七回転程して(ようや)く滑る様に止まった金森は何が起こったのかわからず、立ち上がろうにも激痛が襲いまともに動けそうになかったが、だからといって悠長に出来ないのもまた事実──まずは頭を降りながらゆっくりと立ち上がろうとしたが、やはり異常なまでの痛みが側腹部を襲う。


「ううぅッ・・・な、なんなの・・どうなってるの・・・ぅッ・・・」


 呼吸する度に襲う尋常ではない痛み──それもその筈である。異獣が放った攻撃は無防備な側腹部へ直撃し肋骨を三本折られていたのだった。

 金森はここで疑問抱いたのだ。そう、何かが変だった──痛みに堪え、自身の側腹部を見る。

 攻撃を受けたのは右側の側腹部──右脇腹辺り──だった。仮に左足で蹴られたのなら重心が傾き右腕も僅かながら動くだろう──が、傾いた様子も腕が動いた様子もなかった・・・なら何故か──。

 徐々に視界が戻ってきた金森は異獣を見るや驚愕し、そして恐怖した──。


「な、なんで──ど、どうして左腕が・・ぅッ!」


 先程までなかった左腕が確かにある事が全く理解が出来ない──しかし、そんな嘘みたいな現実でも受け入れるしかなかった。

 金森は柄を握り直し、痛みに耐えながらもゆっくりと立ち上がった。そして立ち上がった後に痛みを振り払うかの如く、刀を斜め下に向かって一降りし再び構えた。


「まだ・・まだ終わりじゃない!アンタに・・・アンタなんかに、殺されてたまるかぁぁぁ!」


 咆哮と共に力強く駆け出した先には、口から牙を剥き出しにしている異獣が右手をまさに振り上げようとしていたのだった。




「なぁ、異獣ってマジかよ!だって授業じゃ、絶滅したって──」


 問い掛ける唯に対して十条は首を横に振った。


「いいえ、それは間違いよ。絶滅なんてしてないし、今までだって異獣は不定期ではあったけど出没していたの──ただ、混乱が起きないように情報は規制されている・・・だから一般人は知らされていないの。それに出没頻度もそれほど多くなかったの。でも、ここ一、二ヶ月の頻度は異常ね・・・私達では対応しきれなくなりつつあるわ。現にこうして対応が追い付いてな───」


「ちょっ、ちょっと待ってくれよ!──対応?なに言ってんだよ?それじゃまるで華耶が──」


「──えぇ、戦っているわ。それもこの学園に入学するずっと・・・ううん、昔話はやめましょ。少し話過ぎてしまったわね──。彼女と離れたのはあの辺り・・・ッ!笠神くん、少し急ぎましょう!」


 険しくなる十条の表情を見た唯は視線を前方に向け背筋を嫌な汗が伝うのを感じた。

 視線の先にある筈の永井の屍骸が消えていたのだった。

 辺りには血腥い(ちなまぐさい)匂いが立ち込めているのだろうか、血の独特の腐臭が強くなってきたのを感じとり唯は吐き気を催した。

 永井がいた辺りには血溜まりと肉片とおぼしき物が散らばっていた。


「こ、これ、なんだよ・・・」


「・・・。」


「答えてくれよ!これは異獣がやったのか?!」


「・・・そうよ。永井さんは食べられたのよ・・・。」


「──!!嘘・・・だろ?」


「本当よ、人間を食べることで体の傷を回復することが可能なの。勿論、時間は少しかかるけれども切り落とされた体も生えてくる・・・さっきの異獣は左腕が切り落とされていたわ・・・」


「おいおい・・・てことはもしかして──」


「そう・・あれから暫く経つわ。きっともう回復してると思うの・・・」


「マジかよ──」


 十条の話を聞いて足を止めそうになった唯の視界に、金森と思われる足跡を見つけた。その足跡は真っ直ぐ訓練施設に向かっていた。


 「──!これって金森が逃げたってことだよな!あいつ助かったんだな!」


 唯は少し安堵の表情を浮かべ十条の表情を軽く伺いたが、彼女は下唇をグッと噛み締めていたのだった。


「まだ助かってなんかいないわ!よく見て!異獣も金森さんを追ってる!このままじゃ彼女が危ない!」


 確かに十条の言うとおりだった。金森が危険な状態である事に変わりはしなかったのだ。

 より一層表情が険しくなる十条に唯は何も言えなかった──その時だった。


「あ゛あ゛ぁぁあ゛ぁぁぁ!!」


 訓練施設の方から喉を締め付けられた様な──最後に残った息を体から押し出す様な──悲鳴が響いたのだった。

 十条は唯の肩から腕を離すと同時に一気に走り出した。唯は呆気にとられ動き出しに遅れたものの十条の後に続いて走り出した。



 十条が突然立ち止まった──。その先には訓練施設と武装倉庫があるのだが何か様子がおかしかった。唯は十条に近付くにつれその違和感の原因を感じ取っていた。

 違和感の原因・・・それは匂いだった──。

 先程嗅いだ匂い、血腥い独特の腐臭が強くなってきたのだ。

 腕で口と鼻を覆いながら十条に追い付いた時だった。


──パキッグチャグチャゴキバキッグチャグチャ──


 硬質な物と軟質な物が潰される様な変な音に唯の視線は固定されていた。

 唯の視線の先には無惨に貪られている金森──左腕と右足しか残されていない──がいた。

 唯は耐える事が出来ずその場から少し離れた場所に急ぎ移動し嘔吐してしまった。

 十条は目の前の地面に刺さっていた金森の刀を抜き取った。


「笠神くんはそのままそこで隠れていて──異獣は私がなんとかするから。」


「か、華耶?」


「──大丈夫、私を信じて。それと──」


 十条はゆっくりと目を閉じた──。


(金森さん、ごめんなさい。私、貴女を助ける事が──許されないのは重々承知してますが、私は武装を持ち合わせていなくて貴女の刀をお借りしなければならない。──長篠一文字(ながしのいちもんじ)お借り致します!)


 十条は異獣に向かってゆっくりと歩き出した。


「笠神くん、私は貴方を護る為に全力で戦います。偽りの十条華耶(とうじょうかや)としてではなく、風御学園生徒会副会長の刀條華耶(とうじょうかや)として──」


 異獣を前にし刀條の動きが止まり鞘はないが刀を左腰辺りに留め、居合いの構えをしたのだ。


刀條流(とうじょうりゅう)抜刀術(いあい)皆伝(かいでん)壱乃型(いちのかた)瞬閃(しゅんせん)】──お前に私の太刀筋が見えるかしら?」


 刀條の眼が黄色く変色した次の瞬間には異獣の後ろに立っていた。

 ドシャっと音と共に異獣の右腕──正確には肘より少し下辺りを切断した──が地面に落下したのだった。

 刀條はゆっくりと振り返り、痛みで叫びをあげる異獣に対して刀を向けた。


「不様ね・・・でも、簡単に殺してなんかあげない。それだけの事をしたんだもの、当然よね。」


 再び刀を構えたその時、異獣の体に異変が起きたのだった。

 筋肉が波打つ様に動き出し太い血管と思われる筋が幾つも浮かび上がっていた。徐々に盛り上がった筋肉で体躯は先程の1.5倍近くになり、おまけに体長も2メートル近くまで高くなっていった。

 加えて筋肉の表面の硬質化──皮膚の表面が岩石の様にも見える──が進み、動きがぎこちなくなってはいるものの刀で相手にするには少々歩が悪くなってしまった。


「どういうこと?いくら覚醒者(ペネトレイター)を捕食したとはいえ変化するのが早過ぎるわ・・・それに巨大化と硬質化?・・・やっぱりおかしい。二つの変化なんて今までなかったわ──ううん、今はあれこれ考えていても意味はないわね。あまり嬉しい組み合わせじゃないけどなんとかするしかないわ。」

 刀條は唯のいる方向に視線を送った。

 唯は先程の場所で(うつむ)いており表情までは伺えなかったが、動いた様子がなかったことを確認した。


「笠神くんは、私が絶対に護るから──。」


 決意を新たにした刀條は視線を戻し、再び刀を構え直したのだった。

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